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もし普通(仮)の高校生が異世界で魔法を極めたら  作者: ぎるばあと
第一章 序・異世界ライフ
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6.剣士と魔法使い

 「ふう、いい仕事したぜ」


 今日も俺は元気にビッグスライムを狩っている。

 

 そして今の個体はわずか十五分で調理することができた。

 これまで三十分は要していたことを鑑みると驚異的な進歩である。


 (原因は認めたくないが、アレだろうな……)

 

 昨日コスプレ少女に受けた己の剣技に対するダメ出し――そのダメ出しは、理屈に適った”理論”と呼べるものであった。

 

 戦いの所々でその理論が思い起こされる。

 

 俺は足運びや重心の移動といった基本的な体の使い方を見直し、結果として腕力便りに振り下ろしていた剣も幾ばくか全身の力を乗せた一撃となっているのを感じていた。


 そして何よりの上達の証拠に、剣スキルがFからEへとランクアップする。


 少女に罵倒されることに喜びを感じ、それが理由でランクアップした可能性もあるが、恐らく違うであろう。

 いや、違うと信じたい。

 

 単純に彼女の指摘が的確だったのだ。


 (今度出会ったらお礼を言わないとな)


 カラーツのダンジョンはそれなりに広い。

 サガの街もアインス国の中では狭い方だが、それでも街の中で特定の人物とすれ違う可能性は低い。


 (早晩再会することはないか)


 そんな風に思案に耽っていたところ、気配察知に一つの反応があった。

 どうやら一人の魔法使いと一体のビッグスライムが戦っているらしい。


 (なんだろうこの既視感)


 リュウジは逸る気持ちを抑え切れず、その場を飛び出すのであった。


 (明らかに魔法が力強くなってるなぁ)


 ビッグスライムと相対する昨日の少女。

 

 その構図は同じであるが、昨日との相違点は少女の放つ魔法の威力である。

 中級と呼べる程ではないが、初級の最上位魔法であることが見て取れた。


 そして彼女の放つ魔法に耐え切れなくなったのだろう――ビッグスライムがぷるぷる震えて消滅する。

 

 さすがにMP消費は甚大であったようで肩で息をする少女。

 

 どうやら俺の存在に気づいたらしく、その死んだような目で俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。

 

 目は死んでいるが、無言のプレッシャーを感じる。

 もの凄く何か言いたげな雰囲気を醸し出す眼力により、俺は言葉をかけることを躊躇われたのであった。


 どれほど時間がたっただろうか。

 

 お互い一言も発せず互いの目を見つめ合う。

 

 この空気はよろしくない――

 

 意を決して話しかけようとした俺は


 「あのさ……」

 「……あの」


 見事にタイミングを外してしまうのであった。


 「そっちからどうぞ」

 「……お先にどうぞ」

 「あー、なんだ昨日はありがとな。おかげで剣スキルがランクアップしたよ」

 「……それなら私も同じ。魔法が強くなった。あなたの教えのおかげ。きっとあなたは剣より魔法の方が才能有る」

 「ぐっ。そっちも正直剣術のほうが才能あるんじゃないか?そもそもなんであんなに剣術に詳しいんだ?」

 「……私の父が凄腕の剣士だった。小さいころから父に鍛えてもらった」

 「だったら剣を使ったらいいのに」

 「……私には才能が無かった。それに……」

 「それに?」

 

 「私は魔法が好き」


 目の前の少女は花のような笑顔でそう言い切ったのだった。


 なぜだろう。

 心臓が激しく脈打っているのを感じる。

 常に何事にも興味なさげで、生命を感じさせない目をした少女。

 

 その少女が笑った。

 

 それを見た瞬間、俺の心はおかしくなってしまったようだ。

 

 恐らく精神に異常をきたす強力な呪いを受けてしまったのだろう。

 この呪いに名をつけるなら、”ギャップ萌え”という現代語が適切であろうか。

 

 バーバのあらゆる修業に耐え抜き、不屈をSまで極めたこの俺がここまで簡単にやられるとは――

 

 俺は呪いを解呪するため、しばし治癒魔法を唱え続けるのであった。


 「……落ち着いた?」

 「ああ、どうやら呪いは解けたらしい」


 俺の必死の祈りが功を奏したのか、胸の動悸は幾分おさまった。

 目の前で「呪い?」と首をかしげる少女を見ていると再度呪われそうだったので、俺はつい目を逸らしてしまう。


 「あのさ」

 「……あの」


 ぐぅ。

 また被ってしまった。


 「どうにもタイミングが悪いな。じゃあお互いの言いたいことを、”せーの”で一緒に言わないか?」

 「……わかった」

 「OK。じゃあいくぞ」

 

 「「せーの」」


 「俺とPTを組まないか?」

 「……私とPTを組んでほしい」



 後に「剣聖」と「大賢者」と呼ばれる二人。

 その二人が初めてタッグを組んだ瞬間であった。


 

 少女の名前はリディア。

 年齢は15歳。

 アインス国のオオウィータの街出身。


 先の説明にあった通り父は剣術の師範をする程の腕前で、彼女も3歳からずっと剣を習っていたらしい。

 

 リディア曰く彼女には剣の才能が無く、父に「お前にはもう教えることがない、好きにするがいい」と言われて家を出てきたそうだ。

 

 リディアは元々魔法が好きで魔法使いとしてギルド登録したがいつまでたっても魔法が上達せず、ダンジョンも9層どまりでMPが減ったら杖で殴ってモンスターを倒していたらしい。

 

 そして俺に出会い、俺の指摘通りに魔法の使い方を改善したところ劇的に魔法の効率が上がったことのことだった。

 

 ちなみに俺自身は魔法の才能がないが、師匠が凄腕の魔法使いで色々教えてもらったおかげで魔法に詳しいという設定にしてある。

 

 まあそれほど嘘はついていないからいいだろう。


 彼女は俺と一緒にいればさらに魔法が上達できるのではないかと思い、PT申請をしたのだそうだ。

 俺も彼女にPT申請をした理由は全く同じである。

 

 どうやら剣を独学でやるのは難しいらしい。

 

 俺は魔法のスペシャリストであるが剣については全くの素人である。

 何の知識もなしに剣を振り回しているだけで上達する訳はないのである。


 かくしてwin-winの関係が出来上がり、俺は彼女に魔法を、彼女は俺に剣術を教えるという形で俺たちの協力関係がスタートしたのであった。


 そうして俺達は二人でダンジョンを攻略し、二十階層のボスの間まで進むことに成功する。

 

 その間にあれほど上がらなかった俺の剣スキルはCへと劇的に成長し、彼女も中級魔法を辛うじてではあるが使用できるようになっていた。


 「いやー、ようやくここまで来たな」

 「……いや、異常に速いから。普通三ヵ月、しかもペアで二十層踏破は無理」

 「優秀なパートナーのおかげかな」

 「……」


 ここ三ヵ月の付き合いで分かったことがある。

 

 リディアはおだてられるのに弱い。

 

 無表情は相変わらずであるが、徐々に無表情の中にも表情があることがわかるようになってきた。

 例えば嬉しいとわずかに鼻の穴が拡がるのである。

 

 もちろんこのことは本人に言っていない。

 

 おそらく言ったが最後、彼女の持つ仕込み杖によって俺の首から上と胴体が泣き別れすることになるだろう。


 「じゃあ行くか、リア」

 「……了解、リュウ」


 お互い割と容赦なく相手の悪い部分を指導してきたため、随分と距離が近づき愛称で呼び合うようになっていた。

 

 単純に「長いのが面倒」だとリディアが言い出したのが発端だが。


 そして俺たち二人は二十層のボスへと続く扉を開くのだった。


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