番外編 作業の効率化を図るため、彼は向かった。
「とりあえずマクド」そんな一言を若者の間でよく聞く。
例えば放課後。
友達と集まって暇潰し。だけどカラオケに行く金ないよーなんて奴がほとんど。今からなにするぅ?なんて問いかけが投げられた時。
彼らは短くこう言う。
「とりあえずマクド行くか。」
はいこれで解決。かいけつゾロリくんである。
……例えばお昼。
朝から遊んでる彼らはもちろんお昼も外で済ませる。
さぁて困ったぞ。何を食べよう。
そんな時、彼らは迷わず選択する。
「とりあえずマクド。」
とりあえずポテト。でも可である。
…………例えば。
テスト期間、もしくは集中したい時。
家では色んな誘惑に勝てない。図書館とか静かすぎる。適度な雑音が必要な者だっているはずだ。そんな彼らの脳内は厳しい条件から一つの施設を連想させる。
「……まぁ、とりあえずマクドだろ。」
そんな訳で私、天条心二は大手ファストフード店マクドナルドにて、暇な夏休みに出来た来週の予定を心ゆくまで楽しむため、今週中に夏休みの課題を片付けることに決めたのである。
ポテトを摘まみながらマクドに籠って二時間。
最大の難関である数学のワークを遂に片付け、残る現国のワークに地理のワーク、科学のワークに英語のワークのどれを片付けようかと迷っていた。
……めっちゃあるな。
ええい休憩だ‼︎
オレは一息入れるべく大きく伸びをしてから席を立ちポテトのオーダーを伝えに行く。
お前ポテト好きだな、おいポテト。
とか思ったお前、ざーんねん次はチーズポテトディップでしたぁ。
……どっちもポテトじゃねーーかっっっ
つうノリツッコミからも分かる通りオレってばだいぶ疲れてる。
癒しが欲しいー、癒しが。
女の子に抱きしめられたいー女の子に。
もうポテトと一緒にスマイルくださいって言っちまおうかなぁ。
レジ前まで来ると丁度店員さんは女の子だ。
ふっふふ、運が回ってきたな。
さぁ頼むぜぇ、スマイルを‼︎
オーダーするべく数人並んでいる列に加わる。
「おや、心二くんじゃないか。」
すると、後ろから聞き慣れぬ大人な声音の女の人から声をかけられた。
オレはすかさず振り向く。
振り向きざまにオレの視界に写った女の子……いや、女性とも表現すべき彼女は先日に初めてを言葉を交わした我が桜南高校風紀委員長、青山礼愛先輩だ。
「青山先輩じゃないですか、どうしたんですか?」
青山先輩の後ろの入り口ドアを見ると付き人はいないらしく一人でマクドに入店したらしい。にしても青山先輩の私服エロいな。胸元がすんごい。見る角度的な問題じゃなくてもうどっから見ても谷間が出来てるもん。
優璃から聞いたけどこの人ファンクラブまであるらしいんだよな。その名も『青山先輩ガン見同盟』。そりゃあの優璃がアホみたいな顔して眺めるわけだわ。オレもファンクラブ入らせてもらおうとしたら入隊条件って幾つもある項目の中に『画像フォルダに青山礼愛大先輩専用フォルダを作っていること』(条文通り)なんてのがあったからな……。なんだよそれ、変態しか入隊出来ないじゃないか。
だから作ったよぉ?青山先輩尽くしのフォルダ。画像フォルダのタイトルも重要っつうから必死に考えた結果、オレのシークレット画像フォルダに『抱きたい女神フォルダ』なんてのが入ってるよぉ?
そして隊員ナンバー893のオレは驚愕したよ。桜南高校全生徒は1000人いるわけだけど、半数がこのドン引き同盟に加入してるってわけなんだよな。
青山先輩がこの事知ったらドン引きだわな。
「む?普通にポテトを食べに来ただけだぞ?」
そんな人気者の青山先輩が一人でマクドってのも変な感じだけど、オレはそんな事聞かずに話しをする。
「ポテトおいしいですよねー!オレもポテト頼もうかと思ってんたんですよ、そうだ、奢りますよ!」
「おいおい、私は仮にも風紀委員長だぞ?生徒から……しかも後輩に奢らせるわけにはいかない。私が奢ろう」
オーダーを済ませ、ポテトを渡されるまで青山先輩と雑談を交わす。っていうかこの現場を例の同盟メンバーに見られたら殺されるなオレ。
「そういえば心二くんは一人なのか?連れがいるなら私は一人でポテトを加えているが……」
「一人で夏休みの課題っすよ。まったく終わんなくて」
「本当か⁉︎なら同席しても良いか?……って、課題の邪魔か…な?」
笑顔いっぱいの顔を向けられすぐにしゅんとした表情を浮かべられる。
おいおいそんな顔しないでくれよぉぉ罪悪感が芽生えて何か申し訳ないよーーーゥ。
「とんでもないですよ!青山先輩と喋れるなら課題なんてやんないっすよ‼︎」
「そ……そうか。悪いな」
言いながら青山先輩は凄く悲しそうな表情を浮かべた。
「え⁉︎もう課題終わらせたんですか⁉︎」
ポテトを摘まみながらのお・と・な、な青山先輩との会話の中で彼女自身の色んな事がわかってきた。
成績は残念な有り様だが、真面目な彼女は七月中に課題を終わらせたみたいだ。さすがは風紀委員長!マジ尊敬する。
そんでもって夏休みの思い出は一人で映画に行ったことくらいらしい。笑って話せるその自虐っぷりは見ていて凛々しい。
ファンクラブは出来てるのに案外親しい友人はいないようだ。
オレでも青山先輩の仲良さそうな先輩として思い当たる如月雫生徒会長とはどうなんだろうか、この辺がすごい気になる。
「まったく、私も友達と遊んでみたいものだ」
そう漏らす青山先輩に思い切って言ってみる。
「会長さんとはどうなんですか?補習ん時は仲良さそうでしたよ?」
オレの一言に青山先輩はまたしてもひどく悲しい表情を浮かべる。
「……仲良く見える……のか?」
不信げに尋ねる青山先輩にオレは優しめの口調で答える。
「青山先輩って会長以外とあんな風に喋ります?」
反応を伺うと案の定そんなことはなく、オレの予想は確信へと変わる。
「オレには会長と喋ってる時の先輩がとても楽しそうに見えます。つまりは、そういうことです。」
例の同盟に加入してから、色んな青山先輩の画像を仕入れて3日。相当な数を集めてきたが、いい表情をしている時は決まって、画像の端には会長が写っている。
「……そうか。」
少し笑うと息を吸った青山先輩は呼吸を落ち着けて言った。
「……今からすごいカミングアウトをするが、いいか?」
え?すごいカミングアウト?なんだろう、すごい気になる。
「い、いいっすけど。大抵のことでは驚きませんよ?」
言ったなぁ?と悪戯な笑みを浮かべる青山先輩のレア顏が目の前にあるのに……激写できないのがすごい悔しいっ‼︎せめて目に焼き付けておこう。
「私、実は下ネタが大好きなのだ。」
「マジっすかぁぁぁぁぁ‼︎⁉︎」
目をひん剥いて驚いてみせる。いやいや、嘘でしょ⁉︎確かにオレの周りに下ネタ好きな奴は沢山いるが、こりゃぁ意外な伏兵がいたもんだぜ。
「……こんなこと言ったのは君くらいだよ、他の者は……なにか私を…こうなんて言うか神々しいモノを見るような目で見てくるから喋りづらくて。自意識過剰かもしれんが、そう思ってしまう。」
おやおや、やっぱり気付いてらっしゃる。さすがにファンクラブの存在までは分からないか。
「いや、実際そうでしょ。優璃見てても分かりますよ。先輩めっちゃ人気ですから。」
優璃の名前を出した瞬間、青山先輩がこちらに視線を向ける。
うっは☆なんか興奮する。
「……そう言えば、優璃ちゃんと心二くんは付き合っていたりするのか?」
おっと、この話題はマズイ。
「そんなことより先輩猥談しましょー!そうしましょー!」
「恋バナも捨てたものではないぞ?後輩よ。」
くっ……やはり女子か!この恋バナ好きめ!
……ここはうまくやり過ごさねば。
「……優璃は友達ですよ?」
完璧な答えだ。その答えにつまらなそうにジト目を向ける青山先輩。
「そんな目しますけどね先輩、先輩だってそういう話振られたら言いたくないでしょ?」
「……私はそもそもそんな風に思える男がいないだけだ。」
「むぅ……」
そう自虐的にならないでくだせーよ。
気まずそうにしてるオレに気付いたのか、青山先輩は目を伏せる。
「……すまない。ぼっちに慣れてしまうとつい自虐的になってしまう。そのせいか、最近自分がM体質な事に気付いた。」
もー、そういうこと言う。
「興奮するからやめてください。」
「ふふっ、やはり男の子だな。」
からかってくる青山先輩にお返しとばかりにオレも発言する。
「青山先輩、好きな奴いないとか言ってますけど、如月会長はどうなんですか?」
悪戯な笑みを浮かべて青山先輩に問う。正直、お似合いな男女だと思う。例えるならケーキと紅茶くらいお似合い。分かるかなぁ、ケーキに紅茶すごい合うんだよ〜。最近までは炭酸ジュースと一緒に食べてたからなぁ。
炭酸ジュースと言えばフルーツパンチ味とかいう期待の新人何なのあれ。すごい美味しいんだよなあれ。
「雫か?あいつはあれだ。そういう目では見れない……かな?いや、見る資格が私には……ないんだ」
「え?」
えらくネガティブな一言にオレは少なからず驚いていた。
軽口の一つや二つを挟みつつ煙に巻かれるだろう展開を予想していたオレとしては、違和感を感じられずにはいられなかった。
どういう意味か、尋ねようと口を開いた瞬間、オレと先輩の座る席の前に立って、こちらを見据える……っていうかガン見してる男がいる。
「……?」
彼は立ったままで何も喋らない。なんだこいつ。なんか喋れよ。
ふと青山先輩に気まずげな視線を送ると、オレは男の正体に勘付いた。
青山先輩はギッと目の前に立つ男を睨みつけていた。
男も何も言わず元からなのか、目付きの悪い視線を青山先輩に向けていた。
「……どうも。風紀委員長さん」
やっと開いた口からはダルそうな声音が青山先輩に話しかける。
「……あぁ。そうだな、それで何か用か?」
「いや、交流戦の代表会議の帰りさ。別にお前なんかに会いに来たわけじゃねぇよ」
先輩の表情は未だ険しいままだ。こいつ、何やらかしたら青山先輩にこんな顔させられるんだよ。如月会長と話してる青山先輩の少し毒の入った口調とは別種だ。
目の前のこいつに向けられているのは明らかな敵意。先輩と会長の内輪でよく見るいじりとは違う。
男の長髪をくくり肩から前に垂らす白髪が、嫌なことを思い出させる。まったく、白髪の男にいい印象がないのはほんと仕方ない。旅行ん時でもうお腹いっぱいなのに。
「そうか、なら早くどこかへ行け」
絶対的拒絶の視線を向けつつ言い放つ。
「わーったよ。じゃあな」
なおも男はそのねっとりとした口調を最後まで変えることなく、その場を去る。
……微妙な空気が漂う。ったくあの野郎なんでこっち来たんだよ。空気悪くしてんじゃねぇよ!
「……青山先輩、あの人は?」
重い沈黙の空気を払拭するべく、オレは聞いた。正直あいつなんかに興味は湧かないが、沈黙を脱するためだ。仕方ない!
「……あいつは、友達だ。」
彼女の口にする「友達」の意味は、今のオレには分かりかねた。
それ以上先輩は、あの男については話さなかった。
ふふっ。課題……終わんねーーーーやぁ




