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1-1

「澤山」誰かの視線を感じた気がして、首を巡らせた岡部和人は目を合わせた相手に驚いた。新幹線と在来線を結ぶ連絡橋、澤山は笑みを浮かべていた。そんなはずはない、澤山は十年も前に死んだと聞いている。茫然として見る岡部に澤山がゆっくりと指を向けた時、

「ひょっとして岡部の「ワット」か」

 昔懐かしい呼び名で背中に声をかけられて、岡部は元の向きに振り返った。同じような五十年配の男が人違いを案じるような視線を投げていた。

 その顔にまた古い記憶がつながる。

「北見か」こちらも確証半分の返事をすると、相手もほっとしたような笑みで頷くのを見て、慌ててまた振り返る。澤山の姿はもうなかった。

「久しぶりやな」

「そうだな」北見の言葉に岡部も頷いた。「お前、足はあるな」

「なに言うてんねん」

「いや、なんでもない」答えながら、岡部はまた振り返ったが、無人の通路が続いているだけだった。

「二十年ぶりくらいか」北見が言うのに、岡部は最後に出席したクラス会から、もうそんなにたつか、という思いがした。

「どうしてる」「相変わらず」と、言葉を交わしながら、心のどこかで相手の出世具合を値踏みしている自分がいる。共にスーツ姿だが、北見の方が少々上等のようである。

「あ、ごめんなさい」脇をすり抜けようとした女性のバッグが北見にあたり、二人は新幹線改札前のベンチに席を移した。

「何や、西区か」名刺を交換して、北見が言った。「あそこの病院には始終来るんや。灯台下暗しやな」対する北見の名刺には県立病院診療所所長、部長と記されている。

「ああ」と岡部は気のない返事をする。一部上場の重工勤めとは言え、島流し同然では肩身は狭い。北見の言う病院と隣接する工業団地の一角に岡部の今の仕事場はあった。

「河島さんも元気やで。たまにみんなで会うんや。お前も一遍来いよ」

「そうか」北見の言葉に岡部は頷く。

 河島は二人の高校時代の恩師である。

「そう言えば、澤山が死んだとか、矢木のところが潰れたとか聞いたけど、何年か前」岡部の問いに、

「シュンシなぁ」北見はつぶやく。本来矢木俊之と言うのだが、漢文調で呼ぶのは高校時代の流行りで会った。矢木もクラスメイトの一人で造り酒屋を営んでいたが、近隣市出身の同僚から廃業の噂を聞いていた。

「澤山の葬式も一緒に行ったが、シュンシは今車屋をやっとる。あれもお前んとこの近所や。みょーな車ばっかり相手してるわ」

「そうか」と、岡部はまた頷いた。

 矢木は元々車道楽で、就職してすぐにアルファロメオ、最後に会ったクラス会にはジャガーで乗りつけてきたのを覚えているが、バブル崩壊の頃、経営が厳しいという噂も聞いていた。

「芸は身を助ける、やな。もっともその中に俺のやら河島さんのがあるわけやけど」北見は苦笑いし、壁の時計を一瞥し、「そろそろ行くわ」と立ち上がり、「連絡しろよ」岡部の手にある名刺を指す。「電話でもメールでもかまわんから」

「ああ、わかった」と応え、岡部は新幹線の改札へと向かう旧友を見送った。

北見と別れ会社に顔を出し、仕事帰りにスーパーの総菜売り場で夕食を買って帰宅した。岡部はこのアパートに一人住まいである。妻とは息子の大学卒業就職を機に別れた。5割引きのピリ辛鶏どんぶりを電子レンジで温めインスタントみそ汁、百円缶チューハイの晩酌で夕食を摂りながらテレビのニュースを見ていると、トピックにクラシックカーのレースが取り上げられ、

「お、懐かしい」と、テレビを見ながら、画面に現れる車を眺めていると、レーシング・スーツ姿の同年配の男がインタビューに応え、

「若い頃の夢を今かなえてます「仕事のモヤモヤも吹き飛びます」と語っている。

 再び映る車の中に、

「お、ナスール」とかつての愛車を見つけ、岡部の心はざわついた。甲高いエンジン音と共に疾走する車の姿に、

「これか」岡部は呟いた。

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