第10話 離脱
前日のゴブリン集落、とはいかずあの場所から1km以上離れた箇所から、はぐれゴブリンを倒す事で作戦は実行する事にした。標的は2体以下の大人ゴブリン。ホブゴブリンを見かけた場合は、退避する事にしている。ホブゴブリンとはどのゴブリンからでも低確率で生まれるらしい。よって、カーストの低いゴブリンからホブゴブリンが生まれたため、ゴブリンにとっては辺鄙な場所で暮らしている。普通だったら奥地へと行くらしいのだが、幼いのか違う理由があるのかあいつはこの地に留まっている。しかし上位種である事には変わりはないので、自ら働く事は無いだろう。この辺りには出てこないはず。
そして探索する事30分。ついに集落から出て来たらしいゴブリンが1体うろついている。6人は全員武器を抜いて、木々を陰に突撃していく。森の中で流石に矢は撃てない。一体のゴブリンに向かって6人が迫り寄る。
集団からカルロスが突出して大声を出しながら突っ込んでいった。あれどうなの? 6人で囲むって言ったよな? せっかくの数の優位が消えてんじゃねーか。今はそれ所じゃないか。
「ウォラァァァ!!」
『剛剣』だ。
特殊な筋肉の使い方と体の動かし方で、ただの振り下ろしの一撃を必殺へと変貌させる戦士のスキル。全身を絞るように練り上げた力が、カルロスの構えるバスターソードに集約する。だが、挑戦者の筋力で重いバスターソードを使いこなせはしなかった。重さで体が泳ぎ、『剛剣』の威力が半ばなくなり、唯の振り下ろしになる。
「ゲァ……!?」
『剛剣』を躱したゴブリンがその場で剣を抜いた。6人を睨み、最後にカルロスを直視すると剣を下段に構えて突撃した。
「ぬあ……!?」
装備が剣しかなかったゴブリンの動きはカルロスと異なり相当早く、カルロスは一歩遅い剣で何とか切り上げの攻撃を防いだ。剣と剣が衝突して、火花が飛び散る。
攻撃の余波でカルロスは押し倒され、尻もちをついてしまった。
剣を振り上げるゴブリンは、カルロスに止めを刺そうと剣を振り下ろしたが、仲間がそれを阻んだ。
「勝手に動かないで……!」
「うっせー! 俺が倒してやろうとしたんだよ!」
ディアナが木製のカイトシールドで間に入り込んで、ゴブリンの攻撃を受け止めた。ゴブリンは怒り任せに剣を振り下ろし、ディアナはそれを盾で防ぐが、力が無い分どんどん押し込まれていく。
「だ、誰か……!」
唯一健康体ともいえるアルが木々を走り抜けて、ゴブリンの背後を取る。
右手にダガーを持ち、『無音歩法』を使いながらゴブリンへと接近するが、敵はアルに気付いていた。
ゴブリンは背後に剣を振り回し、接近を拒み、アルを遠くへと押しやる。
「くっ……」
勇人、レイラ、ニーナの3名も到着してゴブリンを囲い込んだ。これで包囲こそ完了したが、手出しが出来なくなった。。ゴブリンは俺達をぐるぐると回転しながら、どうするか迷っているようだ。突破しようとすると、近くにいる奴が武器を振り回して、逃げようとさせない。
膠着するかと思われたが、ニーナの魔法はそれを打破する。
「リース・ディ・タップ・ブイオ」
詠唱された呪文に呼応して、杖の先端から魔法が射出された。ニーナの『瞬きの静止』がゴブリンの腕に当たって、その瞬間全員が飛び出し、各々武器で一回攻撃すると、距離を取った。
よし。ここまでは、良いぞ。カルロスのアホのせいで、結構めんどい事になったけど。特に刃物4つで切り付けたのは大きい。圧倒的に動きが悪くなっている。
そして元気よくカルロスが飛び出すと、ビクリとゴブリンの体が跳ね、後ろに飛んだ。
しかし後ろに居たアルのダガーがゴブリンを切りつける。背中を傷つけられたゴブリンは、前によろめいてディアナの剣の餌食へ。これを繰り返し、全員で滅多打ちにすると、ゴブリンは沈黙して動かなくなった。
「おい、カルロス、勝手に飛び出すなよ」
「あ? あー、はいはい。気を付けますよ」
カルロスは勇人の言葉を適当に返すと、剥ぎ取っていた袋を投げ飛ばした。勇人はそれを受け取り、バックへとしまう。こいつ、本当に分かってんのか? 結構重要な問題だぞ。まぁ、無傷でゴブリン倒せたし良いけどさ。
「一匹はやれそうだな。次二匹も狙ってみる?、ユウト」
アルが周りを警戒しながらそう言った。カルロス以外は周りを警戒している。まぁ、さぼっている訳では無く、今の今まで剥ぎ取っていただけだ。さっさと戻れと言いたいが。
「まぁ……それでもいいか」
勇人の目はカルロスに降り注がれていた。
「よし、あそこの奴らは二匹だな」
運良く二匹で行動しているゴブリンを発見した。
すると突如としてカルロスが走り出してしまい、作戦を練る暇もなくなってしまった。
「おい! 待て!」
誰の声であっただろうか、全員がそう言ったのかもしれない。
仕方なく全員も武器を取って走り出し、ゴブリン二匹に向かっていく。先にカルロスは切り結んでいる。ガンガン鉄同士がぶつかる音が、走る先から聞こえる。マジで何なんだよ。勝手に動くとかありえなくない? 個人プレーを否定するわけじゃないけど、負けるならそれはただの我儘なんだよ。ふざけんなって。お前だけが死ぬのは良いけど、俺達まで巻き込むなよ。
カルロスはゴブリンの剣で鎧の上から腹をぶっ叩かれ、呻いて膝を着いてしまった。一匹のゴブリンが剣を振り上げ、カルロスの頭を砕こうとした瞬間、『瞬きの静止』がその腕に当たって、間一髪それを止める事に成功した。あっぶな! ニーナが居なかったらもう死んでた。何であんな事するんだよ。今死にかけたこと分かってんのか!?
ディアナが盾を構えながら敵陣に突っ込んで、ゴブリンを交代させる事に成功した。全員がカルロスの元に到着して、武器を構えるとアルがカルロスを叱った。
「何やってんだよ、カルロス。いつもはそんな事しないだろ!?」
「チッ……。良いだろ別に。次は上手くやる」
それだけ言うとバスターソードを構えて突っ込んでいった。ここからは適切な援護もあり、カルロスの活躍もあって、ゴブリンは倒す事が出来た。
しかし禍根が残ったままの戦闘だった。
◇
それからもカルロスの独断専行は続いた。
2匹の時もまずは突っ込んで、ゴブリンに倒されディアナに守られるという事を何回でも繰り返す。その度に勇人やアルベルトに怒られるのだが、本人はどこか飄々としていて全く気に留めていない。二匹も何とか倒せてはいるので無事だが、一歩間違えれば大けが、死亡すらあり得る。
この日は昼過ぎに狩りを引き上げた。集落周辺には多くのゴブリンが徘徊していて、見つけるのもそう苦労しなかったので、今日は20匹も倒す事が出来た。
帰り道はその事で女組は喜んでいたが、男の方はそうでは無かった。
カルロスが正直邪魔になってる。弱い訳じゃないけど、チームプレイがあまりできていない。個人で何とかしようとする気質が大きい。アメリカと言う国柄かそうじゃないかは分からないけど、なまじ白人という力強さがそれを助長している。しかし病人の時点でそんな事は無いし、むしろ身長も低いし力も弱い。
取り敢えず報酬を山分けして、ご飯を食べるとその日は終わった。
夜、3人部屋で勇人達は二段ベッドに分かれて眠っていた。考えている事は下で眠るカルロス。しかしどうすれば良いのかは分からない。まだ1日目だし、アルもあまり何も言っていない。付き合いはアルの方が早いから、何か言うならアルから言うだろう。勇人は体を少し傾けて、腕枕をすると意識を底沈めて行った。
◇
「カルロス、出過ぎんなって!」
「うっせーな! ちんたらやってる方が悪いんだよ」
待ち構えて2匹を誘導しようとしているのに、勝手に飛び出していく。何なんだよ、あいつ。マジで。この後どうすんだよ。
「リース・ディ・タップ・ブイオ……!!」
カルロスは案の定押されて、ギリギリの戦いになっていた。ディアナに一体受け持ってもらい、ニーナの魔法がカルロスが戦っている個体に直撃すると、カルロスが意気揚々と反撃した。『剛剣』で頭を叩き割る。後ろからアルが『背後刺し』でゴブリンの背中をダガーで突き刺した。
勇人もディアナの援護に向かい、協力してゴブリンを倒す。ディアナの『突撃盾』で思い切りゴブリンを殴ると、ゴブリンは痛みに呻き前後不覚になっている。そのスキに『腹裂き』を叩き込んで、ゴブリンは倒れた。あとは首を突き刺して、止めを刺すと完全に動きを止めた。
今回は割と簡単に済んだな。『瞬きの静止』が避けられると、戦闘が長引いてかなり面倒になる。それでも今日で1週間だぞ。何回やれば気が済むつもりだ。
「カルロス、ふざけるなよ!! 何回やるつもりだ!?」
カルロスは機嫌悪げに振り返る。
「何がだよ」
「勝手に突っ込むなって言ってんだろ! そのせいで矢も撃てない!」
「別に倒せてるからいいだろ。何か問題でもあんのかよ?」
「大ありだ。何かあったらどうする気だ。どうして勝手に突っ込むんだ!?」
「……ちんたらやりたくねーんだよ。別に俺一人でやってもいいんだぜ? お前らとは違うからよ。分かるか? 俺は戦士なんだよ。お前らへなちょこの職業とはちげーんだ。俺が居るからお前らだって生きてるんだぜ? その辺分かってんの? マジで。雑魚がいきがってると痛い目見るの知ってっか?」
カルロスはへへっと笑うと、冗談か本気か分からないように笑う。
これはかなりイラッと来た。マジで腹立つ。
「……だったらお前ひとりでやってろ。俺達は5人でやる。お強い戦士様は一人でもいいだろ?」
「……あぁ? マジで言ってんのか、ユウ? 別に良いけどよ。後悔すんなよ」
「誰がするかよ。皆ウンザリしてんだ。お前のかって具合は本当に面倒だったんだよ。こっちは5人でやるから、お前も勝手にやってくれ。じゃあな」
戸惑っているレイラとニーナの手を引いてその場で分かれる。
アルとディアナも葛藤していたが、現状を考えると勇人の考えの方が正しいと思ったのか、カルロスの元を離れた。カルロスもかなり不機嫌になりながら、勇人達に背を向けて森の中に消えて行った。
「……いいの?」
レイラとニーナが同じような事を何度も聞いてくる。森の中を警戒しながら歩いているから集中してほしいが、まぁ1週間も行動をしていて、薄情だと思われたか。
しかしこれ以上やってたら、勇人達にも害はあっただろう。今までは2体だからこそ何とかなっていたが、3体以上になったら絶対殺されてる。
「いいんだよ。あいつだって一人の方が良いみたいな事言ってたろ。どっちにも都合が良かったんだろ」
「そうかねぇ……」
レイラが視線を森の先にめぐらせて、物思いに沈んでいる。なんだよ。それ。確かに少し悪いとは思ったが、でもあいつだって悪いだろ。チームプレイがモノを言う世界だろ。まして新人の俺達が言うまでもない。俺は間違っていない。普通だ。オンラインゲームとかだったらあいつは絶対はぶられてもおかしくない。そうに決まってる。
「二人ともそこまで。居るよ……」
アルが指をさす方向を見ると一体のゴブリンが居た。
全員しゃがんで方針を確認していく。
「カルロスが居ないから、呼び込みをするか。アル頼んだ」
「分かった」
アルは『無音歩法』で歩きだし、勇人達は木陰に隠れてその時を待つ。
十数秒待つとガサガサと走って来る音がしてきた。アルがゴブリンをトレインしてきた。それを隠れた勇人達が囲んで一斉に攻撃する。
アル姿を現した次の瞬間にゴブリンも包囲地帯に入り込んだ。
「リース・ディ・タップ・ブイオ」
「ゲ!?」
ニーナの突き出した杖から黒球が射出されて、ゴブリンの横っ腹に直撃した。
止まったゴブリンの左右から勇人とディアナが飛び出し、剣を腰だめにして粗末な皮鎧を上から突き破った。勇人は下から突き上げるように攻撃し、ディアナは横腹を真っ直ぐ貫いた。
「グエ……」
腹の中をかき混ぜられたゴブリンはすぐにでも呼吸が弱くなり、勇人とディアナの引き抜かれた剣で再度貫かれた後、絶命した。
2体の時も勇人・アルベルトとレイラ・ニーナ・ディアナの二組に分かれて対処した。この場合は勇人が敵を引っ張ってきて、後ろからアルベルトが『背後刺し』をする事で効率的に倒す事が出来た。
「オラァ……!!」
あとは背中の傷ついたゴブリンを切り刻むだけで、簡単に倒れる。もう一方はディアナとレイラが協力すれば、抑えるのは難しくない。ニーナの魔法もあるので、余裕があれば聖騎士の一撃が多大なダメージを与える。
カルロスは居ても居なくても変わらなかったのだ。
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