第98話 剣豪・雪見茶々丸
平坦な雪原の奥から、モンスター達が群れをなして押し寄せる。
前線のプレイヤー達はそれを食い止め自ら剣を振るう。
後方に控えている弓持ちや魔法使い達は、そんな前線を補佐するように遠距離からモンスターの足並みを乱して援護。
残基を失った負傷者プレイヤー達は、前線を突破したモンスターを待ち構えて狩る役割だ。
そして、茶々丸達は……
「神薙流・一閃!!」
モンスターの群れに果敢に斬り込んでいく。
前方に弧をえがくに薙がれた刃の軌跡に稲妻が走る。
刃の内に入った者、触雷した者が仰け反るように後ろに吹き飛び、瞬く間に消滅した。
「「「おぉー!!」」」
前線に居るプレイヤー達から、どっと歓声が巻き起こる。いい気分だ。
「ちょ、お茶々止まるな! 囲まれるぞ!」
「おっとと」
左脇から肉薄するゴブリンを一薙ぎし、茶々丸は地面を蹴ってその場から飛び退く。
モンスターに囲まれて孤立すれば流石に不味い。
他プレイヤーから離れすぎない様にしなくては。
「グオォォォ!!」
正面から飛び掛かるオオカミ型のモンスター。
その喉笛を茶々丸は一息に突き刺す。そして勢いのままに左横のプレイヤーに襲い掛かるゴブリンごと叩き斬った。
「ありがとう、助かった!」
「お構い無く!」
そうやり取りする間にも、モンスター達は次々と涌き出るように押し寄せる。
神薙流などの技や魔法の使用はMPを消費する。節約しながら使わねば、後々強敵が出たときに対応できなくなりそうで怖いところだ。
「そろそろバフが必要かい?」
「いえ、まだ大丈夫!」
迫り来るモンスターを矢継ぎ早に切り刻む。正直に言って、それほど強いわけではない。
大概のモンスターは一撃で消滅するほど脆いし、攻撃も足もかなりとろい。レイド戦のライオン達の方がよっぽど強かった。
油断さえしなければ、負けることは無さそうだ。
「新しい刀、どうよ?」
敵をバサバサと撫で切りにしていく茶々丸の背で、小さく縮こまりながら九龍が聞く。
何体目か分からぬ目の前のゴブリンを袈裟懸けしたところで、そう言えばと茶々丸は右手に握る刀にチラリと視線をやった。
「そう言えばかなり扱いやすいです。リーチと反りは太刀の方が上ですけど」
刀身が太刀より短い分、巻き込める敵は少ない代わりに今のような集団戦では両脇のプレイヤーに当たる心配が少なく遥かに扱いやすい。
刀の反りも随分浅く、軽い。その為剣道をやっていたときと同じような要領で振り回せる。
「クーちゃん!」
また、眼前に躍り出てきたモンスターを斬り伏せて茶々丸はそう大きな声で呼び掛ける。
「どうした?」
「私、癖になっちゃうかもです!」
取り回しのしやすさが遥かに違う。
長尺の太刀では難しかった、時代劇で見た相手の攻撃を避けつつのすれ違いざまの連続切りも今なら夢ではない。
「こんなことなら、さっさと打刀に代えてれば良かったです」
「あぁ、そう……」
なんだ、いつもの人斬り予備軍か。と、九龍は思わず苦笑した。
モンスターの大群は、未だ途絶える様子はない。
*
「よう、やっとるかい」
防衛装備庁。その発注を受け装備を製造する工場へ、土肥は久しぶりに足を運んだ。
「土肥さん、ご無沙汰しています」
顔見知りの作業員は帽子を取って一礼する。
彼の傍らにある台座には、見慣れたフルフェイスのような機械がおかれてあった。
「すまんな。突然発注してしまって」
「いえいえ、土肥さんの為ならたとえ火の中水の中。フルダイブだってして見せますよ」
作業員はそう言って、若く白い歯を見せて笑った。
「にしても、DDを改造して中に別のシステムを移植なんて良く考えたもんですね。開発した人はさぞ頭の切れる研究者なんだろうなぁ」
「……あぁ、本当にな」
真実を知る土肥は小さくそうほくそ笑む。愛弟子のことを褒められるのは、やはり嬉しいのだろう。
「この分の改造なら、明後日までには」
「うん。頼んだ」
この頭ほどの機械の完成に、これからの日本の未来が掛かっている。
そう口に出すのは、流石の土肥も憚られたが。
(充、もうすぐだな)
愛弟子の顔が、目蓋の裏にうっすらにじんだ。




