第七話 罪人の棺
鉄門が閉じる音が、施設中へ響き渡った。
重く、鈍い音だった。
まるで外の世界と切り離されたような感覚に、セシリアは小さく肩を震わせる。
「相変わらず、息が詰まる場所ですね……」
ガルクは慣れた様子で肩をすくめた。
「封印施設なんて、どこもこんなもんだ。」
一行は白衣をまとった封印官に先導され、施設の奥へ進む。
石造りの廊下には窓がほとんどない。
外は朝のはずなのに、薄暗い。
壁一面には幾何学模様の封印術式が刻まれ、青白い光を放っていた。
歩く者は皆、口数が少ない。
誰も笑わない。
誰も急がない。
静寂だけが、この施設の規律だった。
「運搬、ご苦労でした。」
先頭を歩く封印官が口を開く。
「私は第一封印施設管理責任者、エドガーと申します。」
初老の男だった。
白髪交じりの髪をきれいに整え、法衣にも乱れはない。
その声は穏やかで、どこか教師を思わせる。
「骨の紛失については報告を受けています。」
「悪かった。」
ガルクが短く頭を下げる。
エドガーは首を横に振った。
「あなた方の責任だけではありません。」
「封印とは、常に失敗と隣り合わせです。」
その言葉に、レインは目を向けた。
失敗。
この男は、それを当たり前のように口にした。
やがて、一行は巨大な鉄扉の前で足を止める。
扉には無数の鎖。
その中央には、人一人が通れるほどの小さな扉だけが設けられていた。
封印官が鍵を差し込む。
金属音が幾重にも響く。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
最後の錠が外れた。
「こちらです。」
扉の向こうは、地下へ続く階段だった。
冷たい空気が流れてくる。
湿った土の匂い。
そして――
微かに、人の呼吸のような音。
セシリアが眉をひそめる。
「……今、何か聞こえませんでしたか?」
誰も答えない。
ただエドガーだけが、
「ええ。」
と静かに頷いた。
「聞こえて当然です。」
一段。
また一段。
地下へ降りるたび、呼吸音は増えていく。
ひとつではない。
十。
二十。
百。
無数の呼吸が重なり合い、地下全体が生き物の腹の中のようだった。
レインの足が止まる。
「……人だ。」
「はい。」
エドガーは平然と答えた。
「人です。」
階段を下りきった先。
そこには、見渡す限り石棺が並んでいた。
整然と。
まるで墓地のように。
違うのは――
すべての棺に、管が繋がっていることだった。
細い管は天井へ伸び、封印術式の中心へ集まっている。
その管の中を、淡い金色の光がゆっくりと流れていた。
レインは、一番近くの棺へ歩み寄る。
耳を当てる。
規則正しい鼓動。
呼吸。
生きている。
ゆっくりと蓋へ手を掛けた。
「開けても構いません。」
エドガーは止めなかった。
石蓋が少しだけ開く。
中にいたのは、一人の老人だった。
目を閉じて眠っている。
痩せ細った身体。
胸は小さく上下していた。
生きている。
レインは小さく呟く。
「……生きてるのか。」
エドガーは静かに答えた。
「もちろんです。」
レインは老人から目を離さない。
「誰だ。」
「死刑囚です。」
その答えは、あまりにも淡々としていた。
「刑はすでに執行されています。」
「……。」
「現在は、この施設の封印維持に協力していただいております。」
協力。
その言葉だけが、この地下でひどく浮いて聞こえた。
レインは棺の中の老人を見る。
眠ったまま。
何も知らないまま。
命だけを使われ続けている。
「死なないのか。」
「死なれては困ります。」
エドガーは、少しだけ困ったように笑った。
「命が尽きれば、封印が弱まりますから。」
その瞬間。
セシリアの顔から血の気が引いた。
「そんな……。」
だが、封印官たちは誰一人として表情を変えない。
彼らにとって、それは日常だった。
レインは棺が果てしなく並ぶ地下空間を見渡す。
その光景を見てもなお、誰も狂っているとは思っていない。
それが、この場所で最も異様だった。




