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第100話 星空の下

「ふぅ……今回はこれで終わりか」


 夕日が地平に沈む頃、戦闘はひとまず幕を閉じた。

 茶々丸は刀を鞘に収めると、小さくため息をつく。危なげない戦闘とはいえ、少し疲れた。


「お茶々、どうも今日はこれでお仕舞いってことみたいだぞ?」

「どういうことです?」

()()はまだ終わってねぇってことだ」


 九龍は茶々丸の背から、メニュー画面のクエストを開いて見せる。


『緊急クエスト・領地防衛レイド 残りフェード数:5/10戦 現状況:夜間休戦』


 そんな風に表示された画面を見て、茶々丸はがくりと項垂れた。

 今回と同じような長い戦闘が明日もまた繰り広げられるのかと思うと、流石の戦闘フェチの茶々丸も気が滅入る。


「えぇー……またですか」

「ま、明日は最初っからフォックストロット組が居ることだし、今日ほど忙しくは無いと思うぞ」


 地面に飛び下りた九龍が茶々丸を励ます。

 フォックストロット率いるパーティーは、非戦闘プレイヤー達を全員避難させ終わった夕刻ごろにようやく参戦した。

 一進一退の攻防を続けていたレイド戦は彼らの加勢によって一気に優勢になり、無事に勝利。

 到着の遅れを責める声もいくらか挙がったが、多くのプレイヤーは強力な戦力の増援に歓喜した。


「町の警備の方は大丈夫なんでしょうかね?」

「何人か町に残してきているらしいぞ」

「なら一応安心ですね」


 二人はそんなやり取りをしながら、配給されていたテントを張る。

 今までも数度、こうした日をまたぐ戦いがあった。そのときにすぐに対応できるよう、多くのプレイヤー達はその場で夜営をするのだ。

 前線から少し下がった所に、一際大きな四角いテントが設置されている。フォックストロット達の物だろう。

 体力の減ったプレイヤー達の回復や明日の作戦会議が出来るよう、広々としたものにしているらしい。

 テントの入口付近にはアイテムを消費すること無くタダで回復してくれるからと、

大勢のプレイヤーが集まっている。


「お茶々は良いのか? 回復いかなくて」

「生憎自前の回復アイテムで既に体力は満タンですので。クーちゃんこそ、皆と情報交換しなくても良いんですか?」

「生憎じゃじゃ馬娘がなにしでかすか分からんのが不安で離れらんねぇからな」


 設営したテントの中に仰向けになって寝転がり、二人はそう言って笑う。

 月も、重い雪雲も無い夜空。現実と見間違うほどの、いや、現実でも見たことの無いような満天の星々が瞬いている。


「クーちゃん」

「なんだ?」

「本音を話しても良いですか?」

「うん」


 しばらくの沈黙の後、茶々丸は口を開いた。


「私、時々思うんです。ここに先輩が居てくれれば、どれだけ良かったかって。あの人は無茶苦茶しますけど、戦闘一辺倒の私と違って冷静です」

「うん」

「頭の回転も早くって、何より度胸があります。そんな先輩が居てくれれば、今頃この状況も変わってたのかなって、そう思うんです」


 吐息が相変わらず白い。リアルでも、年こそ越せどまだ冬だ。

 充も、同じような白い息を吐いて、星空を見上げているのだろうか。


「……私も本音を言おう」

「ええ」

「同じ意見だ。ミツルの行動力と胆力があれば、今頃我々はもっと積極的になっていたと思う。それこそバベルに挑んでいたり、な」


 既に最果ての塔バベルにたどり着いたプレイヤーは二百を超えた。

 地上百層まである高難易度ダンジョン・バベル。十層毎に強力なボスモンスターが登場し、プレイヤー達の行く手を阻む。

 話によると挑んだプレイヤー達の内、三分の一が既に消滅したらしい。

 そんな犠牲をもってしても未だ半分も攻略できていない所に、いかにしてこのダンジョンの攻略が困難かということがわかる。


「フォックストロットはもうここに籠ることを決めてしまった。それも英断なんだろう。自分達は無駄な犠牲を払うこと無く、攻略組を支援する」


 でも、それじゃダメなんだよ。九龍はボソリとそう呟いた。


「なぁ、お茶々。私達、一度王都に戻らないか?」


 茶々丸の手をぐっと握る九龍の目は、強い決意に満ちていた。

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