おじさんの武勇伝
番外編でーーーーーす
酔っ払いが娘の質問に答えるだけ
お楽しみくだされば幸いです
ツールフの町を出発し、王都に向かうべく進むアレクニールたちは、目的地まであと一日という地点で野営をしていた。
「ねえねえ、おじさんってドラゴンだったんだよね?」
ミィフィーユが話しかけてきたので、アレクニールは横を向く。
「信じられないか?」
「ううん、そうじゃなくて、何歳なのかなって」
「三百八十歳だな」
「え?」
「三百八十歳だ」
「そ、そうなんだ……結構、年上だったんだね……」
ドラゴンの生態は、他種族にとっては謎だ。
近づけば大抵喰い殺されるか、踏み潰されるか、とにかく危険すぎて調べることすらできない。
ミィフィーユはドラゴンの寿命が長いことを知って、正直ビビった。
「ルリお姉ちゃんは?」
聞かれたルリーシェラは、首をかしげる。
彼女は自分が何歳なのか、知らない。
「わたしは……何歳なんだろう?」
「俺も気になるな……だがニンゲンの見た目と年齢の関係がわからん」
アレクニールからすれば、男と女、大人と子供くらいしか判別ができなかった。
ルリーシェラの容姿は、ミィフィーユやエクレアよりも大きいが、大人にも見えない。
「ミィフィーユ、ルリーシェラは何歳くらいだ?」
「うーん……たぶん、十四か十五くらい? わかんないけど」
「では十四ということにしておこう」
「うん、わかった」
「適当!?」
アレクは笑った。
こうしてルリーシェラに加え、旅の仲間が二人も増えたことが案外楽しい。
「おじさんが元・ドラゴンだから強いっていうのはわかったんだけど、どのくらい強いのかな?」
「なんだ? 強さ比べか?」
「ドラゴン族の中でも最強だったんだよね?」
「まあな……喧嘩では負けたことはない」
「喧嘩って?」
「竜相撲だ」
「えーと……リュウスモウ?」
「ああ、取っ組み合って頭が地面についた方が負けだ。子竜のじゃれあいみたいなものかな」
「大人はやらないの?」
「成龍がやると地形が変わってしまう」
ははは、とミィフィーユは乾いた笑いが出た。
「じゃあ他種族は? 苦戦したことある?」
「うーん……」
アレクニールは困った。他種族は大体集団で襲いかかってくるため、個の強さがわからない。
「おじさん、サブロウは?」
そう言ったのはルリーシェラだった。彼女もどうやら気になるらしい。
「どうだろうか……強いとは思うが」
そこで、まったく喋らないエクレアが妹に耳打ちする。
普通に喋ればいいのに、とアレクは思った。
「エクレアはなんて?」
「うん、数字に換算したらどうかって。ドラゴン族にも数字はあるよね?」
生態が謎のドラゴン族は当然文化も謎だ。ミィフィーユとしてはかなり気になるところだった。
「あるよ。昔はテキトーだったが巨人族と一緒になってからはきっちりするようになった。彼らは図体の割に細かくてな。金とかにうるさいせいでドラゴン族も数字を覚えたんだ」
世界一いらない情報を得たミィフィーユは、変な顔をした。
「えーと、そうだね。おじさんの強さが10として、例えば武器を持ったニンゲンの兵士はどのくらい?」
「0.1以下だな」
「……単位を間違えた。じゃあおじさんが100だったら?」
「0.1以下だな」
ずっぱりと言い放つアレクニール。
「おじさんが10000だったら?」
「0.2くらいか」
どんだけだよ、とツッコミを入れたくなる。
「じゃ、じゃあさ、魔族はどうなの? 戦ったことある?」
「何度かあるが……魔族は測りづらいな。彼らは魔術を使うし、上と下の差が激しい」
「あえてつけてよ」
「うーむ……俺が10000だとして、魔族の戦士は……0.3くらいかな」
「変わんねえし!?」
そこでまたエクレアがミィフィーユに耳打ちする。
「なんでエクレアは喋らないんだ?」
「ああ、姉さんが声を出すと災いが起きるんだよね」
「なんだそれ」
「あとで話すよ。それよりも精霊はどうかって」
大陸の南方には大森林が広がり、そこに精霊はいる。彼らは版図を広げるニンゲンに対し、獣人たちを率いて戦っているのだった。
「精霊かー……」
「どうしたの?」
「いやー、昔を思い出すなー……」
「強い?」
「ああ、強い。かなりな」
「どれくらい?」
「彼らもピンキリだが……上はドラゴンに匹敵するだろう」
「そうなんだ」
「とはいえ数が少ないからな」
「戦ったことあるんだよね?」
「ある。特に印象に残っているのは『竜全て殺し隊』だな」
「リュウスベテコロシタイ……?」
アレクニールは昔を思い出して遠い目になった。
大陸の南東で行われた戦は、ドラゴン・巨人の軍対ニンゲン・精霊の連合軍。滅多に手を組まない彼らは、なにがあったか一時的に連合し、土地を奪いに来たのだった。
「二十四体の見目麗しい精霊からなる部隊だった。歌って踊れる精鋭だと聞いたし、実際に凄まじい強さだったな」
「う、歌って踊れる……」
「ああ、彼らの歌は周囲の者の力を上げる。これがなかなかに歯ごたえがあった」
「ごめん、なんか想像できない」
「苦戦こそしたが、半分ほど消し炭にしてやったぞ。懐かしいなー……うはは」
ええ……と引くミィフィーユであった。
「戦ったのは一度きり。『竜全て殺し隊』はその後、音楽性の違いとかで解散したと聞いた」
「……」
「今にして思えば、なかなか魅惑的なダンスに見えたな」
思い出してうっとりするおじさんを見て、ルリーシェラはなんかもやもやした気分になる。
「おじさんのスケベ」
「なぜそうなる」
アレクニールは酒を一口飲んで笑った。
「ドラゴンには舞踊などという文化はないからな、余計に不思議だったよ。せっかくニンゲンの体になったわけだし、ダンスを習うのも一興かもな」
「いや、それは……別にいいんじゃないかな……」
おじさんのダンスなど、足をぐるぐる回して敵を殺しまくる映像しか浮かばないミィフィーユであった。
一方で元・ドラゴンのおっさんが言う冗談を聞いたルリーシェラは、ほわんほわんほわんほわんと違う映像が頭に浮かんでくる。
フリフリの可愛らしいコスチュームを着て拡声器を持ったおじさんがウィンクし、隣には同じような恰好をしたサブロウと、何故かユルハ島収容所の所長も踊っているのだった。
「ぶふっ!?」
「ルリーシェラ、どうした?」
「……い、いや、別に」
悪夢のような映像だったが、どこか可愛らしさもあり、しばらくは忘れられそうにない彼女だった。
「まあ……個人の強さなど数字では測れないだろう。結局は勝つか負けるか、生きるか死ぬかだ。生き残れば再び戦って勝つチャンスはあるし、極端に言うと自分以外が先に死ねば勝ちだしな」
「それはそうだけど」
「永遠不滅なものなどない。栄えればいつかは衰える。それは歴史が証明しているんじゃないか?」
「今は弱くても……ってこと?」
「そういうことだ」
「ふーん……なんとなくためになった気がする」
「そうか?」
ちょっと思うところがあったミィフィーユは、口を閉ざした。
エルフの帝国を復活させたい彼女としては、聞き逃せないセリフだ。
「おじさんは……元の姿に戻りたいんだよね?」
「まあな」
「もしも戻れたら、その後は?」
「……そういえば何も考えてなかったなあ」
酒と戦しか頭になかったアレクは、笑った。
「たくさん酒を飲んで寝る。それでいいかな」
「おじさんはブレないね」
「単純な方がいい」
楽しそうな元・ドラゴンのおっさんを見ていると、なんだかおかしくなってルリーシェラや双子も笑ってしまうのであった。
新章は明日から更新します
ここまで読んでいただきありがとうございました
よろしければブクマ、評価などなどお待ちしてます




