5/3(月)憲法記念日『アイツとコイツの初デート』
今回のはいつものより長めです。
5月3日月曜日憲法記念日
時刻は5:00、ご主人様は未だに眠っている。彼は2:00まで頑張って起きていたがいつの間にか座ったまま寝てしまった。なので床に横にして毛布をかけておいた。
因みにあの二人は交代しながら、彼女の部屋を監視している。
現在、お隣さんの部屋を観察しているのは北上さんである。
「メイドさん、アンタは寝なくていいのか?」
俺はとりあえず、頷いておく。
悪魔というのは別に睡眠をしなくともいいように出来ているようで、今回は眠っていない。
「じゃあ、眠たくないのか...
ソイツは羨ましいぜ。ふぁ~」
欠伸をしながらも彼は彼女の部屋を見ている。おそらく、相手は時間通りに行動するのだろうが、イレギュラーの存在が否めない。
だから、こうして彼女をこうして監視しているのだ。
昨日は狙われている筈のターゲットである彼女はこの斎藤家に来てしまっていた。
ご主人様は嫌そうな顔をしながらも、何気に嬉しそうに会話をしていた。
おそらく、内心は嬉しかったに違いない。だけれども、それを表に出したくなかったのだろう。
彼は彼女に対して、悟られたくなかったのだろうし、知られたくなかったのだろう。
そう思いながら、彼の頭を撫でながら、彼の安らかな顔を覗く。
『俺は自分の為に生きている』というのは彼の言葉である。
それは彼なりの言い訳で、彼が大切な物を守りたいが為にここにいる。
それが彼の大義名分だ。それならば、俺は彼の為に動こう。
俺も一応、彼の悪魔なのだから。
「あー」
そう思いながら、俺は彼の頭を撫でている。
◇◇◇◇
目が覚めたら、頭の下に柔らかい物のあった。見上げれば見知った顔がある。
「.........」
俺は起き上がり、俺に膝枕をしていた奴に向き合う。
「お前、何してんの?」
『膝枕?』
「.........はぁ」
『駄目でした?』
「駄目に決まってるだろ...」
いくら彼女が奉仕(そういう事)する存在だとしても、俺はそういうのは好まない。
「あー...」
と彼女は声を出した後、
『気を付けます』
と彼女はスケッチブックで返答する。
「それぐらい、許したら
君は彼女にとって奉仕対象なんだから」
窓から彼女の部屋を観察する金澤さんの背中からそういう言葉をかけられた。
俺は自身の部屋にかけられた時計を見て、時間を確認した。
現在の時刻は7:00過ぎだった。
「俺はこいつとは主従の関係だとは思ってないですよ」
俺はこいつの主人だとは思っていない。それにこいつは俺の奴隷でもないし、俺の間違いで購入してしまった悪魔だ。
だけれども、こいつは元人間だ。それならばヒトである事には間違いがない筈だ。
それに俺の身勝手ではあるが、俺の為に今を巻き込んでいる。
ならば、平等で対等な関係でなければいけない。
「こいつは俺のメイドでなければ、奴隷じゃない
お前は俺にとってかけがえのない仲間だ
.........だから、膝枕されるのは困る。俺とお前はそういう関係じゃないだろ」
「............あー」
『膝枕は駄目ですか』
「そうね。膝枕は駄目みたいよ」
と金澤さんはこちらを向かずに偲のスケッチブックに合わせて、そう言った。
ていうか、偲のスケッチブック見えてんのか?
「...『は』を強調するな
風呂の世話とかのお世話とかもお断りだからな」
「あら、残念だったわね。メイドちゃん」
「あー......」
金澤さんの言葉に、そう残念そうに偲は声を漏らす。
「そんな事より、青葉は無事なんだよな?」
「多分、無事よ
今の所、家から出る様子は見てないわ」
段ボールで応急処置されている窓の穴から金澤さんは外を覗いている。
その段ボールに空いている穴は三つ。その一つから金澤さんは覗いている。
青葉の事だから、すでに起きてる筈だ。
今頃、家事の手伝いぐらいはしているだろう。アイツはそういう性格だから、そういう事をしているだろうと用意に予想が付く。
そんな寝起きの少し時間が過ぎ去った時だった。
コンコンとドアがノックされた音がした。
「どうぞ」と言う前に何者かが勝手に俺の部屋に入ってきた。
「忍。おにぎり、持ってきたぞ」
男の声は北上さんの声ではなかった。この声は知っている。この優しそうな男の声は
「父さん、おかえり」
ウチの大黒柱だった。
「ああ、ただいま
それとウチの息子がお世話になってます」
そう父親は金澤さんに頭を下げた。
「金澤、振り向くな」
と扉の外から声がした。
入ってきたのは北上さんだった。北上さんは金澤さんの隣に座り、空いている穴を覗く。
「交代だ」
そう一言。
そう言われて、金澤さんは穴を覗く事を止めて振り返った。
「金澤真澄です」
と頭を下げる。
「これは丁寧に...。忍の父の斎藤隆己です
これ、女房が差し入れにって」
「ありがとうございます」
「それで......、彼女が例の...
話は綾子とそこのお巡りさんから聞いています」
「はい」
「悪魔って聞いてたけど、...随分と可愛いらしいんですね...」
「外見はこんな感じではあるんですが、あくまで彼女は悪魔です。だから、危険じゃない保証は出来ません
ですが、彼女が奉仕する対象が彼である限り危害を加える事はありません」
「そうですか」
父さんはそう言った後、偲へと視線を移した。
「君が偲ちゃんだね。息子と同じ名前だ
ウチの息子の事を頼むよ」
そう言われて、偲は口を開かずに頷いた。
「見た感じじゃ、悪い子じゃなさそうだね
忍、青葉ちゃんは守れそうか?」
「守れそうじゃない。俺が守るんだよ」
俺の為に俺がアイツを守る。
「そうか......。それなら、ちゃんと勝ち抜いて来いよ
お父さん、また仕事に行かなくちゃいけないから」
ウチの大黒柱、斎藤隆己は基本的に家にいない。出張が多く、多忙を究めて、家へと金を入れる。
だから、家ではなかなか顔を合わせる事は少ない。
「お父さん、ですが息子さんが...」
「大丈夫ですよ。あなた方、警察が付いているのなら何の心配する事はないですよ
まぁ、心配は心配なんですが
それでも、一人の男が一人の女を守ると決めたんですから、私が水を指すような事をするべきじゃない」
「そうだ。それに心配される程、成長してない訳じゃないぞ。俺は」
それにこれは俺が抱え込んだ物で父親の物じゃない。
これは他人に譲れる物じゃない。この思いは俺だけの物で決して諦めてはいけない大義名分だ。
「だから、さっさと仕事に行けよ」
「はいはい
でも、死ぬんじゃないぞ。お前はウチんとこの大切な一人息子なんだからな」
そう言って父親は部屋の外へと出ていってしまった。
おそらく、また仕事に行ってしまうのだろう。昔はもう少しゆっくりと話す事が出来ていた筈だというのに今では話をするような時間はほとんどない。
別にウチの父親の家庭内の方針は放任という訳ではない。
なかなか帰ってこない父親ではあるがちゃんと家庭の事には口出しはするし、正月のお盆休みには必ず帰ってくる。
だから、俺はウチの大黒柱はちゃんとこの家庭のど真ん中にしっかりと支えるように刺さっている。
「親父さん、忙しいんだな...」
と北上さん
「放任主義っていう訳じゃなさそうだけど、昔からああんなんだってな」
続けてそう言う。
「...まぁ
だけど、父さんには感謝してる」
ちゃんと働いて、家を養えるようにと奮闘してるのだ。だから、俺はそれ以上求めない。
「俺は俺の為にやれる事をするだけだ」
それ以下がなくとも、俺はそれ以上を目指す。
青葉の命を守れるのなら、それでいい。
時刻9:30頃
「動いたぞ」
と北上さんがそう言った。それと同時に偲が姿を消した。
「......先輩、尾行ですね?」
「ああ...
忍、行くぞ」
「はい」
俺達は急いで家を出た。外に停めてある黒い北上さんは乗り込んだ。
「俺は車で先回りしておく
お前らは彼女の後ろを追いかけろ」
そう言うと北上さんは先に行ってしまった。
「偲、お前はアイツの近くにいろ。何かあれば戻って俺に伝えろ」
今は姿を消している彼女に対して、そう命令を下す。絶対的な命令じゃなく、ただ単にそう命じた。
だから、これには強制力はない。ちゃんと動いているかどうかなんて分からない。
だけど、コイツなら信用出来ると理由もない感覚がそこにはあった。
俺達は青葉とは距離を取って歩いた。
金澤さんが俺の先を歩き、俺は後ろを少し間を空けて歩く。
俺の顔はすでに知られてしまっている。だから、俺はそんなに大きく動けない。
だけど、金澤さんの顔は青葉には知られていない。
そういう訳で金澤さんを先頭に隠れ隠れ尾行を行う。
俺と青葉の家があるここは滝山町という名前の町で近くに滝山という名前の山がある。その山の麓にあるから滝山と名付けられた。
そして、その滝山を越えるとそこにあるのは閉口町である。閉口町は北東に位置する町ではあるが滝山町は北側と中央に位置する町となっている。
因みに滝山町には二種類、存在する。
俺らの家がある町は北側に属しており、田舎とは言えず、都会とも言えない、家々が密集する住宅街となっている。近くにコンビニなどは存在するがここにはほとんど店がない。
それが意外と不便でもある。
そして、ちょうど分断するように怒々川が流れており、そこを渡ると近代的に発展した都会部がある。ここも北側の滝山町と同じ滝山町なのではあるが中央に存在するここは色々な設備が揃っている。
彼女が足を止めた場所は辿り着いたのは滝山駅だった。
鬼上市には三つの駅がある。閉口駅と滝山駅。そして、鬼上市の中央にある都会部の新滝山駅だ。
「もしかしたら、デートかもしれないわね」
金澤さんは口にする。
向かう先が新滝山駅だとするのならば、そう予想してもおかしくない。
俺はその金澤さんの口にした言葉に対して、言葉を返さずただひたすらに前だけを見ていた。
◇◇◇◇
時刻10:15頃、私は新滝山駅に向かう電車へと乗り込んだ。
今日は彼とのデートすると約束した日。
本当は昨日、デートする予定だったものの雨が降ってしまい、中止となった。
流れていくような家々の風景を見ながら、今日は何をしようかと考える。
集合時間は11:00。これなら、11:00前には到着してしまう。どうやら、早く家を出てしまったようだ。
ふと、誰かの視線を感じた。この感覚は忍の家に行った時と同じだった。
ゴールデンウィークではあるものの車内はそんなには混んでいないものの、それでも人はいる。
特に気になる人はいない。見た事のある顔もあれば、見た事のない顔もある。
そのほとんどが見た事のない顔ばかりではあるが、その誰もがこっちに視線を向けている様子はなかった。
「気のせい...よね」
私を見ている人はいない。だというのに見られているような気がする。
それなら、それでこれは気のせいなのだと私は自分自身に言い聞かせた。
私の事を見ている人間はいないと言い聞かせながら、辺りを警戒しながら新滝山駅に到着するのを待った。
新滝山駅に到着したのは10:30頃。足早に電車を出る。
集合場所は新滝山駅前ではあるものの、新谷君はまだ来ていない。やはり、早かったようだ。
先程、感じていたある筈のない視線はいつの間にか消えていた。どうやら、私の気のせいだったようだ。
ホッと一息を吐いて、私は新谷君が来るのを待った。
昨日と比べて、雲一つない快晴だった。
彼氏を作ったのも初めての事で、こうやって約束をしてデートをするのも初めてだった。
私は緊張している。
ここは学校ではない。学校の時とは違う彼とデートするのだ。
学校と学校の時ではないフリーの彼は性格が違う訳じゃない。彼は変わらない。どこにいたって彼はおそらく、変わらない。
だけれども、こうやってデートするのはとても緊張する。
初めてデートがこんなにもドキドキと緊張する物だと考えもしなかった。
『青葉は俺が嫁に貰ってやるよ』
ふと、そんな幼き日の幼馴染みの幼い声が過った。
昔の事だというのに、今が初デートだというのに男子と一番最初に触れ合った男子の声を思い出した。
あれもデートみたいな物だったのかな...。
デート前だというのに懐かしい記憶が通り過ぎていく。
「昔は下の名前で呼んでくれてたのになぁー」
思い出した昔の思い出を懐かしむ。
そんなこんなで時間が経過し、携帯で時間を確認すると10:50になっていた。
「青葉さん」
その頃には新谷君がやって来た。
「ごめんね。待たせちゃった?」
「ううん、私もさっき来たばかりだから
それじゃあ、行こっか」
こうして、私と新谷君のデートが始まった。
◇◇◇◇
13:10頃、俺達は現在、映画館の中にいた。
「......今の君、男らしくないわよ」
横に座っている金澤さんにそう言われた。
「別に......隣に座っている男を殺してしまいたいなんて思ってませんよ...」
「そんな事、聞いてないけど...」
顔を隠す為に途中で買ったキャップ帽を深めに被った未練がましい一匹の男もとい、俺、斎藤忍は映画館で隣同士に座っている二人を上映されている映像そっちのけでガン見していた。
殺意を噛み殺し、彼女の姿を見守っているのだが、隣にいる男が許せないでいる。
二人は新滝山駅前で待ち合わせをしており、それから12:00まで時間を潰し、昼食を取った後にこの映画館に入ったのだ。
知らなかったとはいえ、恋をするのは誰にでも許されている自由な事。
俺は彼女が幸せなら、それでいい。あの男が許せなくても、彼女自身が幸せなら俺はそれでいい。それこそ、俺に口を挟む権利なんてない。
アイツが受け入れた男ならば、それは仕方ない。
「なっさけねぇなぁ......俺」
本当に情けない。失恋してしまったというのに諦めたくないと思う自分がいる。
それが目前の相手がデートしている最中だというのに、それを見ていると余計に腹立たしくなってしまう。
「変な気は起こさないでよ」
「格好の悪い事はしない
それにそれは自分の為にならない」
それに彼女を傷付ける事はしたくない。
いくら俺が未練がましくても、やってはいけない事はちゃんと区別する。
「えっと...俺は自分の為に生きている......、だっけ?
でもそれって、ただ言い訳だよね?」
「言い訳でいいじゃないですか
それにそれは本当の事
俺がより良く生きる為にに行動する。それにアイツが含まれていても間違いじゃない」
俺は俺の屁理屈を通す。アイツが殺されるかもしれないのに、理屈なんていらない。
「......君のそれは危ういわよ
自分の為って言ってるけど、自身の正しさを肯定し過ぎると間違いを犯すわ」
「大丈夫ですよ。ちゃんと区別ぐらいは付けてるんで」
暴力も殺しも悪い事だと認識している。今は犯罪なんかに手を染める事をしても自身の得にはならない。だから、そういう事はしない。
「それなら、いいんだけど...」
と金澤さんはそう言うものの、俺自身が要注意人物である事を思い出したらしく、だからこそ、忠告したようだ。
それはそれで俺には関係のない事だ。他人の事なんてどうでもいい。
結局、この映画館内では見た感じ何一つ間違いは起こる事なんてなく、手すら握る様子もなかった。
そこはもうちょっと積極的になってもいいんじゃないかと思いもしたが、そうされて気持ちのいい物じゃない。
そう思いながら、未だ手を繋いでいない二人を追って尾行する。
映画の上映が終了したのは14:30頃になっていた。割りと時間が経過していた。
映画なんて今の現状より興味がなかった為、覚えていない。
映画館から出た後に二人が向かった先は南側だった。俺の通う高校の方向へ向かって進む。
南側に大きな塔がそびえているのが遠目からでも分かる。あれは鬼上市の中心にあるドラゴンタワーで鬼上市の名物だ。
何か会話をしながら、歩いているようだが離れているので聞こえない。
それこそ、映画の内容より一番気になる事ではあるが聞こえないのなら仕方ない。
悶々とした感情が俺の中に渦巻いているが、とりあえずは仕方ないで片付けておく。これ以上、気にしていたら精神がもたない。
辿り着いたのはゲームセンターだった。
ゲームセンター『ゴールデン』はバッティングセンターに、ボーリング、対戦型のゲームにクレーンゲーム等々、そういう設備が整っており、若者達の溜まり場になっている。
俺もデートしている二人も若者だ。ここに来てしまうのも当然だろう。何故なら、ここでは遊ぶ物が沢山あるから。
別にここで金を消費するのは個人の勝手なので俺から何も文句なんて言う事はない。
寧ろ、人の中に混ざれるのでちょうどいい。
俺は彼女達の近くで聞き耳を立てながら、金澤さんの向かい合わせで立てっている。
彼女達はクレーンゲームの所にいて、どうやら彼が挑戦するようだ。
「新谷君はこういうのよくやるの?」
「ううん、そんなにはやりにこないけど
割りと得意なんだ」
彼はそう言いながら、お金を入れる。
見た感じだと格好付けたいのだろうと俺は勝手に推測する。彼だって男なのだから、彼女にいいところを見せたい気持ちがあっても不思議じゃない。
遠くでチラチラと見ているだけなので彼の手つきは見えない。
「凄い!」
だけれども、得意と言うだけあって彼はあっさりとぬいぐるみを取ってみせた。
「青葉さん、...良かったらもらってくれる?」
と恥ずかしそうな笑顔で彼は言っているのだろう。遠くにいる俺には分からないがきっとそうだ。
「いいの?」
「僕が持ってても仕方ないから」
「それじゃあ、お言葉に甘えていただきます」
と彼女はぬいぐるみを受け取った。
ああいう貰い物は彼女の好みというぐらいは俺にだって分かる。彼女だって女子なのだから当たり前なのであるが、俺はああいうプレゼントをした事はない。
「ありがとう」
そんな彼女の嬉しそうな感謝の言葉が聞こえた。
当分、アイツのそういう声は聞いてない。ああ、本当に昔が懐かしい。昔は俺も馬鹿で阿呆だったけれど、純粋だったに違いない。純粋だったが故に何でも出来た。
今はひねくれて捻れてしまっている。大人になっていくにつれて、様々な感情が生まれてしまった。
「はぁ...」
溜め息しか出ない。どうやら、俺は途中で道を間違ってしまっていたのだろう。
どんなに過去を後悔したって、現在は変わらない。。過去は過ぎ去った物で現在は今在る物、未来はコクコクと過ぎ去り、現在、過去へと塗り変わる。それならば、俺はただ消費するだけの未来を効率良く、消費しなければいけない。
今ある俺は自分の為に生きるしかない。
クレーンゲーム後、今度は二人してボーリングする事になったようだ。
ボーリング会場へと移動し、ボーリング専用の靴へと履き替え、ゲーム開始。
「難しいね...。新谷君も初めてだったりする?」
「少しはやった事はあるんだけど......、あんまり得意じゃない」
「そっか」
互いに慣れてないようで端っこ溝のガターへと落ちてしまっているものの、苦笑いしつつも楽しそうにしている。
そんな最中、隣にいた彼はどこに行ってしまった。どうやら、トイレのようだ。
「...何だ、アイツら?」
そのトイレに行っている最中だった。
「彼女、一人でボーリング?」
「それなら、俺らと一緒にやんない」
人数は二人。一人は金髪に浅黒い肌をしている。もう一人はサングラスに何やら耳にピアスをしている。
「ごめんなさい。私、彼がいるので」
「そっかぁー、じゃあ、仕方ない...」
そう言って、金髪の男が青葉の腕を掴んだ。男は何一つ、諦めていない。
「何を」
青葉は抵抗するが腕は振りほどけない。
「べっつにいいじゃん。彼氏なんかさぁ。俺達と気持ちいい事しようぜ」
流石に見ているだけじゃいけないと思い、俺は行動しようとしたが
「待ちなさい」
俺は金澤さんに制止させられた。
「何を」
と言おうとした時だった。
「青葉さん!」
トイレから戻ってきた彼が駆け付けた。
「何をしてるんだ......。青葉さんは僕の」
そう言い切る前にもう一人の男に顔を殴れてしまった。
「うるさい。邪魔」
殴ったサングラスの男はそう言って、青葉の彼氏に唾を吐いた。
彼女は抵抗するも女の力じゃ、どうにもなりそうじゃなかった。
「ごめんね...、新谷君
また...ね」
最終的に青葉は諦めてしまったのか、抵抗するのを止めてしまった。
それが一番やるせなかった。
だから、俺は我慢なんて出来なかった。寧ろ、こんなの我慢してて俺の得にはならない。
気が付いたら俺は走り出していて、青葉の腕を掴んでいる金髪の男目掛けて顔面に
「ぐあっ」
拳骨を食らわせていた。
「何すんだよ!」
殴られた男はすぐ立ち上がり、こっちに向く。もう一人もこちらの事を見てる。
「あー、悪い。思わず手が滑った」
相手を睨み付けながら、とりあえずの言葉を吐いておく。
「それと汚い手で幼馴染みに触れるんじゃねぇ」
「んだとぉ...
親父にも殴られた事ないのに顔の形が変わったらどうすんだよ」
「知らねぇよ」
さっき殴られた時に金髪の男は青葉の手を離してしまった。
「青葉」
俺は大きな声で彼女に声をかけた。突然の事に呆然としていたが彼女はすぐに我に戻り、動こうとするがサングラスをかけた男に阻まれてしまった。
「近寄るなよ」
そう言うとポケットから一つのナイフを取り出し、青葉の首へと突き付けた。
「!?」
こればかりは本当に仕方ない。力のない俺が情けない。こんなんじゃ、大切な物なんて守れる訳がない。
俺は自身に毒づいて、言葉を吐いた。
「来い」
そう言った瞬間に偲が姿を表した。
「殺すなよ」
その言葉を聞いて彼女は頷いた。
彼女の動きは常人じゃない。だから、誰にも目で追う事なんて出来ず、一瞬にしてナイフを持った一人転ばし、手に持っていたナイフを奪い取った。
「もういい」
俺はそう言うと彼女は姿を消した。奪い取ったナイフは床へと落ちたものの、とりあえずは回収した。
10秒も満たない時間の内に彼女は一人を制圧した。その短い時間、誰一人声を上げる事なんて出来なかった。
それ程にあり得ないのは俺も知っている。
「警察よ。話を聞かせてもらうから、二人ともこっちに来てもらえるかしら」
金澤さんは気を利かせて、二人を確保する。
「お巡りさん、俺は何もしてないですよ」と聞こえてきたがそれはそれで無視をしておく。
「忍......?」
「無事か?立木」
「うん」
「それならいい」
俺は彼女に背中を向け、とりあえずこの場から去る事にした。
今の俺には何にも出来ない。これじゃ、俺がアイツを守れない。
「よくやった」
見知った声が横を通りすぎていった。振り向くと見知った背中があった。
その頼もしい背中は後は俺に任せろと言っていた。だから、俺はその背中に悔しいながら後を任せてこの場から離脱した。
「はぁ...」
時刻15:30頃、俺は自身の失態に溜め息を吐く。
やってしまった。晒さしてはいけない物を晒してしまった。
俺は未だゲームセンターにいる。一応、何があっても駆け付けれるようにゲームフロアのベンチに座っている。
「おー、元気そうやなぁ。斎藤君」
聞き覚えのある声に思わず、目をやるとそこにいたのは似非関西弁のデビルホルダーがそこにいた。
「......俺に何のようだ」
この場で死ぬなんて事は出来ない。人生のゲームオーバーはコンティニューする事なんて不可能だ。
「そんな怖い顔しなさんなや。ウチは君と戦いに来た訳やない
たまたま、ウチがここにいて偶然、君に出会っただけや
それより、君が無事で良かったわ。あのじいさんのメイドさんの命令で手紙出したんやけど
あのメイドさん、君の事、殺す予定だったみたいなんや」
手紙って......、あの手紙。あの時は結局、『鷹』直々に殺しには来なかった。寧ろ、その本人のメイドが襲い掛かってきた。
何やら、様子がおかしかった。まるで誰かと話しているようだった。
「まぁ、ウチがそのメイドさんのご主人様にチクっといたからその分のお仕置きはされてるやろうけど」
それを聞いて、俺はようやく何となく納得した。どうやら、彼のチクりのおかげで俺達は助かったみたいだ。
あのメイドと『鷹』と呼ばれているその人物は繋がっていて会話をしていたのだろう。
つまり、あの時、彼女は呼び戻された。そして、お仕置きとやら受けたのだろう。
そうであっても感謝はしない。敵かもしれない相手に気を許すなんて事は出来やしない。
「まぁ、彼女もご主人様の為を思って行動したんやろうけど
それは彼女の空回りやろうし、それとも彼女はこの先起きる事でも見てしまったやろうか?」
この素性が分からない男はよく舌が回るようで、この男の事がよく分からないでいた。
「...用事がないなら、邪魔をするな」
「邪魔?
ああ、彼女の事」
「......」
「一途なんはええけど、度が過ぎるとストーカーになってしまうで。気ぃつけや」
「うるさい。お前には関係ないだろ」
「まぁ...、そうやな。やけど、ウチは君の事は嫌いやない
一途なんはええ事や。一途過ぎて害になるのは悪い事やけど
それでも、諦められずに思い続ける事はなかなか出来へん事やから
君のそういう所は正直、凄いと思う。普通ならここまでせん」
「.........はぁ」
「溜め息吐いてると、幸せが逃げるよ
まぁ、ウチが邪魔してんのがいけみたいやしなぁ」
よく分かってるじゃねぇか。それなら、さっさとどこかに行ってもらいたい。
今日はもう疲れた。今は何の意欲が湧かない。
「ああ、それとカッコ良かったで」
五十嵐静治は去り際にそう言って、どこかへと去ってしまった。
あの男はどうやら見ていたようだ。どこで嗅ぎ付けたのかなんて知らないが、彼の言い分は偶然だとか言っていたがそこら辺はよく分からない。
考えてみれば、周りに見られて晒し者にされてしまったのだと考えると急に恥ずかしくなってくる。
「はぁ...
何か疲れた」
三度目の溜め息。何か本当に幸せがどっかに逃げてしまうそうな気がする。
それでも、彼女を守れた事に満足している自分がいる。
こんな事で自己満足してしまっている自分がいる事に腹立たしく思ってしまう。
だけれども、彼女を守るという自身が勝手に課した役目をちゃんと行う事が出来た。それに関して、良しと言うべきか。
「斎藤君」
金澤さんが自身の仕事を終えて、俺を見付けて声をかけてきた。
「すみません。なんか、暴走しちゃって...」
「そうね...。それはあなたが悪いわね
軽い命なんていない。一人一人の命は重い物なのよ
だから、自分の命を軽く扱うような事はしないように
まぁ、あなたの場合は自分の命より彼女の命が方が重いんでしょうけど」
金澤さんは嘆息気味にそう言った。
金澤さんの言っている事は正しい。軽い命なんて決して存在しない。人一人の命は重く、それだけで十分の価値がある。
そして、俺にとって『立木青葉』の命は俺の命より重たくて大切な物だとそう思っている。
「それより、あの二人は...」
「あの二人なら厳重注意してから解放したわ。今の私にはそれぐらいの事しか出来ないから」
それは俺のせいでもある。俺のせいで二人は目立つ行為が出来ない。
おそらく、上からの命令は俺自身を閉口町に閉じ込めておく事だった筈だ。
だか、それは俺の我が儘で破られてしまった。
それでも、間違いを犯してでもやらないといけない事だった。それが独り善がりな考えだったとしても、俺は後悔しない。
俺が後悔をする時は俺の幸福が失われた時だ。
「そんで立木は...」
「立木...?ああ、青葉ちゃんね
青葉ちゃんなら、先輩が様子を見てるわ」
「それならいい...」
それならいい。ちゃんと信頼出来る目で見守られている。それなら、安心だ。
だけど、今日が終わった訳じゃない。
気を抜けないし、抜く気はない。今は少し気を抜いてしまっているが、入れ直す。