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普通で何が悪いっ!  作者: 鳳タクマ
第一章 変化する普通
16/20

第15話~幼馴染の家は心臓に悪いっ!~

遅くなってしまいました! すみません!



「あーあ暇だなぁ」


そろそろ暑くなる頃、昼過ぎの土曜日に修は今自宅から少し離れたところにある商店街に来ていた。

特に予定は無かったのだが朝起きると『これで昼ごはんは食べてね♪』と書かれた紙と二千円がテーブルに置かれていた。なので修は商店街の方で昼食をとりに来ていたのだ。


「さて、何を食べようかな」


商店街、というよりも繁華街と言った方がしっくりくるかもしれない所を頭の後ろで手を組んで歩いてた。

休日ということもあってか、結構な賑わいだ。まぁほとんどがカップルでその中を一人でぶらぶら歩くと言うのは悲しい現実でもある。


三十分ほどさまよい続けたが、なかなか昼食をとる店が決まらない。そろそろ腹の限界もきて歩くのも疲れてきたと思った所で修はよく知る人物と遭遇した。


「ん?」


「あ!」


よく知る人物……それは七海だった。

普段の制服姿とは違う、フリル付きの可愛いワンピースを着こなした七海に不覚にもドキッとしてしまった修だった。

すぐ我に返った修は視線を手元の方に移すと七海の手には買い物袋が二つ握られている。たぶんショッピングの帰りだろうか。


「アンタこんな所でなにしてるのよ」


いつもの不機嫌そうな声で問いかけてきた。一瞬スルーしようかとも考えたが後がどうなるか想像したくもなかったので適当に返答しておく。


「いや、昼飯でも食おうかと―――」


思って、と続ける前に七海の言葉が遮った。


「なら私の家に来なさいよ」


「いやでもほら……」


「いいから来なさい」


「えーでも……」


「い・い・か・ら来なさい」


「……はい」


七海の圧倒的なオーラの前に修は力無く答えた。そうすると七海は顔を少し赤くしながら荷物を持っているにもかかわらず修を引っ張っていった。一方の修は流れに身を任せるかのような感じで、ほぼ諦めている。

修はズルズルと引きずられながら商店街を後にしたのだった。


     ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


七海に引きずられること数十分、修は七海の家の前に到着した。と言っても家が隣なので新鮮さはあまり感じない。


「毎日見るけどこうして中に入るのは何年ぶりだろうな」


ガチャガチャとドアの鍵を開ける七海の後姿を見ながらそう呟いた。


「んー 五年ぶりくらいじゃない?」


そう言いながら修に中へ入るよう促した。

少し緊張しながら、ぎこちなく修は家の中へと入った。その様子を見て七海はフッと笑いがこぼれた。

二人は廊下を少し進んでリビングに着いた。


「それじゃ、その辺のソファでくつろいでて」


七海はそう言い残すとキッチンの方へパタパタと行ってしまった。


「なんか落ち着かないなぁ」


いくら家に行ったことがあってもそれは何年も前の話。健全な男子高校生が女子の家で二人きりと言うのはなかなか心臓に悪い。こう、色々と考えてしまうものだ。


それから程なくして昼食は出来た。


「これ、お前が作ったのか?」


修が驚きの表情でテーブルに並べられたバゲットサンドやスコーンを見つめる。それを聞いて七海が少し照れていた。

それと、七海のエプロン姿を見てドキッとした。普段とは違う七海も見れて目の保養にもなるが、座ったときに少しスカートがめくれ上がっていて精神衛生上はよくなかった。


「そ、そうよ! 文句ある!?」


「いや、文句は無いけど……お前料理できたんだな」


「何よ、その意外そうな顔は」


心の奥で(てっきり暴力しかないのかと……) と突っ込んだのはここだけの話しだ。


さっきの照れていた顔から一瞬で不機嫌な顔になる。その視線が痛かったため修は咳払いをしてから「は、はは美味そうだなーいただきまーす」と言ってバゲットサンドをひとつ口に運んだ。

口の中にはハムとトマト、マヨネーズのおいしさが広がった。それぞれの具材が見事にマッチしていて申し分ない出来だ。


「そんなに急いで食べなくても……」


次々にバゲットサンドを平らげていく修に対して七海は苦笑いを浮かべながら言った。だが修は気にすることなくどんどん食べていく。


「もぐもぐ……だって美味いからな。いくらでも食べられる」


「あ、当たり前じゃない!」


素直な感想を述べた修だったが、七海は顔を赤くして修の食べっぷりを見ていた。



その後スコーンも全て平らげた修はふぅ、と息をつくと「ごちそうさま」といってちゃんと礼をした。


「にしてもよく食べるわねアンタ」


「んー 普通だろ? それにさっきも言ったとおり美味かったからな」


「も、もぅ! またそんな事言って!」


「いや、本当だって。また食いたいくらいだし」


修は自覚していないが、七海の顔はどんどん赤く染まっていき、ついには耳まで真っ赤だ。


「し、修がどうしてもその……た、食べたいって言うなら月曜日にまた……作ってあげない事もないけど」


顔を赤くして、もじもじしながら修に言った。上目遣いも入っていてドキッとしてしまったが修からしてみればこれ以上ない嬉しいことだ。


「いいのか?」


「ふ、ふんっ! べ、べ別にいいわよ」


顔を真っ赤にしながらそっぽを向くのに対し修はいきなり立ち上がりガッツポーズをあげた。七海は少しびっくりしたようだが、ここまで喜ぶのにはこの前の食べ物の恨みも絡んでいる。それに普段の弁当だけでは少し物足りないと感じていたのも事実だ。


「んじゃ楽しみにしてるよ」


修はそういいながら、ニコッと笑った。


「ふ、ふんっ! (あーもう! そんな笑顔するんじゃないわよっ まともに顔合わせられないじゃない!)」


その後、そろそろ日も暮れてきたところで修は帰る事にした。

そして、やけに上機嫌で七海の家をあとにしたのだった…… ただ、今日は心臓に悪かった、とも思った。

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