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ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
王都の料理人DEドラゴン
29/113

王都レオン

「ここが王都レオンか。巨大な街だなー」


 入口に立った元・ドラゴンのおっさん、アレクニールは、建物とニンゲンに埋め尽くされた大都市を見て素直に驚く。


「ツールフよりもずっと大きいね」


 そばに立つルリーシェラは、フードを被り直した。彼女が持つエルフの耳は目立つ、ということだろう。

 ところが。


「ルリお姉ちゃん、耳は隠さなくても大丈夫だよ。隠すなら尻尾だけでいいと思う」


 そう答えたのはミィフィーユ。ツールフの町で出会ったエルフの双子、髪の短い方だ。

 髪の長い方である双子、エクレアは無口なので頷くのみだった。


「王都はエルフの人口も多いし、声をかけられることもないよ。ただ……おじさんの奴隷ってことにはしておいた方がいいかも」

「俺の?」

「エルフは誰かの所有物だし、問題が起きたら責任者が必要だしね。なんでボクらの所有者もおじさんってことでよろしく」

「それはいいが……よくはないが、ミィフィーユ、もしかしてなにかあったら俺に投げようとしていないか?」


 ぎくう、として跳び上がる。ここらへんはまだまだ子供だ。


「はあ……まあいい。で、君たちは会いたいという人物は誰だ」

「うん、ボクらは王都にある組織とコネを作りたいんだ」


 ミィフィーユとエクレアは、古代に栄えたエルフ帝国の貴い血筋。末裔である彼女たちの目的は帝国の復活だった。

 

「地下を拠点とするエルフだけの盗賊ギルドだよ」

「そんなものがあるとはな」

「つなぎをつけて、王都のエルフを西に脱出させる協力を取り付けたいってわけ」

「なるほどな」


 子供ながらによく考えるものだと、アレクニールは感心するばかりだ。


「おじさんはどうするの?」

「うーむ」


 アレクニールの目的は、およそ一か月後に開かれる停戦協定の調印式に潜り込むこと。そこに来るというドラゴン族の長老と話がしたいのである。

 だが当てがあるわけではないので、まずはそこから考えなくてはならなかった。


 とりあえず中に入り、道行く人々の様子を窺う。

 荷物を抱えた婦人や暇そうにぶらつく若者、武装した憲兵に手を繋いで歩くカップルと、かなり種類が多かった。

 ニンゲン以外にもエルフが多く、先のツールフとは規模もなにもかもが違う。


 その時だ。

 前方で騒ぎが起こった。


「ひ、引ったくりよおおお! 誰か! 誰か助けてええ!」


 女性の声が聞こえて、誰かが走ってくる。

 身なりの汚い目を血走らせた男が、アレクニールたちに向かってきていた。


「引ったくり、とは?」

「盗賊だね」


 つまりは下衆、と身構えた時、新たな気配がして、アレクは警戒した。

 巨大な闘気がたちのぼり元・ドラゴンのおっさんは拳に力を込める。


「どけどけえ! 邪魔————へ?」


 引ったくりの男が止まる。

 気が付けば彼は、服が切り裂かれ素っ裸になっていた。


「な、なんで服……あがっ!」


 いつからそこにいたのか。

 金色に輝く髪をなびかせた女性が、剣の柄で男を殴り、昏倒させる。


(この娘……)


 彼女は一度、アレクニールたちを蒼い瞳でじっと見つめ、会釈をして犯罪者を連行していった。

 なにが起こったのかわからない街の人々は、きょとーんとしていたものの、すぐに元へ戻る。


「すごい剣だった……」

「ルリーシェラは見えたのか?」

「うん」


 アレクニールにも、引ったくりの男がいかにして素っ裸になったのか、見えている。

 速く正確な剣が、男の服だけを切り裂いたのだった。

 速さと精密さならサブロウよりも上、とアレクは格付けした。


「王都には色んなニンゲンがいる、ということだな」

「おじさん、もう行こうよ」

「それはいいがミィフィーユ、当てはあるのか?」

「大体の場所はわかってる」


 と、双子を先頭に街中へと進んだ。

 屋台の並ぶ広場を抜け、大通りから外れたところへと行く。


 明かりが届かない住宅の密集地に着くと、とたんに物騒な気配が立ち込めた。

 見るからに真っ当な職業ではない者達が目立ち始める。


「ずいぶんと陰気な場所だな」

「まあ、エルフが隠れるんだったらこんなところでもないと」


 ミィフィーユが言う通り、ニンゲンの姿はなく、見かけるのはエルフばかりとなった。

 

「たしかこの辺に……」


 細い裏路地。

 暗くて先が見えない。


「ここだね。行こう」

「大丈夫か?」

「えーと、たぶん」


 アレクニールは、やれやれ、と呟く。彼の体には少々窮屈な道だった。

 先に進むと、男が一人立っている。

 耳が尖っているからエルフ。一見細身な印象を受けるが、そこそこやるな、という印象をアレクは抱いた。


「なんだ? 子供か?」

「ああ、うん。『アニキ』に会いたい」

「おいおい、合言葉は知ってるんだろうな」


 ミィフィーユとエクレアが自分の耳を押さえる。


「≪耳を削いでもニンゲンにはなれない。我らは我ら。古き時代を忘れるな≫」

「……ほう、いいだろう」


 問題なく通れるようで、一安心。

 しかし——


「おっと、あんたはニンゲンだろ」


 アレクニールだけ止められてしまった。


「そっちの三人はエルフだからいいが、あんたはダメだ」

「何故だ? 俺は彼女たちの保護者だぞ」

「ほ、保護者? なんだそれは」


 男からすれば意味がわからないだろう。


「いや、ダメだ。ニンゲンは通せねえ。つーかそもそもなんで来たんだ。ここらはニンゲンが来る区域じゃねえってのに」

「付き添いだな」

「こ、この人はエルフの味方なんだ! 通してよ」


 ミィフィーユがお願いするものの、男は気が変わらなかった。

 ナイフを見せつけるようにして取り出す。


「いいや、ダメだ。怪しすぎる」


 アレクニールは男の額の前で、拳を作る。

 人差し指と親指を使って弾いた。要はデコピンである。


「!?」


 門番の男は、白目になって崩れ落ちた。


「おじさん!?」

「手加減はしておいた」


 そういう問題でもないが、ミィフィーユとしては不安だった。とはいえおじさんがいないのもある意味不安なので、一緒に行くしかない。


「なるべく穏便にして?」

「ああ、なるべく、な」


 にっと笑うおじさんから不吉なオーラしか感じなかった。

 路地を奥へと進み、突き当りのドアを開ける。

 その先にあるのは、地下へ続く階段だった。


「この先は?」

「うん、たぶん『隠れたる妖精(ハイドシルフ)』のアジト」

「どんな組織なんだ」

「王都の裏社会にある組織だよ。構成員は全部エルフなんだ」


 アレクニールは顔をしかめた。

 ミィフィーユが持つ情報網の広さはすごいと思うが、子供を裏社会に関わらせるのはどうか、と考えたのだ。


「危ないことはしないと約束しただろ」

「そうだけどさ、いざとなったらおじさんが守ってくれるし」

「しかしだな」

「ルリお姉ちゃんもいるし」


 ちらっとルリーシェラを見る。

 彼女はガッツポーズをしていた。


「それに、おじさんやお姉ちゃんが隠れる場所も必要でしょ?」

「俺は隠れたりしないけどな」


 しかしながら、ルリーシェラが普通に暮らす場所が欲しいと思ったアレクは、折れるしかなかった。

 ドアを開けて中に進み、下水道へと降りる。

 このようなところに住むのは、さすがに環境が悪すぎるだろう。


「誰もいないな」

「うん……なんかおかしい」


 細い裏路地で見張りが一人なのはまだわかる。そもそもニンゲンがあまり来ない区域だから、それでもいいだろう。

 しかしここが拠点だとしたら、不用心じゃないかと思うのだった。


 いぶかしみながらも先に進んだ彼らは、理由がわかった。

 エルフが二人、倒れているのだ。


「ちょっと!? どうしたの!?」


 ミィフィーユが駆け寄って手を当てる。

 一人は死んでいたが、もう一人は息があった。


「なにがあったのよ!?」

「あ……く、『草刈り』だ……奴ら……ここまで……」


 セリフの途中で男が倒れてしまう。死んではいないものの、これ以上は何も聞けなかった。


「戦の気配がするな。面倒なことになっているようだぞ」


 アレクニールが見る先からかすかな音が響いてくる。


「そんな……」

「草刈り、と言っていたが」

「なんのことだか……」

「そうか、なら先を急ごう」


 四人は走った。

 各所に松明が付けられた下水道は思いのほか明るく、進むのに問題はない。

 

 聞こえてくる音は次第に激しさを増し、ついには怒鳴り声が耳に届いた。


「あそこの扉からだな」


 重そうな鉄の扉は半ば開かれていて、隙間から見えるのは倒れたエルフだった。

 すぐさま中に入った彼らは、そこで戦闘が行われているのを目にする。


「忙しないな。初日からこれか」


 王都での日々は退屈しなさそうだ、とアレクニールは呟くのだった。

新章開始でした


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