6.共存
「だが断る」
俺は少し考えたが、長老の提案をすっぱりと両断した。
ただでさえ学園生徒のリーダーという分相応の役割を担っている身分だ。
キラーアントとの戦闘を見る限り、現在のエルフはとてもではないが戦力としてカウントできないだろう。
(これ以上お荷物が増えてもな……)
俺は基本的には個人主義である。
群れるのは得意ではなく、オンラインゲームでもひたすらにソロプレイで攻略をしていた。
人に要らない気を使うのが面倒なのだ。
「はっはっは。そういうと思いましたぞ。何、我々の存在は気にしないでくだされ。勝手についていくだけですので」
長老はそういって楽しそうに笑う。
エルフとは人の話を聞かない種族のようである。
俺の中で誇り高く気難しい種族であるというエルフへの幻想が、音を立てて崩れ去ったのだった。
「まあついてきたいなら勝手にしろ。もう何かあっても助けないからな。自分たちの身位自分たちで守れよ」
「おお、承諾してくださいますか!リュウジ殿はさすがに懐が広い。フィーナの婿としてこれからもよろしく頼みますぞ」
既に敬意を払うのも馬鹿らしくなった俺は、素の口調で長老へと返事をする。
長老はそのことに対して意に介した様子は無かったが、それとは別に、何やら不穏な言葉を投げ掛けてきたのだった。
「おい、何か今ひどく謎に満ちた言葉を言わなかったか?」
「はて?何のことですかな」
俺と視線を合わせようとせず、明後日の方向を見て口笛を吹く長老。
「フィーナの婿がどうとか聞こえたようだが……」
「ああ、その件ですか。あまり気になさらないでください。フィーナが勝手にあなたに嫁ぐだけですので!」
「気にするわ!どこをどう取ったらそんな結論になるんだ」
「衆人環視の中での熱い抱擁に濃厚な接吻。既成事実としては十分では?。エルフの掟では初めて接吻を交わした異性と添い遂げられなければ不幸になるという伝説もありますので。ああ、可哀想なフィーナ。若くして不幸の十字架を背負ってしまうのでしょうか……」
そういって泣き真似をして顔を手で覆う長老。
あまりのわざとらしさに精霊魔法でエルフを根絶やしにすることも考えてしまう。
「とにかく、俺はまだ結婚とか考えていない。精霊王の加護とやらを貰った恩は返したし、明日にはここを去るからな」
「ふむ。残念ですがこれ以上お引止めしても、一族の恩人に失礼ですな。せめて今夜だけは感謝の意を込めて宴を開かせてください」
(まあ一夜ぐらいなら……アンナも結構疲労しているみたいだからな)
そう考えた俺は、最後のけじめとして宴に参加したのだった。
◆◆◆
チュンチュン――
小鳥のさえずりが聞こえる。
(ふぁぁ、よく寝たな)
窓から差し込む暖かな光に照らされ、俺は目を覚ます。
(相変わらず人をダメにさせるな、このベッドは)
昨日魔物の脅威が去った後、集落に残されたエルフの少女であるプリムを救出に行った際、比較的無事だったエルフお手製のベッドを「よかったら差し上げます」とのことで長老から貰ったのである。
(さて、出発するかな)
そう考え身を起こそうとする。
やけに体が重い。
というか右手と左手が主に動きを制限されている。
「あ、おはよう。お兄ちゃん」
俺は大の字にベッドに横になっている。
右を向くと、なぜか俺の腕を枕にするフィーナの姿があった。
(うん、まあ、あれだな)
俺は昨夜の事を思い出す。
宴会の席で長老含め多くのエルフが、俺の元へ「ありがとうございます」とお酌に来た。
総勢100名を超えるエルフである。
最早最後の方は覚えていない。
何やら「とりあえず酒を持っていけ」と大人から指示された子供たちが、よくわからないまま俺に酒を注いできた気もする。
無邪気に目を輝かせ、英雄を見るような目でお酌をする子供たちのお酒を断ることも出来ず、俺はひたすらエルフ自慢のワインを飲み干していく。
最後に記憶に残っているのは、「してやったり」といった顔でほほ笑む長老の姿であった。
「何故フィーナがここにいる?」
「嫁が旦那と同じベッドで寝るのは普通だよね、お兄ちゃん?」
俺の疑問に疑問で返すフィーナ。
お兄ちゃんが旦那になるのはまずくないか?――二日酔いでそんな突っ込みを返す気力もない俺は、フィーナの存在を無かったことにするため左に向き直る。
「あ、リ、リュウジ殿。これには色々と深い訳があってだな……」
そういって顔を赤らめ目を背けるアンナが、何故か俺の左手を枕にしていた。
色々と考えるのが面倒になった俺は、何もなかったように正面に向き直り、再び惰眠を貪るのであった。
俺が再び目を覚ましたのはお昼頃であった。
腹時計が鳴り、俺はゆっくりとベッドから起き上がる。
異空間から携帯食を取り出し、軽く腹ごしらえをした俺は、学園の皆の元へ戻ろうと部屋を出る。
「お、おお。リュウジ殿。起きたか」
「ああ、アンナか。悪い、待たせたか?」
何故かぎこちないアンナの挨拶。
そういえばアンナと同じベッドで寝た夢を見たような覚えがあるが、記憶がはっきりとしない。
お酒はほどほどにしよう――俺はそう自戒するのであった。
「アンナ、そろそろ学園の皆のところに戻ろうと思うけど、準備はいいか?」
「う、うむ。特に問題はないぞ」
目を合わせず答えるアンナ。
慣れない土地でアンナも疲れているのだろう。
俺はそう解釈し、特に気にせずにアンナと共にエルフの仮拠点を後にしようとする。
するとどこからともなくエルフの民がわらわらと俺の元に集まり出す。
「やあ、リュウジ様。昨晩はお楽しみでしたね」
長老が好々爺の雰囲気を醸し出しながら、戯言を述べる。
「若、出発ですか?周辺の警戒は我々エルフの戦士にお任せ下さい」
最初俺に突っかかってきた、エルフの戦士であるアレンが恭しく俺に告げる。
いや、あんたキャラ変わり過ぎでしょ。
「お兄ちゃん。不束者ですけどよろしくね?」
あざとい恥じらいを見せるフィーナ。
「はっはっは。そうかそうか。うん、皆俺について来るか」
俺はもうなんというかすべてが面倒になり、開き直りを見せる。
「「はい、我らエルフ一同、どこまでも付いていきます!」」
威勢の良いエルフたちの声が挙がる。
「よーし、じゃあ行くぞー」
俺は全速力で駆けだす。
突然の事態にもめげずに走り出すエルフたち。
俺とエルフたちの壮絶なレースが始まりを告げたのだった。




