9話 旅の転機
翌朝。皆が目覚めて1時間。早速皆で第5領域ボスのいる洞窟へ踏み込むことになった。安全な立ち位置から魔術の先生、リーゼロッテ先生が索敵をし、見つけた敵、オーガを先頭に立つドミニクさんが次々に斬り払っていく。第5領域という危険域にいてなお一撃。何とも圧倒的である。
「ドミニクさん、少し休んではどうでしょう」
唐突にリーゼロッテ先生がそう言う。よく観察してみると確かにドミニクさんは若干疲れているように見える。もう1時間以上先頭を務め何十もの魔物を倒しているので当然ではあるのだが、リーゼロッテ先生以外に誰も気づけていない様子である。
「代わりに俺がやる」
そこで俺が名乗り出る。神国四戦騎であるラファエルさんは主戦力であり、それをサポートするアリア、神都で名を轟かせた冒険者だった武術の先生を消耗させるわけにはいかない。そこで俺がちょうどいいのだ。
俺はアリアに教わった、常駐型の王龍剣術を発動させる。王龍剣術はわざわざ口に出さなければならないところが欠点だが、この型は一度発動させたらしばらくはその状態のままだ。
「王龍剣術【金色の王龍】」
金色の龍が俺の、どうやらエクスカリバーというらしい聖剣を包み込む。聖剣は金色の淡い光を放ち始める。
アリアの【金色の王龍】はもっと光が強く色が濃かったのだが、これも未熟の証ということなのだろうか。それでも問題なくオーガを一撃で倒せている。
そこから、さらに30分程度の時を歩き続けると、洞窟の天井が徐々に広くなっていく。どうやらこの先にはボスがいるようだ。
高まる緊張感の中で、リーゼロッテ先生が口を開く。
「オーガと同種の気配ですが、とても大きな影です。具体的にはわかりませんが恐らくオーガロードがこの奥にいます」
「ボスはオーガロード、ということですね」
リーゼロッテ先生の情報を聞いて、ラファエルさんが要約した。
「オーガロードとの戦闘経験はあります。特に苦手とはしていませんが、四戦騎で一番オーガロードの相手に合っているのは『聖騎』のシルバさんですね。彼女は力で押してくるオーガロードに対して受け流しで有利に立ち得ます」
「要約すると受け流しが有効ってことですか?」
俺が面白みも何もなく要約すると、ラファエルさんは苦笑いする。
「まあ、そういうことですね」
その後、俺たちは真っ先にオーガロードの洞窟に入った。先頭に立つラファエルさんが入りざま、何かに気づいたかのように剣を眼前に掲げる。直後、オーガロードの豪腕がラファエルの剣を直撃する。
その瞬間、ラファエルさんが動き出し、一拍遅れでアリアと武術の先生とドミニクさん、さらに一拍遅れで俺が動き始める。
「爆焔斬」
「王龍剣術【王龍突】」
「王龍剣術【王龍突】」
オーガロードの肉体が爆ぜ、斬撃を食らい、そして刺突を2連続で食らう。オーガロードが吹き飛び、立ち上がろうとした瞬間――後ろから飛んできた数多の風の斬撃がオーガロードを襲い、直後に大爆発が巻き起こり、オーガロードを吹き飛ばす。
俺が思わず後ろを振り返ると、そこには掌から追加で魔術を放つリーゼロッテ先生の姿。オーガロードの身体を雷が駆け巡った。比喩ではなく雷属性の魔術である。
「皆さん、今のうちに止めを!」
リーゼロッテ先生が叫ぶと、ラファエルさんが空かさず爆炎の斬撃を食らわせる。それに続いて俺たち4人が攻撃を加える。
「王龍剣術【極彩色の王龍】【王龍斬】」
「王龍剣術【金色の王龍】【王龍斬】」
動けないボスに、俺たち4人の斬撃が加えられ、その身体がさらに揺らぐ。そこにリーゼロッテ先生の魔術と、ラファエルさんの全力の蹴りが命中し、オーガロードがそのまま倒れる。もう一度立ち上がろうとするオーガロードに対して、攻撃が当てられ続ける。
しばらく同じような光景が繰り広げられると、案外簡単にオーガロードは倒れた。そして、ボスが倒れた証に第5領域と第6領域との間の結界が解けたようで、半球状の光の膜が割れたような光景が見える。
「倒せましたね」
「そうですね、ラファエルさん」
それから数十日間、俺たちは移動を続けた。歩き続け、魔物の領域から外れた地域までやってきてから、さらに数日歩き続けたのち。最初に声を上げたのは、リーゼロッテ先生だった。
「索敵にたくさんの人々が引っかかりました……村、あるいは街だと思われます」
「カーライル先生がそう仰るのならそちらへ向かいましょう」
武術の先生がそう言う。リーゼロッテ先生に向けて言ったようなので、リーゼロッテ先生の家名はカーライルなのだろう。
ともかく、俺たちはリーゼロッテ先生が見つけた村、あるいは街に向かうこととなった。一度安心して休みたいのもそうであるし、何より地図通りに来ることができていればここは地方の中枢都市。その都市でエコノミラ商国の首都にある、冒険者養成学校の学長に話を通してもらう手筈になっているのだ。
「先生方、冒険者養成学校に行ったら何をするのでしょうか?」
「生徒全員とまずは実戦形式で試合をしますね」
何をするのか気になったのもあり、何をするのか尋ねると、リーゼロッテ先生が生徒全員と実戦形式で試合をするとかいう馬鹿げた、というか負担の大きすぎることを言い出した。
もしもこの学校も生徒数が神国のものと同じくらいであれば、900人以上と戦うことになる。そんなことになれば時間もかかるし疲れるので勘弁だ。
そういったことをいろいろと喋ったり考えたりしていると、都市が肉眼でも見える距離までやってきた。予想よりも大きな都市だった。アニメなどで見る都市はある程度統一されているが、本当にそのようなものである。某検索エンジンで『異世界 都市』などと検索してみるとそれがよくわかる。
俺たちはその都市へ向かう足を早めた。