第124話 ハコネ談判
静まり返った戦場に、双方の死体がゴロゴロ転がっている。
撤退に際し放棄された兵器たち。小銃から機関砲を乗せた装甲車両まで。
その全てが沈黙し、擱座し、頓挫していた。
「…………」
「…………」
その死屍累々の頂点に、彼らはいた。泥と穴でまみれたテントの中にいたのは、主に二人の男だった。片やこのハコネの地で勝利した男。片やその勝利を彼にくれてやった男。
「一つ、確認したい」その前者であるダイモンは、静かに言った。「これから諸君ら『戦争博物館』は我々革命軍に協力するというのか?」
「その認識で構わぬ」そして、その後者たるフリードリヒは答える。「余の決定は騎士団全体の意志である。異論のある者はいない」
両者は一定の距離を開けて置かれたパイプ椅子に互いの体を預けていた。ダイモンは腕を組み、フリードリヒは足を組んでいた。その上でお互いは視線をぶつかり合わせていた。今尚お互いが敵であるかのようであった。
だが、それは当然のことだった。
昨日の昨日まで彼らは殺し合っていたのだ。
敵同士だった――それが唐突に向こうを裏切ってこっちに来たというのは、懐に抜身のナイフを抱えるようなものである。
「そうは言うがな。」だから、敵対的態度を崩さず、前者は言った。「我が方としては、君の突然の心変わりについていけないというのが実情だ。君たちとはそれなりに長きに渡って衝突してきた。それに対する和解の試みも失敗してきた……それが今日突然講和を通り越して恭順の姿勢を示すというのは、一体どういうわけなんだ?」
「余がそう願った。故に騎士団はそれについてきた。それだけの話だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「答えになっていないな。私が聞いたのは、その願った理由についてだ。何が君をそうさせた?」
「質問に答えなければ協力してはならないというのか?」
「別に、そういうわけではない。しかし何も知らないままではいそうですかと背後を任せられるほどの信頼を勝ち取った記憶も与えた記憶もないのでね」
「その通りだな。余は貴公を信頼などしていない。する予定もない。ただ一つ言えるのは、革命というものに身を投じてもいいと思えるようになったということだ」
「だから、それは何故」
「何、簡単なことだ。余も人の子だということだよ」
そう言って、フリードリヒは足を戻して立ち上がる。突然の動きに、ダイモンは若干動きが鈍った。意図を測りかねたのだ。それでも下から睨みつける。
「抽象的な物言いはもう結構。そろそろ本質を話してもらいたいものだが?」
「余は恋をした。故に革命に参加する。これでもまだ不十分だというのか?」
「…………」ダイモンは仮面の上からこめかみを押さえた。「聞きたいことは山ほどあるが……まあいい。それでは堂々巡りだ。我が方とて党員全員の志望動機を知っているわけではない。ならば多少出自が特殊だからと君を特別扱いするのも避けるべきだとは思う。『内閣』家出身の革命家というのも政治的に必要ではあろうしな」
「つまり、合意するということなのか?」
「紆余曲折と枝葉末節を省き、誤解語弊を恐れない言い方をすれば、そうだ」
そうダイモンが言うと、フリードリヒはちら、とどこか別のところを見た。その先には彼の思考がある……仮面の下でダイモンはそれを追うが、死角になっていてよく見えない。その隙を、フリードリヒは突いた。
「なら、一つ条件を付け加えてもよいだろうか?」
「条件?」視線をダイモンは鋭くする。「今更何だ?」
「何、簡単なことだ。貴公にとって、それは取るに足らない条件であろうが、こちらにとっては非常に重要でな。もしここで約束してもらえるのなら、それ以上の喜びはない」
「もったいぶった言い方はもういいと言ったつもりだったが?」
怒気すら混じったその言葉を、フリードリヒは不快そうに見つめた。だが一秒も経たないうちに、彼は機嫌を直したらしい。それから横一線に広がった髭をにいと更に広げながら、ダイモンに目一杯顔を近づけて、言った。
「スズナ・ルーヴェスシュタットを余にくれ――そうすれば、余は革命に全力を尽くすと約束しよう」
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