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5/13(木)『スイミー欠席する』

5月13日木曜日

 桜並木通りの中、一人の侍が立っている。

 その侍は片手に刀を持って、足元がおぼつかず、ふらふらと歩いている。

 「カッカッカッカッ、足りぬ。

 足りぬ、足りぬ、足りぬ。斬り足りぬ

 もっと、血が欲しい。欲しい。欲しいから寄越せ女」

 その侍の目から血涙を流し、狂喜の笑みを浮かべて、こちらを見る。

 足元には何人もの死体が転がり、その侍の足に死体の手が掴まっていた。

 「殺す、殺す、殺す、殺す、殺してくれ」

 その言葉はまるで懇願しているようでもあるのに、彼の顔は矛盾している。

 殺したくてたまらない自分を止める事が出来ず、殺して楽になりたいとも言っているようだった。

 死にたいのに殺したい。狂気の中に漬かりつつも、未だ人間のまま死にたいと願う彼は血の涙を流し、殺してくれる相手を見付けようとしている。

 そして、私は彼によってばっさり殺された。

 そこで目が覚めて、バッと体を起こした。

 「夢......」

 先程の夢は現実ではない。

 このような悪夢はいつ見ても、気持ちいい物じゃありません。何故、こんな夢を見るのか私には分かりません。

 物心付く頃からこういう夢を見てしまいます。

 それだけじゃなく、見たくない物まで見てしまいます。そのせいか気味悪がられてきてきました。

 友達だった人はいつの間にか友達じゃなくなりました。気が付けば、私の側には誰もいなくなっていきます。

 嫌がらせも、知らぬ間に増えて、それが繰り返されて誰に頼ればいいのか分からず、誰が悪い人なのか分からず、気が付けば独りぼっちになってしまいました。

 だから、外では誰も信じません。親以外の誰でも信じる事が出来ません。

 それが同級生だろうと年上の相手だろうと、年下の相手だろうと、担任の教師だろうと私は信じる事も頼る事もすがり付く事も諦めました。

 そうすれば、きっと楽だから...。

 だというのに、斎藤忍(かれ)は私を捕まえました。立木青葉(かのじょ)は私に優しくしてくれます。神宮寺邦治(かれ)は私の手を握ってくれました。

 これ以上、私に接してほしくないのに、彼らは私に接してきます。

 私は怖いんです。いつ裏切られるのかが怖い。

 だから、私なんか構わなくていい。こんな気持ちなんてほしくなかった。

 だというのに、私は突き離されてしまうのが、今は一番怖い。

 「どうして...皆は」

◇◇◇◇

 昼休み

 今日も相変わらず、俺は屋上で青い空を仰いぎながら寝転がっていた。

 「結局、手掛かり掴めず...か」

 昨日の親睦会で寿から手掛かりらしき物を得る事は出来なかった。別に事情聴衆をした訳ではないものの、結果が出る事なんてなく、偲曰くあの鬼の気配はすでに消えてしまっていた。

 「もう諦めるか?」

 そして、俺の横に神宮寺が座っている。

 「諦めるのなら、勝手にしろ。俺は諦める訳にはいかねぇんだ」

 これは俺の為にやっている事であり、自身の幸福の為にやっている事でもある。

 だから、これを諦めるなんて事は出来ない。

 「お前さ、立木さんの事、好きだろ」

 「......お前には関係ないだろ」

 「関係ない...ね。何となく昨日、見てて感じてはいたけど、まさか正解するなんて思ってなかったな」

 「よく舌の回るボンボンだな...」

 「悪い?気分を害したか?」

 「アイツとはただの幼馴染みだ」

 「本当にただのか?」

 「お前には関係ない。いい加減にしないと殴るぞ」

 「別に関係ない訳じゃない。立木さんと付き合ってる優斗とは小学からの付き合いだからな」

 「そうかよ。それでも俺には関係ないだろ

 俺はもうフラれてるし、諦めてる。それにアイツが幸せならそれでいい」

 「フラれてる?」

 「だから、問題はないだろ...。煮ても焼いてもアイツには振り向いてもらえないからな...」

 「......悪い」

 「別にいい」

 諦めてる。もう手が届かないから。

 いくら空は青くても、いくら彼女の家が隣にあっても、声が届いたとしてもアイツはきっと受け取らない。

 「それより、鬼だ。あの修羅はどこにいるのかだ

 被害が出る前に片付けとかないと、俺が困る」

 別に困る訳じゃない。ただ可能性を潰しておきたいだけだ。

 赤の他人が死のうと俺には構わない。

 「お前が諦めても、俺は諦めない

 俺は俺の為に生きている」

 「なんだ?ツンデレか?」

 「やっぱ、お前が死んでも構わねぇかもな...」

 「何でだよ!」

 「これは俺の方針で別に神宮寺が気にする事じゃない

 俺にとっての大切な物を守る為に諦める事をするつもりはない」

 別に見苦しくてもいい。手に入れたい物がこの手の中に収まらなくてもいい。

 だけど、俺にとっての日常を失う訳にはいかない。

 そんな会話の中、プルルルルと携帯電話が鳴った。

 「あ?」

 携帯電話を開き、受信相手を確認する。携帯電話の画面に表示されている名前は一龍斎竜聖となっていた。

 「もしもし...」

 『ちわっす。ご飯はもう食べましたか、斎藤さん?』

 「まだ食ってねぇよ

 で、リュウさん。アンタが電話してくるって事は何かを掴んだって事でいいんだよな?」

 『そうっすね。とりあえず、先に報告をしておきます

 まず最初に被害はすでに出ている』

 「......そんなの聞いてないぞ」

 聞いてない。というよりも、メディアとかに取り上げられていない。

 『こういうのはひた隠しにする物っすよ。だから、メディアとかには取り上げられないし、教えもしない

 斎藤さん、心覚えぐらいはあるんじゃないですか?』

 「いや......」

 テレビではちゃんと報道しているぞと言おうとしたが、死人の死因なんて物は報道されていない。

 銃殺されたという情報なんかこっちに回ってきていないのだ。

 「ああ、あるな」

 『でしょ?

 被害者の数は五人。死因は刃物による斬殺

 犯人は大方、予想が付きますよね?』

 「ああ...」

 『まぁ、殺された相手は柄の悪い連中でした。ですけど、これは良かったと言える事じゃありません

 殺人殺害は悪。それがいくら周りから疎まれるような悪人であろうと、これは悪です

 それで提案ですよ、斎藤さん。俺と組んで下さい』

 あのリュウさんとは思えない程、真面目な会話だった。

 「......」

 俺はそれに対してすぐには返答が出来なかった。まず最初にと言うぐらいのなのだから、まだ他にも報告する事があるのだろう。

 『返答は後でいいです

 他にももう一つ、報告する事があります

 斎藤さんの偲さんと戦った鬼、名前は童子丸(どうじまる)。その童子丸さんから直接果たし状を預かりました

 まぁ、その果たし状は読めないものでしたけどね。辛うじて、彼の名前とどこで果たし合う場所だけは読めましたよ

 日時と場所は時間は日が沈んだ時ならいつでもとは書かれてるみたいっすけど、これ以上死者を出したくないんで日にちは今日って事で

 場所は滝山の頂上っす』

 「...手を組めっていうのはそういう事か......」

 『手を組むのはその時だけ十分っす。もしも返答が難しいのなら、別に構いません

 相手は化け物っすから。それに俺達がやるのは足止めですんで』

 「分かった、行く

 可能性だけは潰しておかないといけないからな」

 話し終えた後、神宮寺から

 「俺も行くぞ」

 そう口を開いた。

 「勝手にしろ」

 どうやら、俺の会話を聞いて、察したようだ。

◇◇◇◇

 屋上に行くとやはり、彼は空を仰ぐようにして寝そべっていた。

 この場には新谷君と神宮寺君はいないようだ。

 「青葉、斎藤君の事、どう思ってる訳?」

 屋上に着いて、早々、涼子にそう質問される。

 「別に何とも思ってないけど...?」

 「アンタがそう言うんだったら、私はそれで構わないけど

 そう言えば、寿さん、休んでたわね」

 「ただ休んだだけならいいんだけど」

 「さぁね。よってたかって、私達が無理矢理巻き込んだようなものだから......、もしかしたら嫌だった...って事も有り得るか...」

 彼女、寿聖子は今日は学校を休んでしまっている。理由としては体調不良と聞いてはいるが、本当に体調不良だとしても何か理由があっての事だったら、それは私達が原因なのかもしれない。

 「お見舞いは......、行けそうにないし」

 「無理にお見舞いに行く必要はないでしょ。それに行ったとして本人が迷惑するかもしれないし

 何日経っても学校に来ないんだったら、話は別だけど

 それにあの時、彼女は満更でもなかったみたいだから」

 「えっと...、そうなの?」

 「そうよ。嫌そうな顔してなかったわよ

 男に手を引かれるなんて事、なかったんじゃない?

 そのまま、あの二人がくっついてくれればハッピーエンドで済むんじゃないかしら?

 それでイジメが終わらないっていうんだったら、ほっとくなんて事は出来ないわよ

 それにこれは寿さんだけの問題じゃないわ」

 「うん......、そうだね」

 イジメ(これ)は寿さんだけの問題じゃない。イジメをやっている方の問題も絡んでいる。

 イジメをしている側にも問題があるのは間違いない。そうでなければ被害者は出ないし、加害者なんて存在しない。だから、これは解決しなければいけない問題である。

 寿さんは私達にとって、もう既に赤の他人ではなくなっている。

 寿聖子は私の、私達の友達であり仲間でもある。

 「でも、それなら根元を引き抜く必要があるわね

 じゃないと、標的を変えて、また別の被害者を生みかねないし」

 「......涼子。何か、探偵みたい」

 「探偵ね......。悪い気はしないわ

 でも目星ぐらいは付けておきたいわね

 犯人は......、身近な相手から疎遠な相手までの範囲。性別は女性

 まず、教員は除外しておきましょ」

 「それじゃあ、生徒がやってるって断定していいって事?」

 「そうね。基本、ああいう事は教員がやるとは思えない。だから、まず違うって思った方がいいわね」

 涼子は淡々と推理をしていく。

 「広い面で取れば、学校全体の女子生徒が容疑者になる

 だから、とりあえず狭い面で搾り出しておきましょ」

 「寿さんは卓球部に所属しているみたいだから、その中にいる可能性も...ある?」

 「卓球部......、あるわ。ていうより、そこしか考えられないわね

 それか、中学が一緒だった子がいるんだったらそっちの可能性だってあるわ」

 まぁ、そういう程度しか私達には推理は出来ない。

 多分、彼女の身近な人間が犯人だとしか推理は出来ないし、実際にそうなんじゃないかと思ってしまう。

 人物像は誰なのか想像が出来ない。

 「早いのは本人から聞いた方が手っ取り早いんでしょうけど」

 「無理かな......」

 彼女がそう簡単に口を割ってくれるとは思えない。

 やはり、こういうのは寿さんが心を開いてくれなくちゃ解決しない事なんだろうな。

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