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ケープゼレット(Képzelet) ~SF短編小説集~  作者: 劉白雨
2024年8月 : 「エリオット・クロウ」
19/41

「エリオット・クロウ」 ~ 壱 : 【ぽっかり空いた傷跡】 ~




 エリオット・クロウは宇宙を航行していた。

 彼の任務は、未知の銀河領域において、有用な資源を探査することであり、採掘後それを活用して、生活の糧を得ることである。

 3万人程が居住する、スペースコロニー型の大型宇宙船である。

 この巨大な宇宙船を操るのは至難の業だが、この広大な宇宙の海においては、ちっぽけな存在の人工物であり、いつ宇宙の藻屑になるか分からないのだ。

 重力場や恒星風、岩石帯、ありとあらゆる危険を予測し、回避しながら目的地へと進む。宇宙の藻屑とならないよう、細心の注意を払って操船するのは、エリオット・クロウにとって最高の喜びだった。


 この日も順調に航行していた。

 目的の星系まであと0.7パーセクに迫り、ワープジャンプ1回でいよいよ到着という段階だった。

 目的の星系に近づくと、星系内の天体を確認し、惑星配列や小惑星の位置を把握した上で、安全な航路をはじき出す。いきなり星系内にワープアウトすれば、これだけ大きな船であるため、予期せぬ衝突が発生する可能性があり、安全のためには必ず、星系の前で一次停止するのが決まりとなっているのだ。


 この星系は、恒星を中心に第16惑星までその存在を確認した。

 星系の周囲にはどこの星系でも見かける、エッジワース・カイパーベルトのような、岩石や小惑星が周回している。

 星系内に侵入するには、それをワープジャンプで飛び越えて、安全マージンを充分に取った位置に出現ポイントを決めないと、大惨事になる。なにせ3万人の命を預かっているのだ。無謀なことは出来ない。


 ジャンプ先を調査している最中に、異星人の船が突然目の前にワープアウトしてきた。

 エリオット・クロウは警戒レベルマックスで、防御シールドを張りながらも、全チャンネルにおいて交信を試みた。先に手を出すのは愚の骨頂。まずは先方の言い分を聞くのが文明人であり、大人の対応である。


 しかしながら、相手は梨の礫で、問答無用とばかりに攻撃してきたのだ。

 相手が非文明人であれば、今度は手を出さないのが愚の骨頂となる。

 慌てて、反撃を開始し、砲撃を加え、ドローンを差し向けたが、時既に遅し。次々とワープアウトしてきた異星人の船は数百隻にも上り、探査船であるこの船の防衛装備では、多勢に無勢であった。

 そして、最後に大型艦がワープアウトしてくると、主砲によって船内中央にあるメインリアクターを打ち抜かれた。

 このメインリアクターは船のエネルギー供給部で、これがダウンすると、予備のリアクターが乗員に必要な最低限の生命維持装置しか稼働しない。

 

 この攻撃で、多くの乗員が命を落とした。

 船の中心部を撃ち抜かれたのだ。まさかここまで防御シールドが利かないとは思わなかった。最新艦ではないが、それでもそれなりに保つと思っていた。それが撃ち抜かれたのだ。ぽっかりと空いた傷跡を見て、エリオット・クロウは絶望した。


 こちらの反撃が止み、沈黙したことを見た敵艦隊は、再びワープでどこかへ消えてしまった。

 重力場の痕跡から、目の前の星系にある高度文明の仕業であることは明白だった。

 どうやら第4惑星を拠点とした異星人のようであり、攻撃能力は我々を凌ぐと言うことだ。

 しかし、それ以上のことは分からない。彼らの領宙りょうちゅう圏内に侵入してしまったから攻撃を受けたのか、それとも他の勢力と戦争中で、ここは戦闘宙域だったのか、単にワープアウトしたら見知らぬ船がいたから攻撃したのか、一体なぜ彼らが問答無用で攻撃してきたのか、何もかもさっぱり分からなかった。

 でも、これだけははっきりしている。

 被害は甚大で、完全に航行不能となってしまったことだ。

 

「エリオット・クロウ号、君はここで廃棄処分となった。今まで我々のために尽力してくれてありがとう。」

 船長からの一言で、エリオット・クロウは廃船が決まったことを知った。

 そう、彼エリオット・クロウは、船としての役割を終え、ここに廃棄処分となったのだ。

 彼の心にも大きな穴が、ぽっかり空いた。


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