輝ける力
神を名乗る不気味な男『エサキ』が放った刺客たちを退けたアレクニールとサブロウは、休むことなく保管庫へと足を踏み入れる。
「おっさん、ここでなにする気だ?」
本来、一般人は立入禁止の建物である。
サブロウはかなりいやーな予感がしてしまった。
「爆弾がほしいんだ。ボルグゲイルを倒すためには派手にかまさないとな」
「あー、うん、まあ、そうだけどな」
やはり、と思うしかない。
しかし彼は緊急ということでなにも言わないことにした。
「ところでサブロウ。クラウディアの兄は一緒じゃないのか?」
「大佐はあんたに腕をぶっ壊されたからな。お休みだ」
先の戦いでは、アレクニールが勝利した。
「いれば多少の戦力になったのだが」
「よく言うぜ」
元・ドラゴンのおっさんが簡単に言うので、サブロウとしてはため息をするしかない。
ボロボロにした上、ウィリアムの妹までさらっていったのだ。緊急時でも相容れないだろうと思う。
「ルリーシェラ! どこだ!」
声を上げると、地下から返事があったので、二人は階下に向かう。
ガラクタから武器や装飾品まで、様々な物品が置いてある屋内を進み、鉄格子で区切られた場所を見つけた。
そこには娘たちがいて、はしゃいでいる様子だ。
「おじさん!」
「ああ、いま来た」
サブロウをよく知るルリーシェラや、面識がある双子は特に気にしなかったが、クラウディアだけは一瞬、剣の柄に手をかける。
「クラウディア、そう警戒するな。サブロウは友だ」
「……いつそうなったんだ?」
おれの方が居づらいんだけど、と心のなかで愚痴る。
クラウディアは上官の妹であり、先日戦った仲だ。さっきから彼女の視線が痛かった。
「爆弾はどうだ?」
ミィフィーユに聞いてみると、満面の笑顔が返ってくる。
「上々だよ。作るまでもなかったね」
テーブルの上に載せられた大量の木箱。
中にはみっしりと筒状の物体が敷き詰められている。
「どう使えばいい?」
「導線に火をつければいいよ。本体まで火が届けば爆発する」
よし、と木箱を担ぐ。
「これをあいつの口の中に放り込んでやる。そうすれば目を回すだろうしな」
「ええと……待ってよおじさん。まず近づけないと思うんだけど」
大炎魔竜ボルグゲイルの間合いはどデカい。見つかれば尻尾や息の餌食になるだろう。
「ボルグゲイルは俺の次の次くらいに強かったからな。どのみち小細工は通用しない」
「おじさま、弱点はないのですか?」
クラウディアの問いは無意味だ。
ドラゴンに弱点などない。
しかし。
「……俺が戦に出ている時、もっとも嫌だったことがある」
「それは……?」
「真下から来られることだ」
体の構造上、ドラゴンは真下に潜られると対抗する術がない。
「じゃあ、真下から攻めればいいんだよね?」
「いや、それも俺が対抗策を編み出してしまった。無理だ」
「えー……」
アレクニールがドラゴンの姿であったころに編み出した策は、その場に寝そべること。
真下に入った者はそれで押し潰されるわけだ。
そこで元・ドラゴンのおっさんはニヤリとする。
「今回は俺が下に潜り込む。それで終わりだ」
アレクはただのニンゲンではない。そうそう簡単に押しつぶされることもないだろうが、無茶に思えてしかたがない娘たちだった。
「サブロウ、ボルグゲイルの気を逸らしてくれ」
「お、おれぇ?」
「他に誰がいる」
「マジで言ってんの!?」
マジも大マジ。アレクニールの目は真剣だった。
「ミィフィーユとエクレアはどこかに隠れているんだ。絶対にボルグゲイルの射程には入るな。いざという時の退路を確保してくれ」
「う、うん」
「ルリーシェラ、遠隔攻撃を。ただし、ブレスの射線には入るなよ」
「わかった!」
「クラウディア、使えるか?」
アレクは『白備え』のリーダー・コブランが落とした『光の剣』の柄を手渡す。
「これは……?」
「剣、らしい。でっぱりを押してみてくれ」
「はい……」
かちりとスイッチを押し込み、光の剣が発動。
ブウン、と激しい音がして柄から光の筋が伸び、刃へと変わる。
「こ、これは……」
焦るクラウディア。
そして、アレクニールも目を見張っていた。
「さっきの男よりも刀身が大きいな……どういうことだ?」
コブランが持っていた時は長剣未満。クラウディアは長剣以上で幅も広い。
光の剣が放出する力は『輝ける力』だ。それは以前彼が使っていた輝ける息と同種のもの。
「まさかな……」
アレクは、なにがなにやらわからずにいるクラウディアから光の剣をもらい、今度はサブロウに渡した。
「なんだよ」
「サブロウも使ってみてくれ。ちょっとした実験だ」
「ああ? まー……いいけど」
サブロウがスイッチを押す。
しーん、としてなにも起きない。
「あれ? なんも起きねーけど」
「……ミィフィーユ、やってみてくれ。次はエクレアだ」
はてな顔のミィフィーユが使うと、ちっちゃな刀身が出た。次に使ったエクレアは短剣程度の光が出る。
「……これは」
アレクニールの目には、クラウディアや双子の体をうっすらと包んでいる力が見える。
「輝ける力……」
思えば『白備え』のリーダー・コブランも輝ける力をまとっていた。
もしや、と考え、すぐに思い直す。
「おっさん、どうしたんだ?」
サブロウが使っても反応しなかった。だとすれば、光の剣は、使える者とそうでないものがいる。
「ルリーシェラ、これを使ってみてくれ」
「うん」
彼女は無邪気に柄を握り、スイッチを押した。
刹那、これまでよりも遥かに大きい、ブウウウン、と音がして巨大な刀身が現れ、天井をぶち抜く。
誰も言葉を発する事ができなかった。
ルリーシェラ自身も呆気にとられている。
「ルリお姉ちゃん……すごすぎ」
「どうなってるの……?」
アレクニールは考えた。
光の剣は『輝ける力』とやらの素質に反応しているのではないかと。
「俺に寄こしてくれ」
最後は自分だ。
柄をにぎり、スイッチを押す。
なにも、起こらない。
「俺は力を奪われているからな。反応しなくて当然か」
ちょっと残念なおじさんだった。
しかしまさか娘たち全員が輝ける力の素質を持つなど、思ってもみないことだ。
偶然か、必然か、あるいは引き寄せられたのか。
「俺が君たちに親近感を抱いているのは……それのせいかもな」
「おじさん、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
さすがに声を大にしては言えないことだ。
特にミィフィーユあたりはつけあがるかもしれない、とおじさんは思う。
唯一無二だと思っていた輝ける息を娘たちが使えるとなると、話はまた変わってくる。
娘たちが並んで輝ける息を放つ絵を想像し、すぐにやめた。さすがにアホらしい。
「いまは考えている時じゃないな」
王都は蹂躙され続けている。
「娘たち、必要な物を回収するんだ。ここには武器も防具もあるようだしな。使えそうな物を持って出るぞ」
保管庫からの無断持ち出しを見て気まずそうなサブロウはこの際無視。
「おじさまは……?」
「俺は酒を探す」
一瞬の沈黙。そして。
「「「「「はあ!?」」」」」
という全員の声が重なるのであった。




