番外編 卒業と妹とバイオ兵器①
長かったんで分割しました。
妹は後編から本格的に出てきます。
「おーにーいちゃーん♪」
ある昼下がりの我が家で、僕──篠塚蓮斗の前では、艶やかな黒髪をツインテールで結び、ニコニコとみてるこっちも嬉しくなるような笑顔を向ける僕の妹──篠塚咲夜がいた。
「あのね、今日のは自信作なんだよ~」
そうか。自信作か。HAHAHA、何でかな。冷や汗が止まらないよ。
しかし、どうやらそう思っているのは僕だけじゃなさそうだ。現に僕のとなりに座っている、純白の髪を腰まで伸ばして放置している紅坂千雨姉さんも顔から汗が滝のように出ているし、反対側に座っている森一静音姉さんは表情こそ無表情だけど体がカタカタと震えている。
向かいに座っている日本人の特徴を全て体現した天宮誠兄さんに至っては涙を誘えるくらいガタガタと体を震わせている。
…………まあ、ここにいる皆、彼に同情できる。
双葉兄妹もいたのだが、咲夜の手伝いの最中急に倒れてしまったので今は地下で休ませている。
武志兄さんはいつもの通り近所のジム(どんなモヤシでも一日でマッチョになるとか……)で筋トレ。心底憎いぜコンチクショウ。
…………さて、現実逃避は完了した。もう、僕たちは蛇ににらまれた蛙よりもヤバいのだから今さらあがいても仕方がない……
僕はもう一度、目の前に置かれている血のように真っ赤なごはんと先が三叉ならぬ五叉に別れた白いナニカの蠢く、泡立つ紫色のスープ(?)、そして今にも動き出しそうな足のようなナニカが生えたギラギラと輝く(目玉動いてる……)焼き鮭(のようなもの)。
はて、これは果たして人が産み出せる料理
なのであろうか?
「えへへ~~。今日のメニューは~、お赤飯と味噌汁、焼き鮭の和風料理でーす♪」
にっこりと、恐怖に震える僕らに気づかず無垢な笑顔を見せてくれる。
そして、
「お兄ちゃん、みんな、どうぞめしあがれっ♪」
咲夜から死刑宣告が下された────
なぜ僕たちがこんなことになっているのか。
それは二日前に遡る───
─◇─
「これにて、第67回卒業式を終了いたします。ご来賓のかたは拍手をもって──」
「う~ん、やっと終わった~」
未だ眠い瞳を擦りながら僕は一人呟いた。そこらかしこで先生にお礼を言っている生徒や、卒業して離ればなれになるもの同士が最後の思い出にと写真を撮っている。
え?何で僕が混ざらないかって?
だって眠いもん。昨日徹夜で裏組織50こほどぶっ潰したからね。てか最後は百人くらいで拳銃ぶっぱなしてきたぜ。
警察仕事しろ!銃刀法違反者だらけだったぞ!
まあ最後は全員縛って金品没収して警察署に蹴り飛ばしといたが。
……知ってる?人間って、けっこう簡単に吹っ飛ぶんだよ?
閑話休題。
そんなわけで僕はそのまま帰って寝ようかと足を進めている。
(ああ、今日は姉さんに襲ってこないようにいっとかなきゃ。流石に踵落としとか寝技やられるのは勘弁したい。)
訓練と称して襲ってくる師匠で義姉を思い出しながらそんなことを考える。
……たまに裸で寝技をかけてくるのだが、まったく、帰ったら簡単に未婚の女性が男に裸を見せては駄目だとお説教しなくてはいけないな。
篠塚家、つまり『レイニー』のメンバーの料理を作っているのは僕だから、おかずを一品減らして罰としなくては。
「──いや、それなら姉さんは誠兄さんを襲っておかず奪うかも!」
「──何をウンウン唸ってんだ、蓮斗?」
「あ、京也」
パンと肩を叩かれたので振り返ると、同じ演劇部だった八塚京也がいた。
「ちょっとね。京也はみんなとのお別れ、いいの?」
「なーに言ってんだ。お前がいなきゃ始まらないだろ?」
「やっ、ちょっ」
そのままずるずると引きずられてく僕。
ドナドナ~
─◇─
そのまま引きずられていった先には、二人の女子の制服を来た生徒が喋っていた。
「や、やっと来たか、篠塚」
「せーんぱーい!桃華は寂しいです~。行かないでー」
背の高い方の女子がどもりながら挨拶してくれば、背のちっさい娘が寂しそうな顔をしながら抱きついてきた。
「こら桃華。女の子が簡単に男の子に抱きついちゃ駄目でしょ」
「先輩は男の娘だからだいじょーぶでーす!」
そんなことを言いながら離れない桃華。
(……寂しいの、かな?)
桃華の発言に若干の違和感を感じながらも、桃華を引き離すことをやめ、そのまま頭をなでなでする。
「ふにゃ~~」
そのままぐでーんと僕に持たれながら猫みたいな声をあげる。相変わらず可愛いな。本当に猫みたいだ。
「オカンだ、ここにオカンがおる!」
「ちょっと黙ってて、京也」
ったく、おちょくるのだけは一人前なんだからなぁ。
僕は抱きついてきた。少女──姫路桃華をそのままに、もう一人の少女──五行楓さんと向かい合う。
長い黒髪を一本に縛って、簪をさした頭に、整った顔つき、すらりと、しかし出るところは出ている魅惑的な体は学校中の男が付き合いたいと思うほどで、女には羨望と嫉妬の目で見られる。
しかし本人はそんなことに気付かず、知らず知らずのうちに男たちを魅了している。
告白なんて毎日が当たり前で、靴箱のなかにはラブレターが必ず入っている。
一言で言うならば、この学校のアイドル的存在だ。
しかも彼女は見かけによらず剣道部に入っており、全国大会で優勝している。
凛とした彼女に当てられ、道を踏み外した少女たちも少なくはない。
もう一人の、未だ僕の胸に顔を埋めている少女は1つ年下の後輩、姫路桃華。
こっちは母譲りらしい栗色の髪を肩ほどで揃えている。
その小柄な体、愛嬌のある顔、誰にでも明るい性格から学校のマスコット的キャラの座を勝ち取っている。
……いや別に競った結果そうなったんじゃあないんだけどね。
そして、今さらながら最後に八塚京也。
何も言うことはない。あだ名が『ノーマル・オブ・ノーマルズ』から察してほしい。
実にぱっとしないいたって普通の中学生だ。
……え?じゃあ僕は何て呼ばれてたかって?
………………『眠り姫』だよコンチクショウ。一回劇でやったのが不味かった。何で僕が眠り姫役だったんだよ……
因みに王子様は何故か楓さん。何でも、一部生徒から「八塚くんは王子じゃないよね、顔的に」って言われたんだって。だから男装した楓さんが王子役やったんだ。
……そんなこと言ってやるなよ。あのあと京也ガチ泣きしてて、宥めるのに苦労したんだから……。
そしてこれ大切。キスはしていない。する瞬間少しずらして頬にしたから。いや~、危ない危ない。
あのとき楓さん役に完全はいってて唇にしようとしてたから……。
閑話休題。
「そ、それでだな、篠塚。私たちは今から卒業祝いでどこか食べに行こうと思ってる。だから、一緒に来ないか?」
おおっ、これは嬉しい。
「うん。じゃあちょっと待って。妹に出前頼むよう言っとくから」
ということで僕はスマホをだして妹にメールを送る。『ちょっと友達と外で食べてくるから皆で出前でも頼んで食べて~(*´∀`)ノ』……よし、これでOK。
「(よし、落ち着け私。練習通り練習通り……)」
「(ふふっ、せーんぱーい!桃華は今日こそ先輩にアタックを……)」
「……何か、五行と姫路のやつから何かオーラが出てるんだが……」
僕は何やらゴゴゴゴゴゴと効果音が出て……いるな。うん。二人と何やら怯えている京也と僕の演劇部メンバー四人で、近所のファミレスへと足を進めた。




