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11 ルーラ教の姫君

ルーラは、夢をみることは、なくなった。もう夢に、あの青年が出てくることはなくなった。


私は間違っていたのだろうか。

ルーラは思った。


いや、私は、あの青年が意味することの、ほんの入り口までは行けたのだと思った。しかし、そこから先に進むことはできなかった。


この世界でいつの日か、あの入り口のその先まで進む人間が出現するのだろうか。


最初の説法から、ルーラは国教をはじめとする、帝国内に存在する既成宗教を批判した。この世界を超えたものを人間の言葉で述べることはできない。と。

たが、結局、私にも、分からなかった。

超越した世界を、ひとは、言葉で語り、文字で読み、既成の何かで感じるしかないのだ。

ルーラは、既成宗教への批判をやめた。


どの宗教であっても、それが、ひとの魂にやすらぎを与えるのであれば、各々が、信じる宗教にその身を委ねよ。

ひとは、生を受ける前には、生を終えたあとには、それぞれの宗教が説く魂のふるさとに還る。


だから安心して、生ある限りは、神が人に生きる指針として与えた真と善と美によりその身を律し、精一杯生きよ。この世界は限りなく豊かなのだ。


この後に、初期教義転回と称される言葉が、ルーラから説かれてから、それまで停滞していた教徒の数は飛躍的に増加した。


スオウは、初めてルーラの説話を聴いたとき、胸の中に溢れるものがあった。この教えにどこかで接したことがある。

初めて聴いたはずなのに、そんな気がした。


ルーラの教えを信じて日々を暮らすスオウ。

シュアンからは、変わらず、月に二度、三度と便りが届く。

シュアンは、幸せに暮らしている。

シュアンからの文面も、スオウからの文面も穏やかなものになっていた。


これでいいのだ。

スオウは、思った。

私の人生はこれでいいのだ。


スオウは、商いに打ち込み、成功し、アイランでも有数の財を成し、ルーラ教の財政を支えた。


ルーラはアイランに居を移し、スオウが用意した会堂を中心に、その教えを広めた。

やがてアイランにおいては、ルーラ教徒が半数を超えた。


スオウの娘、メイリンは十四歳になった。その愛くるしい容姿と、快活な人柄により、ルーラ教徒の中で、いや教徒以外の間でも、アイランにおける、謂わばトップアイドルのような存在になった。

人びとはメイリンを、ルーラ教の姫君と呼びならわした。


誰がメイリンのお手ほどきの相手となるのか、それが、アイラン中の男たちの関心事であった。

メイリンはもう十四歳になっているにもかかわらず、まだ誰にもお手ほどきの相手を願う便りを出していない。


 ルーラ様なのではないか。ルーラ様に対しては、これまで、数知れない娘からの申し込みがあったが、ルーラ様はその全てに丁重に、お受けできないとご返事なされている。


 だが、メイリンであれば、ルーラ様はお受けになるのではないだろうか。 

 おふたりは仲がいい。メイリンは、ルーラ様に対して、師というよりは、兄であるかのように接しているし、ルーラ様もそれを喜ばれているようだ。

 ルーラ様は、メイリンからの申し込みの便りを心待ちにされているのではないだろうか。


 アイランでは、人びとはそのように噂しあっていた。

 いや、噂という言い方は適切ではない。

帝国においては、この種の話は明るく朗らかに語られる。



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