第16話 『Memory Lost』
空白多いですがすみません。
久しぶりに更新。
───時は、リュカがパーティーを抜け出す少し前に遡る───
─○─
「母さま母さま」
私、セイラ・エルニアートは家族みんなで三歳となったばかりの王女さまの誕生日パーティーに来ている。
三歳であの美しさは……。凄いわねぇ。
って、子供に何を思ってるのかしら、私は。
そんな事を思いながら、声をかけてきた可愛い(×100)息子──リュカに振り返る。
「どうしたのリュカ?」
「ちょっとお外にいってきてもいいですか?」
「わかったわ。あんまり遠くにいっちゃダメよ?」
はーい、と返事をしてリュカは出口へと駆けていった。
……林檎を持っていって。
(林檎好きなのかしら?だったら帰ったらいっぱい買ってこなきゃ!)
突然だが、私の家──エルニアート家では侍女は料理をしていない。
なぜかというと、私が料理好きだからだ。特に用事がないときは、自分でつくった料理を皆に食べてもらうのは、嬉しい。
それに──良家に産まれたからって、其れを理由にして出来ることをしないのは、何よりも嫌いだったから……。
(でも、リュカはホント賢いわね!)
そう、リュカはほんとーに賢い子だ。
あの子は産まれてこのかた、夜泣きも全然しなかったし、わがままをいったりしたことも一回もない。
歩けるようになってからは、夜中に一人で用も足せた。着替えももう一人でできる。
それに本当に小さい頃から私たちの言っていることがわかってるみたいに素直だった。
……母親として、少しくらいわがままをいってほしい、っていうのはどうなのかしらね……。
変わったことと言えば、乳離れが異様に早かったことくらいしかない。産んで半年と少ししてからだった。
そう言えば最近よく家の書庫で絵本を読んでるわね。ふふ、可愛い♪
「よろしいですかな?ご婦人」
そんな私の幸せタイムを邪魔してくるやつが。
この声は……。
正直振り返るのは嫌なのだが、そういうわけにもいかない。
私は話しかけてきた相手──ブラス侯爵に振り返る。
「こんばんわ、侯爵。一体どうなされたので?」
すると彼はたっぷりと生えた顎髭をさすりながら言う。
「嫌なに、私はただあなた様を一目見たく存じ上げまして。いや、やはり美しいですな」
「それはありがとうございます。少し休みたいので、すみませんがこのくらいにしていただけますか?(訳、話したくないからさっさとどっか行け。)」
「いや、『氷姫』様とせっかく会えたのです。私も付き合いますよ。」
(うざったい!言葉の真意くらい聞き取りなさいよ!)
そんな中、救いの手し差しのべられた。
「どうした、セイラ
そういってきたのは、くすんだ赤髪をたてがみのように伸ばした男性──ガイル・エルニアート公爵。
私の夫だった。
─○─
その後、ガイルがブラス侯爵を追い払い、私達はリュカのことで話をしていた。
「ねえ、あなた。私、今日あれをリュカに教えようと思うの」
「ふむ、いいんじゃないか?そうなったら王女様も喜ぶだろうな──何せ、」
「そうね~。──リュカが、シルヴィア王女の許嫁だってこと♪」
事の発端は、リュカが産まれて少しした頃だった。
──そちらの息子さんと、うちの新しい娘と結婚させたい
これは国王様の弁だ。何でも、今の国王様と夫は学生時代の親友で、お互いに子ができたら結婚させようと話していたらしい。
そして向こうに女の子、こちらに男の子が産まれたので学生時代の約束を果たすつもりらしい。
────そんなことで婿さん決めていいの!?と思った私は仕方ないと思う。
その後夫と別れた私は、寄ってくる貴族をやんわりと退けながら佇んでいる──と、一人の侍女さんが慌ただしく駆けてきた。心なしか、顔は青い。
「せ、セイラ・エルニアート公爵夫人!国王様がお呼びです!火急の用だと!!」
────これは、なにやらきな臭いわね……。
─○─
所変わって、ここはパーティー会場の奥にある部屋。
ここに、私、セイラ・エルニアートと、先ほど私を呼びに来てくれた侍女さん──マルタさんと、リースフィーナ王国国王、ステイファード・バドム・レ・リースフィーナの三人が集まっていた。
重い空気の中、ポツリとステイファード国王が告げる。
「先程、賊によって娘──シルヴィが拐われた」
衝撃発言だった。
「それで賊の目星は?」
長年の経験則だ。こういうときは焦ってはならない。少しでも冷静に、そして客観的
対処しなくては……。
「うむ、どうやら騎士団の過激派の部下らしきことが分かっている。しかしの、何やらおかしなことになっておっての……」
「……?それは、どういう意味で?」
「ううむ……、それがの、賊は十人ほどおったのじゃが、何やら全員がうわ言のように自白していてのぅ。何やら庭園では戦闘の後も見られ──」
………庭、園……………?
「──すみません陛下!少し見てきます!!」
陛下が何やら続きを言おうとしていた。
でも、ヒールの裏に氷のスケートを作り、庭園を────リュカのとにな何やら感じる不吉な気配に、私はそれが外れることだけを祈りながら急いだ。
冷静になんて、なれなかった。
「行ってしまったか……。しかしこんなときに、ガイルのやつは何をしておるのだ?探しても見つからんとは……うぬぅ……」
─○─
──そこは、ある意味地獄だった。
至るところに散らばる刃の濡れた短剣。ぐしゃぐしゃに潰れた花壇。砕け散った噴水。
そして──辺りに散らばる血痕と……魔力の残滓。
……間違いない。これはリュ●の魔力だ。ということは、私の可愛い息子は──
その時、何かが私の爪先にぶつかった。その何かはコロ、コロ、とゆっくり転がっていき、やがてコツン、と音をたてて崩れた噴水の淵にぶつかって止まる。
瞬間、雲と雲の間からこぼれ落ちた銀色の月明かりがそれを照らしあげる。
嗚呼、それは、
それはリ●●の──────
──────────銀の光を反射するそれは、小さな小さな歯形のついた、真っ赤な1つの林檎だった───────
…………え?
それが何を意味するのか──空白の思考に陥った私が理解するのには、数秒の時間が必要だった。
ドレスが汚れることもいとわずに膝から崩れ落ちる。
「 」
もうなにも考えられない。そんな、●●●が、●●●が──────
───…………あれ?
私の子供って─────
一体、何て名前なんだっけ……………………?
次回、『始まりを告げるエピローグ』
次々回は、番外編を予定。
また、この作品と同じ世界観、同じ時間軸の物語、『魔砲使い』を新しく書いたのでお暇な方は読んでくれたら嬉しいです。ちなみにし主人公は女。チャレンジです。
まあ、すでに消した一作目も主人公女でしたが(苦笑)