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美少女コピペ令嬢  作者: けい
9/18

コピペ令嬢、ピンチに陥る

投稿、少し遅れました。

 しきはドキドキしながら白水はくすいの屋敷の長い廊下を歩いていた。織は栄誉あることに白水はくすいの屋敷に立ち入ることを許された、餝家かざりけの長男である。

 白水はくすいの地で土地と同じ名の苗字を名乗ることが許されているのはその土地を治めている一族のみだ。だから白水はくすいの家からの呼び出しとあらば何を置いても出ていかなければならない。

 まあ、織が心臓が今にも飛び出そうなほどに緊張しているのはそのせいだけではない。とある姫さまからのお呼びであるからだ。むしろその理由であるからの方が大きい。しかし、呼び出された時期が時期だ。

 白水はくすいの地が長い冬を明かし春が来た頃、それは多くの姫が嫁入りに行く時期だ。長い冬は外に移動するのも一苦労だ。だから今の冬というのは嫁入り支度の時期でもある。その時期に呼び出されたのだ。あの姫さまは嫁に行ってしまうのだろうか。いや、馬鹿なことは考えていない。あのべらぼうにお綺麗で、どこか寂しそうな姫さまを笑わせたいと思ったことはある。でも、自分の嫁に来てもらえるだなんてそんなことは考えてもいない。そんなことを考えているとつい拳を握ってしまっていた。

 長い廊下を漸く抜けて姫さまのお部屋に着く。こんこん、とノックする。

「失礼します、七の姫さま。餝家の織が参りました」

 そう言うと、どうぞ、と声が返ってくる。いつもの綺麗な声だ。その言葉に重く、おそらく姫自身が開けることは想定していない豪華な扉をできるだけ音を立てないようにして、開ける。

「ご機嫌よう。来てくれてどうもありがとう」

 身分を示すためか座ったままこちらを見つつ挨拶をする姫さま。しかしどうにも、織はそれに違和感を抱いた。別にいつもと何が違うわけでもない。長く美しい癖のない髪は半分編み込まれ、半分下ろされている。ドレスもいつもより少し豪華では有ったが趣味も変わりない。

 しかし何かが決定的に違うように思えた。まるで、七の姫のことを表面だけ知っている何かが彼女を演じているような気がした。だって、姫さまは織と会うときいつだって花が咲くように笑い、今にも立ち上がってしまいそうなほど身を乗り出してしまうのだ。

「どうかしたかしら、」

 困惑しているようなその顔もそっくりと言うよりは同一だったが、それでも違和感は拭いされない。だから。織はひとつ賭けに出た。幸いなことに姫さまの部屋にはほとんどの場合侍女がいない。それは普通あり得ないことだが何故かこの姫さまだけは放置されているかのようにそうされているのだ。だから、失言したとしても姫さまに大勢の前で恥をかかせたことにはならない。

 それを踏まえて、織は通常ならあり得ない言葉を言った。このままだと何か取り返しのつかないことをしてしまうようだったから。

「失礼ですが、貴女はどなたですか?」

 しぃんと部屋が静まりかえる。そして、座ったままの姫さまが俯いて肩を震わせる。それは屈辱にか悲しみにか。それに慌てて織が弁解しようと口を開こうとしたその時。

「ふっ、あははははは、はは」

 姫さまが声をあげて笑い出した。いや姫さまと言うよりは姫さまの形をした何か、が。それに目を向いていると。

「正解、合格だよ。あの子は随分人を見る目があるようで安心した」

 そんなことを言い出す。完全に口調が崩れたそれに、織は問いかける。

「誰か、はまあいいや。姫さまはご無事か?誘拐の類か、」

 そう言う言い振りに少し慌てて何かはぶんぶんと首も手も横に振る。

「いや、怪しいもんじゃないよ。ほんと、あの子も元気元気。これはテストみたいなもんだったんだって。だから大声とか出すのやめてね、それこそ姫さまに迷惑かかるよ」

 あの子、という親しそうな言い方とこの白水の家ではあり得ない砕けた話し方に訝しむような顔をしながら織は言う。

「テスト?」

「そう、テスト。あと聞きたいこともあってね。率直に言おう、七の姫のこと恋愛的な意味で好き?」

 あんぐりと口を開けてしまう。七の姫自身であるかのような同一の容姿に好きかどうかを聞かれる。そんな、奇妙なこともそうそうないだろう。

「な、失礼だろう。俺の身分で姫に懸想とか」

 織の反応に目を細め、普段の七の姫が絶対にしないだろう嫌な笑い方をしながら何か、は揶揄うように言う。

「んーいや建前とかはどうでも良くてね。好き?」

 そんな率直で無遠慮な態度に織は苛立ちを覚える。もうフリをする気もなく、姫さまがそんなことするわけないだろう、と言うような言動をするそれに一言言ってやろうと、

「大体何でそんなこと、推定不審者に言わなきゃなんないんだよ、」

 と言いかけて。急に真剣そうになった何かの顔が見えて言うのを止める。姫さまそっくりそのままの顔を真顔にされると美しく圧があるのだとこの時初めて思い知る。

「いやこれは真剣なことだよ。こっちは七の姫の将来がかかってるんだから」

 徹頭徹尾真剣な顔と声でそう言う何か、に織も真剣になる。なんせ姫さまの将来がかかってると言われたのだ。腹を、くくる。

「ああ、好きだよ。恋愛的に好きだ」

「人生を共にしたい?」

「したい」

 それに満足気に頷くと。

「おーい。もう出てきていいよ」

 何かは部屋の奥につながる扉に向けて話しかけて手を振る。そうすると、きぃと扉が小さく開き。七の姫が出てきた。

「ご機嫌よう、秋の祭り以来かしら。またお会いできて嬉しいわ」

 そう挨拶する声も顔も今度はなんの違和感もない。思わず織は、交互に二人を見比べる。そっくりと言うよりかはやはり同一だ。纏う雰囲気や表情が少々違う程度で、正直言って、姫さまと日頃話していなければ見分けがつかない。

 しかし、織にはそれより、大事なことがあった。

「姫さま、今の会話、聞いていらしたでしょうか……」

 姫さまが口を開くまでの数秒が織には永遠に感じられた。

「いいえ、何も。会話なんてしてらしたの?挨拶をして気づくかどうか確かめたいって言っていたのに」

 七の姫は何か、に顔を向ける。それに何かはデレデレとした態度で話す。

「うん、確かめたくて、一言二言、ね。良い人だね」

「そうでしょう?!」

 パァッと嬉しそうに飛び跳ねかねない態度で嬉しそうにする姫さまはとても可愛らしい。その姿にとても癒されつつ、織は胸を撫で下ろした。

 

 

「入れ替わり!?」

 味方になってもらおう、あわよくば七の姫との距離を近づけよう、の第一歩として呼んだ餝の家の織は、本当に七の姫のことを思っていた。

 なのでざっくりと経緯を説明して私たちのネタバラシをした。

「はあ、それで。あんたが七の姫の振りをしてそのまま陛下の妃選びに出る、と。そんで妃に選ばれたいから力を貸して欲しい、と」

 考えるようなそぶりをする織。しかし、私は元から味方にする気満々だ。というかここまでバラしたのだから味方になってもらわないと情報漏洩しそうで、困る。とっとと一蓮托生にしなければ。まあ、味方になるだろうことをほぼ確信しているのだけど。

「ダメかしら、私たち、あまり頼れる人がいなくて。あなたならって思ったの、」

「いえいえ、お任せください。姫さま。私如きでお役に立てるかと悩んでいただけです」

 ほらね。そりゃ好意があるのに、七の姫のお願いを叶えないでいられるやつはいないわな。しょうがない、あの可愛い顔の前には全てが無意味。

「さて、まず疑問の解消といきましょうか?それともお召し物や飾りの相談といきましょうか?私は白水の職人に顔がききますのでなんでもおっしゃってくださいね」

 キリッとした顔で数分前の迷いもどこへやら織はそんな風なことを言う。

「姫さまと言う呼び方はちょっと、入れ替わってるのバレちゃうかも」

「そうだね、今姫さま私だし」

 そう言うとさっきのキリッとした顔からしょげた犬のような顔をする。

「では、あなたを七の姫様と呼ぶとして。姫さまを、なんとお呼びしたら良いでしょう?」

 確かにそこは気にかかる。名前は今は賜っておらず身分も保証されていない、しかし七の姫というわけにもいかないし勝手に八の姫というわけにもいかない。というか八の姫はもう別にいるのだろう。もし、七の姫が正式に身分を保証されたら果たして何と呼ばれるようになるのだろう、と思いつつ。

「うーん、客として来てて今はお名前がない設定だから、お嬢様、は?」

「それにしましょうか、今は身分の保証のされていない身だもの。姉妹たちと別の言い方で良いかも」

 その私たちの会話に渋々というように織は頷く。おそらく、姫さまという呼び方に思い入れがあったのだろう。

「さて、呼び名が決まったところで準備をしようか。疑問の解消って言ってたよね何か知ってるの?」

 その言葉にこくり、と織は頷く。

「ああ、一応聞いたことがあるし何なら確かめるのに人をやると良い」

 改めて、七の姫のと私の対応すごい違うな、と思いながら続きを促す。そんな風にしてたらいつか七の姫本人から勘違いされるんだからな、と考えつつ。

「お題で出された、顔見せで使うすべてのものはっていうのは、あてがわれた部屋を飾ったりする物もってことです。あてがわれる部屋はわざと飾り付けもしてない質素な、祭りの時にしか使わない小部屋を指定されるんです。前もって確認しておく用意周到さ、自分を引き立てられる空間を作れるかどうかもはかってるんだと思います」

 なるほど、道理だ。ならば侍女の方に言っておいて確認して来てもらおう、と頭の中の言うことリストに付け加える。すると、順調に話していた織が何かに気づいたような顔をして少し表情が暗くなる。

「どうしたの?どこかぐあいでも悪いのかしら」

 七の姫が気づいてそう言うと言いづらそうに織は口を開く。

「いえ、その言い難いのですが。お召物、については少しまずいかもしれません。髪飾りについては間に合わせますが、ドレスが、」

「あ、」

 七の姫も気づいたようで口に手を当てている。

「ドレスが何?」

 そう聞くと、

「ドレスはフルオーダーが基本なんだよ、そしてそれだと早くて六ヶ月はかかる。3週間だととても無理」

 そう言われてやっと気づいて私は顔を青くする。やられた。そもそも準備に取り掛かり始めた時間が遅すぎたのだ。そもそも私が転生して初めて選ばれようと思ったのだ。ならば事前に情報収集することもない。

 作戦、早くも大ピンチ!


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