表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/126

第93話 久方ぶりの夢うつつ

『どーよみつるん。順調かい?』


 会議室から出た直後、信也からそんな電話が掛かってきた。


「上司が頭ごなしに部下の進言を却下しまくるのを順調と言うならそうなる」

『大変だねぇ』

「しんちゃんほどではねぇよ」

『俺は毎日五時間は寝れてる。みつるん、ここ最近ろくに寝てねぇだろ?』


 信也の鋭い質問に、充は思わず口ごもる。

 ここ一週間は特に熟睡した覚えがない。


「俺が寝てる内に何か恐ろしいことが起こるんじゃないかと思うと、おちおち寝てらんねぇのよ」

『寝ないと、いざその恐ろしいことが起きたときに対応できんぞ。ナギも居るんだ。一旦家帰りなよ』


 責任者が倒れたら、下は大変だぞ。そう気遣う信也の声にも、取れない疲れがにじんでいる。

 彼の方も、随分家に帰れていないのだろう。


「お互い、昔みたいにゃいかんな」

『三十路に入ると特にね』


 ラボ時代は数日徹夜なんてザラだった。

 自衛隊に入ってからも訓練に演習に宴会に酒盛りにと、夜通し昼通しで動いていたことも珍しくなかった。

 今ではもう、カフェインのアンプルが無ければ目蓋が落ちてきてしまう。


「伊藤んとこ顔見せた後、ちょっと一眠りするわ」

『うん、そうしな』

「そっちもな」

『……うん』


 電話を切った充は建物のロビーで待つ渚沙と合流した。


「ナギ」

「ん?」

「最近家、帰れてるか?」

「どっかのワーカーホリックなリーダーのお陰でね」


 皮肉っぽくそう言って笑う渚沙を伴い、呼んでおいた車に乗るため外に出る。


「……なぁナギ」

「どうしたの?」


 きょとんとした顔でそう聞く渚沙。充は意を決して口を開いた。


「今日の残り丸一日、ちょっと俺の仕事変わってもらっても良いか? 一旦家帰りたくってな」


 自分の肩代わりを出来る人間は、チーム内には渚沙しかいない。これでNoと言われれば、潔く諦めるしか無かろう。

 そう思っていたのだが、


「あら、ナイスタイミング」

「え?」

「ナンコー君がそう言わなきゃ、こっちから言ってた所だったよ」


 そう渚沙に言われて、充はしばし硬直する。そんなに分かりやすかっただろうか?


「そんなに出てた?」

「うん。凄く」

「マジか」


 充は顔を見合わせて苦笑し、自分の顎に手を当てる。なるほど、これは確かにすぐに分かるかもしれない。

 随分と長く伸びてしまった硬い髭を指の腹で撫でながら、ふとそんなことを心の中で呟いた。


「悪い、それじゃ頼んでも良いか?」

「もちろん。なんなら明日一日休んでも大丈夫だからね」

「流石にそれは……」


 ともかくすまん。ありがとう。そう言葉を残して、充は車に乗り込んだ。目的地は、優輝の居るユメミライの研究施設。


「到着したら起こしてもらって構いませんか?」

「ええ、分かりました」


 運転手とそんなやり取りをして、充は久方ぶりに重い目蓋を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ