番外編 この退屈な夏休みを革命せし者たちの集い
補習終わりの一日ほど、テンションが上がる日もないだろう。
今のオレ、天条心二のテンションはまさに絶頂。
……イヤらしい意味ではなく。
隣で歩いてる今西優璃も同様に絶頂だ。(テンションが)
その理由も補習を終えた優璃の元に古旗由美が遊びのお誘いの電話がかかってきたからだ。
どうやらみんな守郎ん家に集まっているらしく、そんな楽しそうな集いの存在を聞いては行かざるを得ないだろう。
気が付くと垣峰宅の家の屋根が他の屋根の隙間隙間から見えてきた。
守郎の家はオレや優璃と同じく住宅街に建っている。イツメンの由美や奏也、陽志にくーちゃんは少し離れた地域に住んでいるそうだ。
……そもそも、今日の集まりに奏ちゃんは居るのだろうか。普段から奏ちゃんはバイトをしている。
奏ちゃんと放課後に遊んだりできない理由と直結できるくらいにシフトを入れているみたいだ。近い内に奏ちゃんの家とか行ってみたいなぁ。
おっと、話を戻して。
電話をもらった優璃なら、誰が守郎の家に来ているかぐらい分かるんじゃなかろうか。
言うが早いかオレは早速優璃に尋ねた。
「いつものメンバーだよ?由美に李女ちゃんにくーちゃん、奏ちゃんに陽志……あ〜あと守郎ね。」
完全にいつものメンバー略してイツメンであった。
そう言えばこの面子が揃ったのはいつぞやの旅行ぶりだ。あまり思い出したくはない思い出だ。
……いやいや、あの一件で木場達と知り合えたんだから、そう無下に嫌な思い出とひとくくりにするのは失礼か。
夏休み中にでも一回くらいは顔見せに行こうかな。
優璃によってピンポーンと垣峰家の家内にインターホンが鳴らされた。
時刻は1時前。昼飯は守郎の家に当てがあるそうなのでやっとご飯にありつけると思うと気が緩む。
いやぁ、何か申し訳ないねぇ。ただ飯食いに来たみたいで。
ドアが開かれ、相変わらずの金髪の守郎……ではなく帰国子女の美少女、弥富深海ことくーちゃんが出迎えてくれた。
「よっ!くーちゃん」
言いながら挨拶代わりのキスを交わす二人。
あーん目の保養に丁度いい。なんなら目の保養という大義名分掲げてNHKで百合番組流してくれ。
ってかまだくーちゃんのキス癖治ってなかったのか。
中に招かれたオレと優璃は早速台所に通された。
真っ先に目に入ったのはテーブルにポツンと置かれていたインスタントラーメンだ。
くーちゃんは慣れたようにやかんを手にとってラーメンのカップに熱湯を注ぐ。
「4分待ってね。」
ほほう、日清麺職人とは……守郎の奴、日清麺職人を家に置いてあるとはなかなか分かってるじゃないか。
オレ、日清麺職人大好きなんだよなぁ。特に醤油味。つか醤油味しか食ったことねぇ。
「チキンラーメンがいいなぁ。」
優璃が目の前に出された日清麺職人にケチを付けながら椅子に座る。
あ〜、チキンラーメンも捨て難いよね。
そんな雑念を抱えつつオレも椅子に腰を下ろす。
「…………………。」
友達と待つカップラーメンの待ち時間、ほんと退屈だよなぁ。中途半端に待たせるからまだ時間たってないけど…まぁいいや。とかいって早めに蓋開けちゃうんだよなぁ。
その時の「オレ、固麺の方が好きだから」って言葉ほど信憑性のない言葉なんてないよな。
「あー、アタシ固麺が好だし、もういっかな」
嘘だっっ!!
優璃の一言に心のなかでそう突っ込みながらオレは無心にラーメンを待つ。
てか、まだ2分も経ってないだろ。4分の待ち時間を要するラーメンを2分で食べるとか勇者すぎる。
あぁ、固麺を我慢しながら食べる優璃ちゃんかぁいいよー。おっ持ち帰り~~~♪
「……………。」
無言で虚空を見つめるくーちゃんが非常に気になる。
おっと、そういえば他のやつらはどうしたんだ?
「なぁくーちゃん。守郎たちは?」
「まずはラーメンを食べてから。」
即答されたオレはしぶしぶラーメンを啜ることにした。
……むぅ、今日のくーちゃんマジおかんみたい。
スープを飲み干し、空になった日清麺職人にお手てを合わせごちそうさますると、未だ虚空を見つめるくーちゃんに再度話しかける。
「くーちゃん?」
「…………」
返事がない。ただの屍のようだ。
「……くーちゃん?」
今度は優璃が呼びかけるが、依然返事は返ってこない。
しばらくくーちゃんのたわけ顔を見ているとようやくこちらの視線に気付いたくーちゃんはマイペースに調子を整えるかのように咳払いを1つ。
「…………あ、食べ終わったかしら」
くーちゃんは立ち上がり台所から何かを持ってきた。
「デザートにおはぎ食べる?」
っはーー☆くーちゃんは気が利くいいお嫁さんになるね。……でも嘘だ!!やらおっ持ち帰り~~~やら言ってたせいでおはぎが怖い。何か針とか入ってそう…。…………まさか、これが雛○沢症○群!?L5確実じゃんオレ。
「……大丈夫。針なんか入ってないから」
見透かされてる…だと!?何で知ってるの怖いよ怖い!やべぇよ本格的にオレL5じゃん。
その内「転校しちゃ…嫌だよ?」とか言われるってぇぇぇぇ。あの時の圭一の気持ちが気持ち悪いくらいわかるぜ。
なるほど、ここから始まるんだな。そう……鬼隠し編の始まりだ…!
「ありがとーくーちゃん♪」
おっと、そろそろ自重。優璃に便乗してオレもおはぎを摘まむ。
「くーちゃん、守郎とかは?」
「……二階の部屋で垣峰くんと太刀川くんは寝てる。由美と李女は二人の寝てる傍でAVを見てる。」
あー、おはぎ食べると喉乾くな…。んー………………。
……え?今何と?
「AV!?見よう!是非見よう!!」
くーちゃんとオレの手を引きすかさず二階の階段を上る。
え、いやぁ女の子とAV見るって難易度高いっていうか。厭らしい気持ちになったりとかしたらどうしよう。オレ、避妊具よろしくゴムさんは持ってないんだけどな。
優璃はドアを勢いよく開け放つ。
いざ、アダルトビデオォォォォイズウォッチ!!
「天条!補習は終わったのか?」
「あ、うん。バッチリ」
あれれ、案外普通な日常がそこにある。
確かに守郎と奏ちゃんは寝てるけど。くーちゃんも面白い冗談を言うようになったもんだ。
菜川李女はテレビに写されているアニメを見ていた。
「あれ?ひぐらし見てんの?」
菜川が見ていたのはかの有名なアニメ、ひぐらしのなく頃にだ。
「あぁ。前にくーちゃんが紹介してくれたからな!とりあえず今日区切りのいい所まで借りてきた。」
「……とりあえず鬼隠し編までを借りてもらった。面白くなかったら切ってもいい。」
くーちゃんはそう言うが、おいおい鬼隠し編全部見ちまったら絶対ハマるだろ。分かってるなぁくーちゃん。
オレも守郎からひぐらしの小説を借りてハマったなぁ。懐かしい。
そして優璃を呼び出した古旗はと言うと…
「……見てみてこれ!守郎のアルバム!」
「なななんだとぉ!」
優璃とくーちゃんが反応する。
何か最近くーちゃんのクールなイメージが薄れつつある。
「あーー!心二が写ってる!てゆか、これ中学のときだよね。守郎髪下ろしてたんだぁ」
そんな優璃の呟きが気になり、オレもアルバムを覗く。
「……あー、修学旅行の時のか。」
懐かしいなぁ。沖縄に行ったんだっけか。紅いもパイが美味しいんだ。ちんこすう……じゃなくてちんすこうも全国で売りゃいいのに。
「そういや、うちの高校っていつ修学旅行なんだ?」
「確か…2年の春頃だよ?」
「そっかー。まだまだだなぁ。」
言いながら部屋を見渡すと眠りこけてる奏ちゃんを見付けた。隣になんか金髪のうんこみたいな男がいるがそんなの無視して奏ちゃんがいた!
「……か、」
可愛い……!思わず言葉に出してしまうところだったぜ。あぁ、愛でたい。
お家におっ持ち帰り~~してなでなでして愛で尽くしたいっっ。
「嘘だっっ!!!」
……!?っとビックリした…。何事かと思ったら菜川の見ているテレビから聞こえてきたものだ。
この時のレナちゃん怖かったなぁ……。漫画版怖くて未だに読めてねぇもん。祭囃し編の最初なんて絶対見れねぇ。小説版でもあの施設でどんな拷問が行われていたのか未だに分からねぇ。伏せ字いっぱいなのが本当に怖い。
あの名シーンの嘘だっっ!!!から鬼隠し編面白いんだよなぁ。菜川も体を硬直させながらテレビを見ている。
あー、こりゃハマったな。
ところでうみねこ散アニメを未だに待っているオレはそろそろ諦めた方がいいのかねぇ。
ところで、誰か足りなくね?とオレの記憶の奥が疼く。
「……何してんの?」
部屋の隅っこで忘れかけていた男、狭山陽志を見つけて声をかける。
「何って……勉強だろうがよ」
まぁ見ての通りではあるのだが、地理の暗記をしているようだった。
「立派なことだな。」
「何言ってんだよ。心二だって補習頑張ってるだろ?同じことだろ。」
思わず呆気に取られる。いや、オレは嬉しかったのだ。
第一学年第二位の成績を持つ上位成績優秀者である陽志の努力と、オレの努力を同列に見てくれたことに。
「あ……そ、そう?あはは」
パタン、と古旗は片手に余る大きさのアルバムを両手で閉じ部屋全体に聞こえる声音で注目を促す。
「どしたの由美」
すぐ隣でアルバムを見ていた優璃が尋ねる。その問いに古旗はさらに皆に問いかけた。
「ウチらは、この夏休みに何か夏休みらしいことをしましたかー?」
「……特に何もしていない。」
くーちゃんの即答に何だか不安になってくる。もう夏休みは折り返し地点を迎えている。なのにも関わらず、オレらは未だ心に思い出を刻めないでいる。
……ん?旅行行ったじゃんって?
バッカぁ……あんなもんは黒歴史だよー。
ビシッと人差し指を立て、古旗は宣言する。
「プールに、行きましょーーーーー‼︎」
プール……?
女子と……プール?
男子はダメーーとか言うくだらんオチじゃなくて?
優璃たちと一緒にプール?
「なので来週の日曜日は空けておくように」
えっへんと胸を張り古旗は充実感に満ちた顔を浮かべる。
「さんせー♪」
無論、優璃は両手を挙げて大賛成する。
「……もちろん行く。」
くーちゃんも古旗の提案に乗る。
スッとテレビを見ながら右手を上げる菜川も賛成のようだ。
すると女子陣は男子陣のオレらに視線を向ける。
その視線には「もちろん、来るだろ?」みたいな念が込められているようだ。
呑気に寝息を立てている守郎と奏ちゃんに目線を外す。
あぁ……奏ちゃんマジ天使。




