10話 エコノミラの北都市
都市の中に入ると、そこは予想通り活気に満ちていた。どうやら地図の通り来れていたようで、そこは例の大都市だった。
アラナンド神国の南に位置する、エコノミラ商国の北。ちょうど大陸全体で見ると真ん中あたりである。ここは海が遠くないので、市場に目を移すと海鮮類が販売されている。
「ここには連絡を待っている間に滞在する予定です。恐らく1週間程度になるでしょう」
「じゃあ、自由時間ということでいいですか?」
ラファエルさんが自由時間を求めるような声音で発言する。確かに俺も自由時間は欲しいがラファエルさんが自由時間にやりそうなことなど鍛錬くらいしか思い浮かばない。
「そうですね。自由時間ということにしましょう。とりあえず宿はあそこです。101号室なので間違えないでくださいね」
そういってリーゼロッテ先生は目の前の少し奥にある建物を指さした。ホテルというよりは洋風の旅館と言った方が近いだろう。
この国も日本語を話す国なので、店に吊るされたプレートに書かれている言葉が読める。
『北のばあさん亭』
……。
「勇さん、一緒にこの街を回りませんか?」
「俺もそうしようと思ってた。最近あんまりアリアと喋れてなかったしな」
そう、俺は最近アリアと喋れていなかったのだ。移動中は基本集中し、見張り当番の時以外は泥のように眠る。そんな生活が2か月近く続いていたので中々アリアと会話できなかった。
まず俺たちはまともなご飯を食べることにした。これまでの旅で食べていたものと言えば倒した魔物や妙にしょっぱい干し肉、嚙み千切れない硬いパンくらいだったので飯が食いたい。この世界の食の水準は元の世界に負けず劣らず高いようなので期待できる。
「どこがいいかわかるか? ていうか何食べたい?」
「どこがいい店かはわかりませんが海の幸を食べたいですね」
「俺も食べたいと思ってたところなんだよ」
流石に生魚を食べるのは無理だろうが、和風の焼き魚とかあれば食べたい。そろそろ日本の味が恋しくなってきた。
2人でしばらく探し回っていると、それらしき店を見つけた。
「えーっと、店名は……『焼き魚の店』」
「これ、店名って言っていいんですかね」
いろいろと探し回っていると『焼き魚の店』という名の飲食店を見つけたので、中に入ってみる。そこは案外狭く、お世辞にも賑わっているとは言いにくいような店だった。10~15坪の広さで8つの席が設置されており、そのうち奥から3つが埋まっていた。
俺たちは適当な席に座り、元の世界で言う鮭のような見た目の魚を焼いたものの定食を注文した。
内容は米、味噌汁、サラダ、そして焼き魚だ。
よく考えて思い出してみると、こちらの世界に来てから初めての和食だ。懐かしさと焼き魚の旨味で舌が蕩けそうになる。ついでに涙も出そうになる。
「美味い……」
「じっくり焼かれてふっくらとした鮭の身、そしてパリッと香ばしい皮の旨味……美味しいです!」
アリアの感想は軽い食レポかと思う程度には長いが、確かにこの味に当てはまっていて、ピンとくる内容だ。
俺たちはその美味しい焼き魚を猛スピードで食べ終わると、まだ空いていたのでしばらく席を占領しつつ雑談をした。
それからしばらく、骨董品の露店やら水飴の露店やらを回り、いくらかお金を浪費して、かなり楽しんでから旅館に帰ることができた。
骨董品は謎の生物の骨があったり、高そうな壺があったりしたが、そこでは何も買わなかった。見るからに怪しいので仕方がない。ちなみに魔力は特に感じなかったので優れた商品という訳でもなさそうだった。
「水飴、すごく美味しかったですね」
「そうだな。また一緒に食べよう」
そうしてその日は旅館の受付前でここまで来たメンバー全員が集合し、部屋割りを決めることになった。
リーゼロッテ先生、武術の先生、ラファエルさん、アリア、ドミニクさん、俺の6人がいるのに対し、旅館を貸切って確保した部屋数は5部屋。なんでこの旅館を選んでしまったのだろうか。
リーゼロッテ先生主導の話し合いの末、リーゼロッテ先生と武術の先生、ラファエルさん、ドミニクさんが1部屋ずつ、俺とアリアで1部屋に……
……え? いや、そこは……え?
リーゼロッテ先生とアリアで1部屋とかあるじゃん。
アリアが結構ゴリ押して俺と同じ部屋にさせようとしているとは勘づいていたが、まさか本当にそうなるとは。
とはいえ、5部屋中3部屋はベッドが2つあるので、恐らくその部屋にしてもらえる。……さすがにそうだよな?
無事、5部屋中2部屋だけのダブルベッドの部屋になった。どうしてこんなこと許容してしまったのだろうか。別にアリアと同じ部屋なのが嫌だという訳ではないが、教育機関としてそういう判断をしてもいいのだろうか。
部屋には風呂が備え付けられていた。日本にいた頃は進んで風呂に入りたいわけではなかったが、他に娯楽がない以上、お風呂は少ない楽しみになっている。
「で、どっちが先に風呂入る?」
「では私があとでいいですか?」
「ああ、問題ない」
即座に風呂の順番を決めると、俺は風呂桶に据え付けられている魔道具に魔力を流し込み、お湯を沸かす。一度に魔力を多めに注ぎ、より早く浴槽にお湯を溜める。
数分後、お湯を溜め終わると、俺は一度脱衣場に戻り、服を脱いで風呂へ入る。同じくお湯を発生させる魔道具が内蔵されたシャワーで身体を洗うと、急いで浴槽に浸かる。お湯の温かさが身体にしみる。
俺が風呂から上がり、アリアも風呂から上がった。ここまでは事故など起こりえないのだが、ここからが問題だ。何か起こらないように俺はベッドに入り、すぐ眠りについた。
……いや、眠れるわけがない。なんせアリアはとんでもない薄着だ。肌に張り付いて透けている。というか、普段どう見てももっと小さいはずの胸元の実りが明らかに大きい。
でも考えないでおこう、眠れなくなる。
気づいたときには寝ていたようだった。




