二、血の日曜日1
「あははっ! 風花おっはよ!」
年のあらたまった一九@>年一月。今年初めの授業の日。
ノエルは学校の廊下で新年早々風花に飛びかかった。
「またか? ノエル! 何で人の背中に飛びつくんだよ?」
「風花のこの巻き毛! 可愛いわ! 堪らないわ! 顔を突っ込まずには、いられないわ!」
「あのな!」
「あはは! もふもふよ!」
振りほどこうとする風花に揺られ、ノエルは狭い廊下で足を振り回す。
「ちょっと、邪魔よ……」
「聞いてよ風花! クリスマスに誕生日プレゼントもらっちゃった!」
不意に後ろで声がしたが、ノエルは気がつかない。暢気に風花にぶら下がったままだ。
「プレゼント? 何を? 誰に? そんな余裕あんのかよ」
「あはは! 何とウチの労働猫からのプレゼント! この間、会わせてあげたでしょ?」
「あれ、猫かよ…… それに、大きな声で言っちゃダメだろ」
風花はノエルの言葉に、昨年紹介されたノエルの猫を思い出す。
家族とともに家に招待され、皆で腰を抜かした。訳ありのようなので黙っているようにと、風花は父――ライカから釘を刺されていた。
「ちょっと、聞いてるの?」
後ろの声は苛立たしげに震えている。完全に無視されていたからだ。
「風花はもう知ってるもの。大丈夫よ、猫だって話なら」
「けどよ……」
「邪魔って言ってるでしょ!」
「ん?」
その背後の大声にノエルがやっと振り返る。見るとブルジョワの少女アニーが、そこには苛立たしげに立っていた。
「邪魔よ。何廊下で騒いでんのよ?」
「あらブルジョワさん、おはよう。お邪魔だったかしら?」
ノエルは風花の背中から降りて、澄ました顔で振り返る。
「ええそうよ。邪魔って、言ったのよ。フランソワーズさん」
「フランソワよ」
「私だって、アニーよ。ブルジョワさんじゃないわ」
「ノエルもアニーも、何でそう会う度に、けんか腰なんだよ? 仲良くしろよ、お前ら」
間に挟まれた風花が、困惑顔で仲裁しようとする。
「ふん」
だがアニーは鼻を一つ鳴らすと、ノエル達の脇をすり抜けていった。
「何よ。それにしても不機嫌ね、ブルジョワの奴」
「最近街も、デモやら、ストやらで荒れてるからな。革命がどうの、同志がどうのって、うるさいだろ? 聞いた話じゃ、親の反対を押し切って学校にきてるってさ、アニーの奴」
「はぁ? なら、無理してこなくていいのに」
「アニーにだけは、本当容赦ないな、ノエルは?」
アニーにだけは冷たくあたるノエルに、風花は肩をすくめて呆れてみせた。