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ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
地獄の島の酔いどれドラゴン
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まさに地獄

 のっそりと起きたアレクニールは、嵌められた鉄首輪の内側に指を入れてかきむしる。

 収容所の奴隷と犯罪者全員がつけている首輪に彼はぜんぜん慣れなかった。


 今日は老人に脱出方法を相談する、と決めていたので、夢ジジイを探す。

 しかし、姿は見えなかった。


(先に行ったのか?)


 少しだけ疑問に思いながら、アレクニールもまた列に並んで作業場へと向かった。

 だが、そこにも夢ジジイはいなかった。


 顔なじみになった囚人に聞いてみると、思わぬ答えが返ってくる。


「夢ジジイか? あいつは所長に呼ばれてったよ」

「どういうことだ?」

「たまに呼ばれるんだよ。模範囚としてな」

「……?」


 意味がわからないアレクニールに、違う囚人が口を挟んでくる。


「ここから出るか、格上げされてこのまま働くか選べるんだと」

「そうか、ではめでたいことなんだな」

「まさか! 表向きはそうだが、俺たちエルフが解放されるわけねえ。ここは死んだ時しか出られねえんだ。きっと用済みってことで殺されんのさ」


 男たちの顔には絶望が浮かんでいた。

 嘘を言っているようには見えない。


「……どうやら確かめる必要があるな」


 老人は酒を注いでくれた恩人だ。アレクニールにとっては恵みの甘露をもたらした友であるとも言える。

 出所しているならそれでいい。しかしもしも違う時は——


「そこ! なにを喋っている! さっさと進まんか!」


 立ち話をしていたアレクニールに兵士が怒鳴り声を上げた。

 決行するならば夜。

 彼は心に決めた。





 そして夜。

 消灯時間を過ぎ、兵士が少なくなったのを見計らって、アレクニールは体を起こす。

 入口に立っている見張りは一人だけだ。


「すまないが、用足しに行きたい」

「ああ? ったく、済ましとけよ」


 声をかけると、苛立ちの返答がくる。アレクニールは股間を押さえた。


「漏れそうなんだ」

「しょうがねえな……言っとくが変な気は起こすなよ。ついてくからな」


 兵士はすぐ外にあるトイレにまでついてくる気だった。


「ああ、そのほうが好都合だ」

「あん?」


 連れ立ってトイレの前に立つ。

 

「そういえば兵士殿、所長の邸宅はどこにあるんだったっけ?」

「所長ぉ?」

「模範囚になれば招待されると聞いたんだが」

「ああ、そういうことね。めったにねえんだから気にしてもしょうがねえだろ……ほれ、あそこだよ。あの立派な建物」


 上り坂を行った先に、一際大きな家が建っているのが見えた。

 よし、と頷いたアレクニールは、振り向いて兵士の口をふさぐ。


 巨大な手で押さえられた兵士は声を出せなかった。

 すかさずもう一方の手で首の後ろを掴み、力を込める。


 慈悲の欠片もない剛力。呆気なく首を折られた兵士は絶命した。

 アレクニールは亡骸をトイレに突っ込み、ドアを閉める。


「さて、ご老人奪還と行くか」


 救出した後はそのまま島を脱出する。なんなら泳いでもいいとさえ彼は思っていた。

 




 回り道をして、邸宅の裏手にたどり着く。

 窓から見えるのは、巡回であろうランタンの明かり。想像以上に警護の兵が多い。


 アレクニールは迷わなかった。邸宅の壁に張り付いて様子を窺い、兵士が行ったところで窓を開ける。

 が、当然鍵はかかっているわけで。

 

 しかし、窓は開いた。バキッ、という音を立てて。

 びくん、とするアレクニール。


 中から声が聞こえてきたので、近くの茂みに身を隠した。

 

「また侵入者か!」

「くそっ……どこのどいつだ?」


 割れた窓を見て兵士が外へ身を乗り出す。

 好機と見た元・ドラゴンのおじさんは、素早い身のこなしで下から兵士たちを引きずり落とす。


 驚き、慌てふためく二人の男の首を持って、頭と頭をぶつけてやった。

 こそこそと気絶した兵士たちを茂みに隠し、額を拭う。


「あ、危ないところだった」


 ドジもいいところ。彼は胸の内で反省した。

 跳び上がって中に入る。耳を澄ますと、ブーツが出す足音が聞こえてきた。


 老人がいるのは上か、それとも実は別の場所なのか。なんにせよ手がかりがない状態ではしらみつぶししかない。

 まずは上へ。三階建ての邸宅は割と質素なものの、広い。


(人の気配はないな。本当にここか?)


 いるのは巡回の兵士だけだ。

 奴隷や囚人は別として、寝るには早い時間だと疑問に思う。


 ここは人がいなさすぎるのだ。いかに元・ドラゴンのおじさんと言え、ここまで生活感がないと、無人を疑うのだった。

 三階、二階、と様子を窺うも老人の姿はない。無駄足か、と諦めかけた時、地下へと続く扉を発見する。


 残るはそこだけだ。

 立っている警備の兵は四人。厳重な守りを見て確信する。


(さて……どうせなら行くところまで行くしかないが……)


 鉱山での作業でいくらかはニンゲンの体に慣れている。倒すだけなら簡単だと思った。

 問題は騒ぎを起こしてしまうかどうか。増援を呼ばれては老人を探すどころではなくなる。


 迷っている暇はないと深く息を吸い込む。

 そして、物陰から一気に巨体を躍らせた。


「なん——!?」


 一人目は指を曲げたかぎ爪の張り手で倒す。顔を裂かれた兵士はその場に崩れた。

 声を出されるわけにはいかないと、もう一人のあごへ拳を突き上げる。

 歯が砕け口から血を噴き出した兵士は白目をむいて倒れた。


「て、てめえ!」

「侵入——」


 増援を呼ぼうとした兵士に前蹴り。丸太よりも太い足が伸びて、みぞおちを直撃した。

 最後の一人が槍を構える。


 アレクニールは槍の穂先を無造作に掴んだ。

 素手で行われた異様な動作に、兵士が一瞬だけ止まる。


 槍ごと引き寄せて真上から拳を振り下ろしてみた。

 ハンマーで殴られたがごとき衝撃に兵士の頭が潰れる。


 瞬く間に四人を片付けたアレクは、緊張した面持ちのまま、地下への扉を開けた。

 同時にただならない臭気が鼻を直撃する。


「これは死臭か?」


 肉と血の腐った臭いが充満しているのは明らかだった。

 引き寄せられるように階段を降りたアレクニールは、そこで地獄を見る。


「なんなんだ、これは……」


 粗雑にちらばった骨。

 台に寝かされたままに死体は、切り刻まれている。

 大量の血痕はこの世の終わりかと思うほどに飛び散っていた。


 魔術式ランプが照らす部屋を見て、彼は目を細める。

 遺体の数々は、エルフ、ニンゲン、獣人のものだ。

 ゆっくりと先へ進むアレクは、さらに驚くべきものを見た。


「魔族……精霊……? どこから持ってきた?」


 両手首に魔術紋がびっしりと浮かんでいるのは魔族の死体だ。

 生まれながらにして魔術的素質を持つ魔族は、手首に紋様がある。

 

 そして精霊は見ただけでわかるだろう。

 形こそニンゲンと酷似しているが、人形を思わせる無機質な質感の死体は、まさしく精霊だった。


「ここで何が起こっているというんだ」


 いくつかの部屋を進み、まだ真新しいであろう死体を見て、アレクニールは愕然とした。

 寝かされていたのは、夢ジジイと名乗った老人のものに他ならない。


「なんということだ……」


 両手を頭につけて、膝を折る。

 変わり果てた姿の老人は、恐怖の表情をしたまま、死体となっていたのだ。


 刹那——

 不穏な気配と音を察したアレクは、腕を使ってガードする。


「な、なんだこいつ!」


 彼の太い腕に噛みついていたのは、見た事もない生き物だった。

 


  

ここから展開、変わっていきます。

ドラゴンおじさんはどうなるのか。

気になったらブクマ、気に入ったら評価、お願いします。

まだまだやるよ!


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