12話 諒哉の記憶
諒哉と陽菜とともに教室に戻ったとき、ちょうど先生も教室に入ってきた。
早速授業が始まり、まずはこのクラス全員に対して俺とアリアが試合を行うということになるようだ。
最初に俺と対戦するのは諒哉だった。
「……圧、というか闘気がすごいな」
俺は、彼の得物の盾を左手、剣を右手に構えた諒哉の圧倒的な闘気に気圧され、思わず感想を口に出す。
「……」
諒哉は剣と盾を構え、真剣な表情で未だ無言。その状態のまま、審判が口を開く。
「試合開始!」
試合開始の合図と同時に、俺が地面を蹴って諒哉へ近寄る。それと同時に諒哉が剣を後ろに引き盾を前に出して受けの構えをする。
「【剣聖覚醒】」
今はまだ魔力量が少ないので、強化される時間は短時間。さらに、剣を振り抜く間だけが効果時間になるように調整をしてスキルの発動に魔力を注いでいる。
勇者特有の高ステータスが3倍にされた威力の攻撃。
「王龍剣術【金色の王龍】【王龍斬】」
今の俺にできる最大の攻撃。それを諒哉は――
盾を構えて軽く受ける。全く効果がなかったかのように、一方的に俺の剣が弾かれる。
俺は剣に身体を持って行かれるままに捻りそのままバックステップを踏む。が、無理な動きをしたせいで少々躓く。
その隙を見逃さず、諒哉は素早く俺を追い、右手の剣で打撃を繰り出す。
想像以上の速度で迫ってきた諒哉に対し、咄嗟に動けない俺。諒哉は俺の身体が竦んだのを見るよりも早く剣撃を急加速させる。
俺はそのままの勢いで突き倒され、首元に剣を突き付けられた。
模擬戦が終わり、次がアリアが陽菜と模擬戦をする番が来た。その間に俺は諒哉に話しかける。
「お前、どうやってそんなに強くなったんだ?」
「……俺は――」
陽菜から、陽菜を庇って勇がトラック轢かれて死んだと聞き、一度家に帰って俺は真っ先に涙を流した。10年以上も前からの幼馴染なのだから仕方のない事だ。
泣き疲れてしばらくして、陽菜から連絡があった。一度会って話をしないか、とのことだ。
俺が陽菜に呼ばれた集合場所である陽菜の家に着き、これからどうするかを相談する。学力が3人とも近かったのもあり、同じ大学に行くことにしていたのだが。
深夜にベッドの上で話していたこともあり、俺は疲れて寝込んでしまった。
目を覚まし、体を起こすと、そこは陽菜の家ではなかった。
熱帯雨林。
林の中は暗く、見渡しが利かない。蔓などもたくさん生えており、川の音もそこそこ近くに聞こえる。
「諒哉、起きた?」
右隣からの声に視線を移すと、そこにはいつものように陽菜がいた。陽菜の右隣にいつもいる勇の姿はないのだが。
「ああ、起きたけど……ここはどこだ?」
「私もわからないよ……」
それはその通りでもある。熱帯雨林のような場所に突然連れていかれて、どこかと訊かれて答えられるのは少々おかしいくらいだ。
すると、ドラゴンの咆哮のような声が聞こえてきた。ドラゴンの咆哮など聞いたことはないが。
その声はかなり近くのようで――
「諒哉、後ろ!」
陽菜に呼びかけられ、咄嗟に後ろを向くと――
ヤマタノオロチ。
日本の伝承の怪物が熱帯雨林にいるのはどうかと思うが、紛れもない。
俺と陽菜の足は動かない。2人とも足が竦んで逃げることができない。
ヤマタノオロチが、よりヤマタノオロチの近くにいた俺に食いつく。
その瞬間、俺が念じたのは――「陽菜には生きて欲しい。俺がコイツに倒される運命だとしても、陽菜が生き残る運命であってほしい」。
青臭くてたまらない。
青臭くて聞いてられないような、その願いはしかし、聞き届けられる。
凄まじい浮遊感と共に、俺の目に映る景色が変わっていく。熱帯雨林のような場所から、真っ白で広い空間に。
「私たちは運命の女神、3柱合わせてモイライ」
純白の中、目の前には3柱の女神が現れる。
そのうち1柱が口を開き、生気のない機械的な声で自己紹介をする。
「私は紡ぐ女神、クロートー」
「私は測る女神、ラケシス」
「私は絶つ女神、アトロポス」
彼女らは運命の女神だというが、俺は心の底から信じ切ることができない。確かに超常の力を第六感のようなもので感じることには感じるのだが。
「ちょっと待ってください、急に謎の空間に飛ばされて、『私たちは運命の女神』? 状況が全く分からないのですが……」
俺の中の疑問が天元突破してしまいそうになったので、失礼だと分かっていながらも、ついつい話に割り込んで質問をしてしまう。
そもそもどうやってこんなところまで飛ばされたのか、何故飛ばされたのか……。
「では私がお答えしましょう。この空間は我々の上の者が作り出した、『権能付与の空間』です。ここで、運命を操作したいと強く願った、素質のあるあなたに【運命】の権能を授けます」
「権能……?」
クロートーが答えた内容にも不明点があったので、引き続き尋ねる。
「私が引き継ぎます。権能というのは、勇者や、一部の適性を持った人間が扱うことのできる特殊能力です。【運命】の権能は、過去・現在・未来の中で、選択して現象を引き起こします。例えば、斬撃をしている途中で【運命】の権能を発動すれば、過去・現在・未来全ての中で最高の斬撃を放つことも出来れば、最低の斬撃を放つこともできるようになります」
つまり。ラケシスの言葉によれば。この世界に存在する全ての斬撃から好きなものを選択して使える。凄まじい力だ。
「本来であれば、権能を使うのに相応しいかどうか、試練があるのですが――今回は特別に、この権能、差し上げましょう。正しく使ってください、決して悪の道になど堕ちないように」
その記憶は、真っ白な世界は、幻想のように弾け飛んだ。
俺の意識が現実に引き戻される。
俺を食らおうとするヤマタノオロチ。俺は【運命】の権能を発動させるが――不完全。過去の記憶しか参照できず、しかもそれは遡って10年前後。
間一髪、過去の回避術が俺を回避させる。
ヤマタノオロチの1本目の首を回避した俺だが、後ろからやってきた首に襲われる。ここからの回避は不可能。俺は【運命】の権能を発動し、防御力を高める。
ヤマタノオロチに首が無防備に晒されたとき、俺は【運命】の権能を使い、最高の一撃で首を殴りつけると、衝撃でヤマタノオロチの首が3本、千切れ飛ぶ。
俺は拘束から解放される。10年間で最高クラスに硬くしたはずだが、噛まれていた背中と腹が刺されたような痛みをジンジンと訴えかけてくる。
回避しようとした際、無理をした脚も千切れそうなほど痛い。
また【運命】の権能を使い、自身を大幅に加速させる。遡って10年の最高速により、あっと言う間にヤマタノオロチの首の射程を潜り抜ける。そのすぐ後、先ほど消し飛ばした3本の首が再生する。
俺はそれに構わず、拳を引く。一瞬後、ヤマタノオロチの動体にここ10年間の最高威力のパンチが打ち込まれ、動体の一部が焼けこげ一部は消滅する。
心臓を失ったヤマタノオロチはその再生能力を生かすことができず、力なく倒れ込んだ。




