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9 育成ロリ娘イベント

 とにかく俺は死に物狂いで暴れていた。


「いい加減……! このっ、このっ、俺の身体から降りろ!!!!!!!」


 何もしなかったら雌墜ち確定。

 ピンク色の初公演(デビュー戦)で「俺の愛●が!」と黄色い声でコールされる側になるし、俺も俺で『こんな下着レースは初めて♡』みたいな感じで応えることになってしまう。

 

 俺の手ではみだらさんをどけることも止めることもできない。もし少し邪魔になっても簡単に払いのけられて、俺はそのたびに痛みに喘いだ。


「くっ」

「抵抗しても無駄ですよ」


 分かってるさ、無駄だって。

 それでも奇跡を願って全身全霊で力を振り絞るしかなかった。


「もう気付いているはずです、私からは逃げられないと」

「う、うるさい……! この常識スカスカの変態女!!!」

「っ――――――――カハッ!」


 意外にも俺の言葉を受けてみだらさんは急に吐血し始める。

 みだらさんはハンカチで口元を丁寧に拭って、


「こんな可愛らしい子にストレートに言われると、流石に……堪えますね」

「吐血するほど!?」

「……でも」


 みだらさんは呟いて、舌でぺろり。

 新作のアイスを食べ歩く気軽さで、生暖かい感覚が俺の頬を撫でた。


「へ?」


 予想もしていなかった行動に俺は呆然と間抜けな声を漏らすだけ。


「まるで私が毎晩想像してきた『わからせ』のシチュエーションみたいですわね。力のない子供なのに生意気に強がって、追い詰められてどうしようもなくなっても口だけは達者で。諦めが悪くて、いつまでも汚い言葉を喚き散らして、でも最後には観念して泣いて謝って懇願する――」

「な、何を言ってるんですか……?」


 みだらさんは俺の質問には答えず、純真な瞳で続ける。


「でも私は止めるつもりはありません。私だけが楽しんではいけませんからね、相手方にも徹底的に楽しんで頂かないと。心がぽっきり折れて、代わりに全ての希望が私でいっぱいになるまで続けて、それでやっと二人は結ばれるのです。愛という名の強い絆で、永遠に……。私と梓乃様もきっと……♡」

「きっ――」


 気持ち悪っ!!!!!!!!!!!!


 ゾゾゾゾ――――――――――――――――ッッ。

 俺の全身を悪寒が襲う。

 思わず力いっぱいに自分の身体を抱きしめる。

 止まらない。

 華奢な体がガタガタと小刻みに震えていた。

 歯を食いしばっても耐えられない感情に頭が支配されていく。


 駄目だコイツ、早くなんとかして逃げないと……!


 そんな俺の気持ちはお構いなしに、みだらさんは慈愛さえ感じる微笑みを浮かべながら再び俺の手をとった。


「先程のお言葉、流石は梓乃様です。まだまだいわゆるメスガキになり切れてない部分もありますが、素晴らしい演技でした。思わず滾ってしまいましたわ♡」

「ひぃいっ……!!!」


 必死に首を振って拒絶するも通じない。

 みだらさんは火照った身体を俺に重ねた。ロリボディが豊満な胸に押しつぶされて、視界が肌色に制圧される。

 問答無用で吐息の掛かる距離まで顔を寄せられる頃には、逃げ場はどこにもなくなっている。

 いや、最初からそんなものはなかったのかもしれない。


 さっきまでの展開さえなければ、元男なら親指を立てずにはいられないシチュエーションだっただろう。けど今はもう、人の皮を被った得体の知れない怪物を覗き見てしまった後の様に、頭が真っ白だった。

 気が付くと俺は、あんなに固く握っていたはずの拳も開いていた。


 もうダメだ…………おしまいだぁ…………。


 もはや一ミリも抵抗する気が起きない。

 俺は全てを彼女に任せた。

 理解してしまったから。

 どんなにあらがっても拒否し続けても、彼女にとっては単なるプレイの一環で、なにをしてもただ楽しませるだけなんだ、と。


「おや、諦められますか?」


 微笑を浮かべるみだらさん。


「てっきり未知の快楽に溺れて、朦朧としながらも口だけは達者なまま耐えて朝を迎えられるのかと思っていましたが……」


 そう言いながら俺の目をのぞき込んでくる。

 反抗の意思がないと思ったのか、


「まあ、いいでしょう。ふふっ、後は全部お任せください。私好みの立派な女の子に仕立て直して差し上げますわ」

「…………」


 諦めるのは思ってたよりも心地よかった。

 怒りも不安も恐怖も感じないから。

 きっとみだらさんなら良くしてくれるだろう。


 だから、せめて、と俺は情けを乞う。


「初めてなので、その……………………優しく、してください……ね?」


 終わった。何もかも。

 これから本格的に雌にされるんだと俺が思った矢先、


「――――っっっ!?!?!?!?」


 驚愕。

 みだらさんはその二文字を浮かべて固まっていた。

 俺も驚く。

 さっきまで恍惚と蕩けつつも全く隙がなかった彼女が、幻でも見てしまったかのようにのけぞり、目を見開いて俺を見下ろしていて。


「ああっ……まだ初体験の意味も知らなそうなこんな小さな子が、少女漫画や友達同士の内緒話でしか知らない情報から想像を巡らせて、『もうダメ……でも、いっそしてしまうのなら……』と観念した末に絞り出したセリフ……!!!!!! 乙女にとって、初めての告白と双璧を並べる最上級の恥虐ちぎゃくッッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! カハッ……!」


 突如、みだらさんは鼻から鮮血を吹き出した。


 な、何だ?

 いきなり性癖を語り始めたと思ったら今度は放心して……。

 でも、チャンスだ。

 

 俺は一瞬の隙に枕を全力投球。


「ふがっ」


 ハンガーに掛かっていたシャツを乱暴にひったくって、羽織りながらふすまを開け放ち飛び出す。

 後ろからゾンビみたいに追ってくる全裸メイドに向けて手あたり次第に物をひっつかんでは投げてを十回は繰り返して、俺はやっと玄関のドアノブに手をかける。


「お見事です。さすがにメイドでもこんな経験は初めてでした」


 こっちは息も切れ切れだっていうのに、みだらさんは淡々とそう言った。

 俺も頷いて、


「こっちだって初めてだよ!!!!!」


 初体験が初体験すぎて散々でもう泣きそうだよ、トラウマになるわっ!!!


「騙されました。私はもうとっくに諦められたのかと……」

「……確かにみだらさんは序盤中盤終盤、隙がない完璧なメイドさんだった。その上、大人としても経験豊富で、しかもえっちで……。でもさっきの愛情トレーニングで気付いたんだ」


 あらゆる訓練を受けてきたみだらさん。

 でも俺には不思議だった。もしも本当に経験豊富なら俺以外の人ともこういうことをしてきたはずだ。なのに『分からせ』は妄想でしか知らず、抵抗する女の子の暴言だって効いていた。


「つまり、みだらさんは意外と、その、あっちの経験が……(ごにょごにょ)」


 俺が言い淀んでいると、みだらさんは力強く頷いて、


「はい。ご指摘の通り私は本番の経験がございません」

「やっぱり……」


 それに気づいた時、ふと閃いた。

 このアイディアはトレーニングをぶち壊すのに使えるかもしれない、と。

 俺はこのスキルを《愛情口撃ジェットコースター》と名付けよう。


「もう行くよ。メイドさんが敵側の人間ならここもすぐに危なくなるから」

「……本当にお見事でした。絶望的な状況にもかかわらず最後まで諦めない姿勢。流石は私の見込んだお嬢様です」

「さようなら、俺の初めてのメイドさん」


 最後にみだらさんは清々しく微笑んで、いってらっしゃいませと頭を下げる。

 スカートの裾を軽く持ち上げて片足を引く――お辞儀(カーテシー)だ。

 裸体でも怠らない従者としての振る舞いは俺には少し眩しすぎて、直視できないまま俺はドアを押し開けた。

次、最後。

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