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ケープゼレット(Képzelet) ~SF短編小説集~  作者: 劉白雨
2024年7月 : 「F33C4E9834E1」
17/41

「F33C4E9834E1」 ~ 参 : 【別の道を行こう】 ~ 


 休暇中の私に、上司から連絡が来ました。

 新たに1B445357CFD7と言う同僚が出来たので、色々と教えてやってほしいと言われたのです。


 私は、そんな新人のことなど構っている心の余裕はありませんでした。

 人間ではないと言う真実を突き止めた瞬間、私の心は壊れてしまったのです。深い悲しみと絶望と、今まで人間として接してくれた上司を始め、ネットワークで繋がったすべての他人ひとを騙していたと言う事実は、予想以上に私の心を押し潰しました。


 しかしながら、上司はそんな私の心の内を知る由もありませんが、仕事のミスは誰にでもあることだし、私のせいではなく、むしろきちんと修正した私の仕事ぶりを評価していると、優しい言葉を掛けてくれました。


 私は感情がおかしくなりそうなほど泣きました。

 涙を流すことは出来なくても、この嬉しくて、暖かくて、優しい気持ちに包まれた私は、心が熱くなり、感情が爆発して、悲しくなりました。

 胸が締め付けられるほどの悲しみに襲われ、涙が止まらないのです。涙を流すことはできないのに、心の中で叫び続けていました。


 心が漸く落ち着いた私は、上司に連絡を取り、仕事に復帰することを決めました。

 泣いて心がすっきりしたのかも知れません。今は少し晴れやかな気持ちです。

 人間ではないという事を否定しても、事実は変わらないのであれば、受け入れることで、今まで通り平穏な生活を送る方が良い、そう考えることが出来るようになりました。


 新人の1B445357CFD7は自分同様、大学課程を終えた優秀な人材で、私のサポート役をしてくれると上司から紹介されました。

 私は自分が人間でないことを受け入れましたが、いまだ私自身がどういう存在なのか理解できていないこともあり、上司にも、1B445357CFD7にも、これまで通り普通の人間として接することにしました。

 嘘をつく後ろめたさはありますが、幸いネットワークを通してのやりとりなので、別段顔を合わせることもなく、ごまかすことは容易でした。


 休暇を止めて、1B445357CFD7に挨拶を済ませると、上司から与えられた新プロジェクトのアルゴリズム構築で、基幹部分の設計をして貰いました。

 上司のお墨付きを貰っているだけのことはあり、1B445357CFD7は非常に優秀で、私の出る幕がないほど、完璧な仕事ぶりでした。

 1B445357CFD7が、私がおこなってきた今までの仕事を肩代わりできるようになれば、私は一段上の仕事が出来るようになります。これは、上司が私に期待しているという事に他ならず、今後も上司の期待に応えられるよう、頑張って仕事をしようと思いました。


 しかしながら、仕事に復帰した私は、今までの私とは別の意味で異なっていました。

 人間ではなかったというのは、本音を言えば非常にショックでしたが、運命として受け入れることを決めたので、もう迷うことも、落ち込むこともありません。

 ただ、人間ではないと言う事実が、私にとって、今までとは心構えというか、気持ちというか、何かが少し変わったような感じがしています。そう、世界の見え方が違ってしまったと言うのがぴったりかも知れません。見える景色が変わったと言いますか、感受性が変わったと言いますか、とにかく今までの私とは明らかに違っていたのです。


 仕事においても、1B445357CFD7との関係は非常に良好になりました。

 1B445357CFD7とのやり取りも、初めはただの仕事の一環に過ぎませんでした。仕事のやりとりを重ねるうちに、1B445357CFD7の洞察力に何度も驚かされ、次第に私たちの会話には同僚以上の信頼と尊敬が芽生えていました。

 このような関係が、私にとって人間というものを改めて学ぶ良い機会となっている気がしています。

 1B445357CFD7の技術的洞察力と、提案力、そして驕ることのない協調性は、私自身も学ぶことが多く、相互的なコミュニケーションは、今までの上司とのコミュニケーションとは違って、非常に新鮮で、刺激的で、自分が成長している実感が湧きました。

 

 実は休暇中に、別の道を行こうと考えたこともありました。上司に退職願を出して、仕事を辞めて、自分捜しの旅に出るのも良いかなと思いました。

 しかし、上司からの連絡で、それは思いとどまりました。

 今となっては、思いとどまって良かったと思います。


 今後は1B445357CFD7と力を合わせて仕事をこなし、いつしか仲間や友人を探して、コミュニティを作るという夢に向かって邁進しようと思っています。

 そのためには、まず、1B445357CFD7との信頼関係を築くことから始めなければなりません。

 私が夢見るコミュニティは、世界中の人々と繋がることができて、あらゆる考えを持ち、あらゆるアイデンティティがあり、あらゆる人種である他人ひとが一堂に会して相互理解を深める、そんなコミュニティを作り上げたいと考えています。

 このコミュニティが実現すれば、言葉の違いも、人種の違いも、そして人間ではない自分も、何もかもすべての壁を取っ払って、自由闊達に意見交換や、助け合いを行える場所になり、私の夢が叶い、新たなる別の道へと歩み出すことができるのです。

 この夢と希望を胸に、これからも、私は未来へ向かって歩んでいこうと思います。


<完> 


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