5話「桜と黒薔薇と読書」
蘭々たちに見送られ、いつもより少し軽い気持ちで屋上の扉を開ける。
「……いらっしゃい」
本を読んでいた彼女は一瞬だけ顔を上げてそう言った。
「お、お邪魔します!」
いつものように黒薔薇様……野薔薇さんの隣に腰を下ろす。
と、彼女の読んでいた本に目が止まった。
「あ、それ……」
ふと溢れた私の言葉に反応して、野薔薇さんが顔を上げた。
「……どうしたの」
「私も読んだことあります、ロミオとジュリエットみたいな感じの話ですよね!」
「……そうね」
私の言葉に返事はしたものの、特に気にした様子もなく本の方に戻ってしまう。
(うぅ、やっぱり話が続かない……)
「……神坂さん」
「あ!はい!!」
しょんぼりとしているとふと名前を呼ばれてつい大きな声が出てしまう。
「あ、す、すみません大きい声出して……!えっと、どうかしましたか?」
野薔薇さんが私の名前を呼んだのは、最初にお互い自己紹介をした時以来だ。
やっぱり迷惑だったかな、と少し萎縮しながら野薔薇さんの様子を窺う。
「……何かおすすめの本ありますか?」
……オススメノホン?
予想外の言葉に一瞬フリーズしてしまう。
「あ、え、えっと『窓の向こうに』とか『花嫁の水鏡』……とかどうですか?『届かぬ手紙は』が好きなら多分その辺りかなって……思うんですけど……」
だんだんと自信がなくなっていっている自覚はあったが、それでもしっかり言い切った。
それを聞いた野薔薇さんは小さく頷いた。
「そう、ありがとう」
それだけ言うと野薔薇さんは再び本に視線を落とす。
野薔薇さんが何を考えているのかわからなくてはてなを浮かべている私と、その隣に座る野薔薇さんの間を荒々しい風がビュウっと吹き抜けていった。
結局、そのあとはいつも通り会話もなくお弁当を食べ終わったところで予鈴が鳴った。
「よ、予鈴なりましたね!それじゃあえっと……」
「……えぇ、また明日ね」
「……!」
視線は本に落としたままだったが、彼女は確かに『また明日』と言ってくれた。
「はい!また明日!」
今日はいいことばかりだと、屋上から降りていく私の足取りは弾んでいた。
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