番外編 形成された水牢・男VS女Ⅰ
八月下旬。夏休みの終わりが見えてきた今日はお出かけには絶好の日和だ。
目覚めの良い朝を迎えると、自然とテンションが上がる。
うーーーっ、うーーーっ……
「さあーーーーって、遊ぞーーーー!」
昨日のうちにまとめてあった着替え、お菓子などのカバンを確認し、着替える。
私服の下には海パンを履いておく。目的地に着いた時、速攻で遊ぶためだ。
……そう、暇な夏休みを送っていたオレ、天条心二に今日は予定がある。
去年より工事していたスパイラルプールが今日よりリニューアルオープンするところへ皆で遊びに行くのだ。
友達とプール、女子とプール、水着とプール。
ふっふっふ、楽しみだっ。
「姉ちゃん、オレ出かけてくるからー!」
家中に聞こえる声で言ったのだが返事がない。
あれ?もうどっかに出かけたのか?
居ないなら居ないで、オレは鍵をかけて出かけるだけだ。
いざ、最高の一日を過ごしに‼︎
オレは勢い良く家を飛び出して行った。
集合場所はスパイラルプールの最寄り駅、橿原駅だ。
電車に乗り目的地に着くまで持ってきたラノベを読み始める。ラノベが積んできて大変大変。
「おー、心二か?」
停車した駅から乗ってきた美男子に声をかけられた。
「奏ちゃん!おはよう!」
「奏ちゃん言うな!……おはよーさん‼︎」
相変わらずのツッコミに思わずにやける心二。この美男子かつ美少女の容姿を持つ彼は太刀川奏也こと奏ちゃんである
ー可愛いなぁ奏ちゃん。奏ちゃんマジ天使。ー
「奏ちゃんが乗ってきたってことは……もうすぐ着くな。」
案外すぐに着くもんだなぁ。ラノベ読んでたからかな。
「優璃たちとは会わんかったんか?」
周りを見回して奏ちゃんが尋ねる。
「一緒に行こうって言われたんだけど、オレギリギリまで寝たいからさ」
あいつら集合時間早いんだよ……六時に起きねぇと間に合わない時間帯に集合かけるとか正気じゃない。
「そういえば奏ちゃん遅くない?時間ギリギリだから誰にも会わないと思ったんだけど」
「いやー、昨日夜遅くまで新刊の漫画読んどったからなぁ。お、もう着くみたいやな」
次の駅に間もなく停車するという車掌さんのアナウンスが車内に放送される。
時間も本当にギリギリだが間に合う。
のんびり電車から降り、すぐ近くのスパイラルプールを目指し歩く。歩くといっても五分ほどで着く道のり。
ルンルン気分でスパイラルプール前へ着いた時、オレ達は驚愕した。
「うっわ……マジか。」
スパイラルプール前は来場者であろう人々が溢れかえっていた。
「まぁ今日からオープンやしな。この混雑も当たり前か。」
確かにそうだけど……とにかく先に来てるであろう優璃達と合流しなければ。
とは言っても、あいつらももうチケットは買ってるはずだ。オレたちも入場口の裏手にあるチケット売り場へ向かう。
……チケット売り場はさらに人がいた。長蛇の列がチケット受け付けカウンターの前に成されていた。
「……多すぎでしょ!」
さすがの奏ちゃんもめんどくさそうな顔をしている。
「これは……三十分は待たなあかんパターンのやつやな。」
いやぁ、ほんと……お前ら新しいものに釣られすぎだ。
プールなんかに来てないでマクド行ってろマクド。
「とりあえず優璃に電話してみるよ」
この長蛇の列に並びながらできることを考えた結果、やはり合流をスムーズに出来るように優璃たちと連絡を取るのが先決だろう。
スマートフォンを取り出し番号を発信する。わずかワンコール目で出てくれた。
「心二?今どこ?」
繋がった優璃の声に混じって、周りの人達の声が雑音となって耳に伝わる。
「今チケット売り場並んでる。奏ちゃんもいるぞ」
「奏ちゃんだけ?守郎と一緒じゃないの?」
何だと?守郎もいないのか?
「守郎?……オレ達は会ってないけど…?」
アイコンタクトで奏ちゃんに尋ねるが首を横に振る様子を確認して優璃に再度尋ねる。
「とりあえず合流しよう。今どこにいんの?」
「今は入場口の最前列だよ。チケットも買ったし、あとは開場時間まで待つだけ。」
「確か、九時開場だっけか。」
スマホの画面を確認すると、今の時刻は八時五十三分。チケット売り場のこの混み具合を見れば、定刻にスパイラルプールへ入場することは不可能だろう。
優璃達は最前列にスタンバイできてるみたいだし、あいつらには場所取りをお願いしよう。
「オレらはまだチケット買えなさそうだから、悪いけど場所取りしといてくれないか?」
「まかせて!んじゃ陽志、入場口が空き次第走って場所確保してきてね♪」
電話越しから陽志の不満を漏らす声が聞こえる。うわぁ使われてやんの。
「んじゃスパイラルプールん中に入れたらまた電話するな……ちゃんと出てよ?」
「へいりょーかい!」
威勢のいい返事を最後にオレは電話を切る。
奏ちゃんに現在の状況と優璃たちのことを伝える。
まだまだ時間はかかりそうなので今度は守郎に連絡を取ることにした。
「守郎?今どこだ?」
繋がった守郎の周りの声がやけに静かなのが気になる。あいつ、まだスパイラルプールに着いてすらいないのか?
「心二か…?悪い……少し遅れる。」
ただそれだけ告げると、守郎は電話を切ってしまう。
おいおい待てよコラ!
再度コールする。
「なんだよ、遅れるっつってんだろが‼︎」
「なんで遅れるかぐらい話せや不良‼︎」
電話越しで飛び交う怒号、隣の奏ちゃんが声量を抑えるように人差し指を唇に立てる。
あー可愛い!怒りが静められるぅぅぅ
するとはぁ、と何かを諦める守郎のため息が聞こえる。
「……腹壊して今出かけられねぇんだよ。」
は?腹を壊した?
……。
「ぶふっ」
「あ!今お前笑っただろ!死ね‼︎」
おっと、つい吹いてしまった。
「あはは、悪い悪い。つぅかなんてタイミングに腹壊してんだよ、お前はアレか。明日の遠足に持って行くお菓子を我慢できずに食べまくって腹壊す小学生ん時のオレか‼︎」
「知らねーよ。分かっただろ?だったらゆっくりうんこさせろ。」
「へいへーい」
あー臭い臭い。こっちまでうんこしたくなってくるわ。
さっさと電話を切ると奏ちゃんに守郎がトイレで気張ってることを包み隠さず伝え、待つこと十分。
ようやくあと少しでチケットが買えるくらいにまで列が進んだ。
「もうちょいでチケット買えるな!奏ちゃん♪」
「せやなー……奏ちゃんゆうな」
チケットを買い、入場口に戻って来た時にはすっかり人は空いており、時刻は九時十五分過ぎ。とっくに開場時間は過ぎており、スパイラルプールからは賑やかな声が聞こえてくる。日差しが照りつけるこんな気温だ。プールの温度はちょうどいいんだろうなぁ。
入場受付のおばさんにチケットを渡しスパイラルプール内へ入る。
「ほな、探そか!」
無邪気な笑顔を浮かべ、スキップで地を駆け出す。ああー、可愛い。あの容姿だからこそ許される行為だよな。
オレなんかがにやけながらスキップしだしたら逮捕されるわ。
プールサイドまでの道のりには花が咲き乱れており蝶々が舞い飛んでいる。
花道を抜けると入場口前で抱いた印象を再び思うのだ。
賑やか……つうかここまで来たらうっせぇな。
スパイラルプールのプールサイドに足を踏み入れる。
目の前の円形キッズプールでは子供達が親御さん達と水かけしたり追いかけっこしたりと楽しそうにしている。あ、幼女だ!幼女がいる!
キッズプールの左右にはテントが張られたお客様専用の陣地がスパイラルプールの奥の方まで広がっている。
このテントの張られた陣地のどこかに優璃達が陣地取りをしているはずなんだが。
「やっぱりぎょーさんおるなぁ。今来たら確実にわいらの陣地ないわ」
確かにその通りだ。昼の長い休憩時間にテントの下で休めないなんて地獄だ。陣地取れないなら帰りたいと思うくらい。
「おーい、こっちこっち。」
左手のテント沿いに設けられているトイレの壁にもたれている狭山陽志に声をかけられた。
「おー、よかった。電話かける手間省けたよ」
優璃たちのいる場所を案内してもらうため先を急かそうと進むが、陽志は待て、と手で制した。
「なに?早く行こうぜ?」
早く優璃たちの水着見たいんだよ!
「……今くーちゃんがトイレ行ってんだよ。もうちょいで出てくるから待ってろ。」
な、なにくーちゃんだとぉ⁉︎
どんな水着だろー。ワックワクのドッキドキ。
トイレの入り口に溜められた消毒水にピチャッと水面を揺らす音が聞こえる。
あはっ、ついに帰国子女の美少女さまの水着が……、み・ず・ぎ・が‼︎
女子トイレから出てくる人をガン見するのは些か心が痛くなるような気もしなくはないが、そんなことは対した問題ではない。水着美少女、水着美少女!
……うわ、オレ最低なこと言ってんな。
しかしトイレから出て来たのは黒髪のお姉さんだった。
うわぁ、胸デカい!くーちゃんといい勝負するくらいはあ……る……ぇ?
お姉さんと目が合ったオレは自分の目を疑った。
この見慣れたお顔の巨乳さんは……
「あれ?しんくん?」
「なんで姉ちゃんがここに⁉︎」
なんとなんと、朝からいないと思っていた我が姉、天条紅空が偶然にも外出先で出くわしてしまったのだ。これはもしや運命?結婚しよう姉ちゃん!
「え?このお姉さん心二のお姉さんなのか⁉︎」
壁に体重を預けていた陽志が目をひん剥いて驚く。
「いやぁ、待ってる時に随分綺麗なお姉さんがトイレ入ってったなぁと思ってたんだ……こんにちはお姉さん、僕狭山陽志と申します!」
……なんだこいつ、こんな陽志初めて見た。
「あははぁそっかそっか!トイレ入るとき妙な視線感じるなと思ったら君だったのー。天条紅空よ、よろしくね♪」
「あ……はい。すいません」
うわー、姉ちゃんの毒舌なんてなかなか聞けねぇぞこれ。この二人おもしれー。
「おやおや?そっちの子もしんくんの友達?」
隣で控えていた奏ちゃんを見て紅空は尋ねる。
「あぁ、友達の奏ちゃん。」
「奏ちゃんゆうな!」
すると姉ちゃんは奏ちゃんにニヤニヤ視線を向けながら抱きしめる。
「はぁーーーん。しんくんまたこんな可愛い女の子を連れてー、罪なやつだねー。」
言いながら奏ちゃんの頬をスリスリする姉ちゃん。
っておい姉ちゃんオレの奏ちゃんに何密着してんだ離れろー‼︎
「ま、待ってくれ紅空さん!思春期真っ只中の高校生にそんな羨ましい……じゃねぇや、そんなスキンシップしたら……!」
あ……そうだ奏ちゃんは男の子だった……。
忘れかけていた現実に再び目を向けてしまうオレに、もう一度夢を見せてくれたのはやはり奏ちゃんだった。
「ちょ……ひゃ、ひゃめて……やめ……」
姉ちゃんに抱きつかれ密着される奏ちゃんの顔は真っ赤に火照り、目が泳ぎぎまくっていた。
ああああああああぁぁぁ‼︎何その反応、エロいって!エロいってぇぇぇぇぇぇ‼︎
やっぱり奏ちゃんはオレにとっての女神さまだ。
しばらくすると力尽きたようにその場に伏せる奏ちゃん。
「え?どしたの奏ちゃん!」
抱いていた奏ちゃんがいきなり倒れるものだから姉ちゃんはあわあわしながら尋ねる。
一方の奏ちゃんは股間を隠しながらしゃがんでいる。
「……わ、わいは男や‼︎決起盛んな男子高校生がナイスバディなお姉さんに水着姿で抱き付かれたら……こうなるやろーーーー‼︎」
半泣き状態になりながらも決して泣かない。
もう、ホンットに……奏ちゃんマジ天使。
「……トイレの前で何してるの?」
トイレから出てきたくーちゃんにオレは魅了された。
ナイスバディすぎる。というか高校生が着るビキニは全て色気があるとは思うのだが。
そんな破壊力を持つビキニをくーちゃんクラスのボディを持つ女の子が着ると……うむ、すっごい。
しかし少し水着の柄が幼い!……いや、むしろ大人な身体のくーちゃんが幼い柄の水着を着ることによって今オレの目の前に存在するエロスがあるのではないか?
「とりあえず優璃たちのところに行こう。」
くーちゃんがそそくさと行ってしまう。
「つーか、長いトイレだったなぁくーちゃんよぉ。」
先を歩くくーちゃんに向かって陽志はとんでもないことを言った。
お前正気か⁉︎なんで美少女とお近づきっつうか仲良くなれてんのにそんな嫌われるようなこと言えるの⁉︎マジクレイジーボーイだぜぇ。
「……ーら。」
何事か口にしたくーちゃんに陽志は何だって?と聞き返す。
「……死んでくれないかしら。」
再び口にしたくーちゃんの棘を含む言葉は威力抜群。オレくーちゃんにこんなこと言われたら死を選ぶレベル。さっさと死ねよ陽志。
「たはは、まぁ待てよくーちゃん!この美人な人、心二のお姉さんなんだぜ?」
姉ちゃんに手先を向けてくーちゃんの注目を引く。あー、そういえばくーちゃんも知らなかったっけか。
くーちゃんは姉ちゃんに視線を向けて、近づいて来る。そんな姉ちゃんの表情はと言うと……、うわー顔緩みまくってますわ。変態の顔ですわー。
「おやおやおやー、これまた美人な女子ではないかー」
見ての通りテンションも変態だ。……だがそれがいい!!
「……えと、弥富深海…です。」
名前を名乗り頭を下げるくーちゃん。対してウチの姉ちゃん。
「深海ちゃん!?可愛い名前!アックアて呼んでいい?」
アックアだと!?どこの神の右席だ。
「……よろしくお願いします。」
「んー、そんじゃ私は友達んところ行ってくるねー!みんな夏休みはあと少しなんだから楽しむんだよー?」
大きく手を振りながら姉ちゃんは人波を作るほどの盛況を見せる流れるプールへと消えていった。
「……さて、と。とりあえずは確保した陣地に案内してくれないかな?」
ようやくオレは陽志に尋ねた。
そしたらアイツ、何て言ったと思う?
「……あー、それなんだが…。」
「……あ?」
陽志はまったく悪びれる様子もなく言い放った。
「場所取れんかった。」
「……よし、溺死させてやる。」




