15 傲慢なる黒龍と英雄たちの選択2
「・・・くっ!」
火傷を負った顔の半分を抑えながら俺はアーザクを睨みつけた。
あれから数分、アーザクの一向に止む気配のない攻撃をギリギリで回避し続けていた。
『そろそろ限界かワールドセイバー。ではさっさと終わらせてしまおうか。』
そう言ってアーザクは大きく爪を振り上げる。俺はそんな隙だらけのアーザクを切ろうと体を動かすがどうも本当に限界なのか上手く体が動かない。
そんな足搔きも虚しくアーザクの爪が勢い良く振り下ろされる。最後の抵抗のつもりで俺はレーヴァテインを盾にするように構えた。
瞬間、鈍い衝撃音とともに俺の視界を埋め尽くしていたはずのアーザクの爪が消えていた。
慌てて顔を上げるとそこには先ほど謁見の間の前で倒したはずのヒーローズ・スピリチュアルがアーザクに食らいつくように襲い掛かっていた。
「・・・何が起こってるんだ?」
俺はこの光景の意味が分からずただ茫然と立ち尽くしていた。
『な、なんなんだこいつらは!?。離せ!、やめろ!、この化け物めがぁ!!』
アーザクも相当焦っているのか黒い炎を無差別に吐き、ヒーローズ・スピリチュアルを振り放そうとしている。
暴れるアーザクの巨大な尻尾が当たりヒーローズ・スピリチュアルは後ろに吹き飛ばされる。だがダメージはあまり感じられず俺のすぐ横まで飛ばされそこで踏みとどまった。
「・・・お前、シャドウなんだよな?」
俺の問いにヒーローズ・スピリチュアルはこちらにゆっくりと目を向けた。
『・・・スコシマテ。』
そう言って地面に溶けるように沈む。そして地面からは八人の男女、そして前に戦った時の姿と同じ見た目の少女が地面から生えるように現れた。
「よぉ、あんたがカズハだな?」
中から一番近くにいた男が俺に話しかけてくる。
「ああ。もしかしてお前らがヒーローズ・スピリチュアルなのか?」
「そう。俺が、俺たちが《英雄達の意識》さ。」
「私たちは戦争から帰還した歴戦の英雄であり・・・」
「王に、国民に裏切られた憎しみの成れの果てさ。」
「つまり亡霊の集合体です。」
後ろにいた人たちも彼の言葉に続けるように説明する。
「いやー、まさか正気を取り戻せるとはね。あの銃持った嬢ちゃんには感謝しなきゃな。」
そう言って頭を掻きながら言った。俺は驚きのあまり忘れてしまっていたアーザクの方を見る。しかし心配する必要はなく、ヒーローズ・スピリチュアルが放った黒い触手のようなものに縛られ動けなくなっていた。
「・・・お前たちってシャドウなんだろ?、俺のこと殺したいとは思わないのか?」
俺がそう聞くと全員が悩むようなしぐさを見せ、それを代表するように前にいた男が答えた。
「そのはずなんだが、多分俺たちは使命より自分たちの憎しみを優先している。まあ、なんせそれを原動力に動いてんだからな。」
「まあ、シャドウになったのもあってお前のこともサラルの目のことも知ってるんだがな。」
蛮神とは全員こうなのだろうかと俺は苦笑いをしながら首を傾げる。よく考えてみれば前の世界で会った夜夢も同じような様子だった。
「にしてもどうやって正気を取り戻したんだ?」
俺の何気ない問いに今度は男が苦笑いを浮かべる。
「俺たちはあのミーナちゃんの願いを力に集合していたんだが、彼女が正気を取り戻して俺たちは意識ごとバラバラにされたんだ。」
説明が分からず俺は首を傾げる。それを見て後ろにいた小柄な女性が前に出て口を開いた。
「えっと、ミーナちゃんの魔法は人の意識と力を一つにすることなのですが、シャドウになった時に暴走したようでして・・・その際にそれぞれ別々に蛮神としてつくられるはずだった私たちを一つにまとめてしまったのです。それで一番大きかった《国と国王への憎しみ》というのが英雄達の意識を作り上げてしまったのです。それでミーナちゃんがあの女の子と話して正気を取り戻したことで暴走が収まり、私たちはこうして戻ることができたということです。」
長い説明を終え「ふぅ」と息をつく女性を隣りにいた高身長の女性が撫でる。それを見て誰も何も言わないあたりいつもの光景なのだろうか。
「ということだ。質問には答えられたかな?」
「ああ、ありがとう。そういえば名前は?」
そう聞くと男はバツが悪そうに笑う。」
「すまねぇ、取り込まれたときにミーナちゃん以外みんな自分の名前を落としてきたんだ。ほんとに名前だけ思い出せねぇんだ。」
「そうか、すまん。」
「別にいいさ。なくしたもんは仕方ねぇんだからな。」
そう言って笑った。その時、後ろからアーザクの怒声が響いた。
『くそぉぉぉぉ!!、死してなお邪魔をするか愚か者どもがぁ!!』
その瞬間、先ほどまで穏やかだった彼らの目に怒りや憎しみが映る。
「・・・いつでも耳障りな声してるなぁ。」
「ほんとに、嫌いですよ。」
「というか俺の魔具勝手に使いやがって、絶対に殺す。」
「リーダー、やってもいいんだよねぇ?」
声を聴いた彼らはまるで何かにとりつかれたかのように怒気のこもった言葉を口々に吐く。
「まあまあ落ち着けお前ら、すぐにやらしてやるから。あと少しだけこいつと話させてくれや。」
男はそう言って俺の方を向く。
「・・・お前はブゲルを知っているか?」
「あ?、あぁ、ここのことを教えてくれた。あとこいつも作ってもらった。」
突然の問いに戸惑いながらも俺はそう答えストレージから蒼月光を取り出して男に見せた。
「おお、まんまあいつの刻印じゃねぇか。変わらねぇなあいつ。」
そう言って懐かしそうに笑う。
「そうか、知り合いなのか。じゃあ話は早い。ミーナちゃんを頼む。」
「は?、意味が分からん。説明してくれ。」
「実は今、俺たち全員が存在し続けれるほど魔力が残ってないんだ。それこそアーザクを殺してから数分ももたないだろう。だから俺たちの残り魔力を全部移す。そうすれば三十分ぐらいは持たせることができるはずだ。」
そこまで言って男は戦闘準備をするように何もないところから剣を出した。
「だから、その時間でミーナちゃんをブゲルとクレアに会わせてやってくれ。頼む。」
そう言って男は俺に頭を下げた。彼の後ろを見ると他の人も皆、真剣な目や優しい目をして俺を見ていた。
最後に俺は気を失って倒れている少女を見た。
「・・・わかった。この子は必ず俺がブゲルたちのところまで届ける。」
「そうか、ありがとうカズハ。あの変態技師によろしくな。」
安心したのか男は優しく笑って後ろを向いた。
「さてと、お前ら時間だ。あのくそったれを血肉、骨や体液の一滴も残さず消し去って食らいつくすぞ。それが俺たちの最後の仕事であり、今この世に生きる戦友たちに送れる最後の置き土産だ・・・てぇ抜いたらぶっ殺すからなぁ!?」
そんな声を待っていたとでも言わんばかりに彼らは武装を整えていく。
そんな彼らは狂ったように口角を吊り上げ、笑っていた。
「さぁ・・・戦争のお時間だ。」
刹那、城には身も毛もよだつような龍の悲鳴が響いた。
どもども、神刃千里です。
やっと倒せましたー(^_^;)
多分もうちょっとでこの世界も終われると思います!
ぜひ次もぜひ読んでください!




