9.剣聖の住む街オオウィータ
「ハーッハッハ!どうした!そんなものか小童がぁ!」
「くっ、おっさん、大人気無いぞ!」
「甘い!甘すぎるぞ!そんなことで戦場を生き延びれると思うなよぉおお!」
「いつからここは戦場になったんだ!」
俺の眼前でリーゼントにちょび髭を携え、筋骨隆々の体躯を露わにしたタンクトップのおっさんが猛然と剣を振り回している。
コメディカルな容姿と裏腹にその剣技は、正確無比に俺の急所を容赦なく攻め立ててくるのだった。
俺の拙い剣術では防戦一方で、為すすべなく押し込まれる。
(どうしてこうなった――)
時は遡る――
リディアから「父に会って」と言われた俺は、正直どうしたものかと考えていた。
とりあえず理由を聞いてから判断しようとし、そこで判明した事実が以下である。
・リディアは出生地であるオオウィータの街では「剣聖」と崇められる父に育てられた
・その父をあっさりと超えてしまい免許皆伝となった
・15歳となったのを契機に(この世界では15歳が成人扱い)憧れの”魔法使い”を目指して街を出た
・街を出て魔法使いとなる条件として、剣に頼らずに一人前の冒険者になった証明が必要だった
・仕込み杖の制約剣を使ったことで、剣に頼ってしまった
・剣に頼ってしまった場合、オオウィータの街に戻るという約束をした
ざっくりまとめるとこのような感じである。
リディア曰く制約剣に魔力を込めた魔法使いはオオウィータの街にいるそうで、制約剣が壊れたことも魔力を通じて筒抜けになってしまっているとのことである。
制約剣を使った状況を説明し、もう一度冒険者として街を出れるよう、状況の証言者として一緒にオオウィータの街に来てほしい――というのがリディアの主張であった。
ちなみに一人前の冒険者とは冒険者ランクCを指すのが一般的で、現段階でリディアは俺と同じくEランク冒険者であり、実力はともかく冒険者ランク的には一人前と言えない状況である。
(俺を助ける為に制約剣を使ったことを考えると、責任は取らないとな)
かくして俺のオオウィータ行きが決定したのであった。
サガの街からオオウィータの街までは150キロメートル程である。
夜行馬車で10時間ほど揺られてオオウィータの街に到着し、リディアの案内でリディア宅兼剣道場に足を踏み入れた。
そして俺とリディアはリディアの父の元へと行き、剣が折れた経緯を説明する。
最初は落ち着き払い、家長としての威風を保って微笑を湛えていたリディア父だったが、俺が「リディアから色々手ほどきを受けている」や、リディアが俺から「大切なことを教えてもらった」と話し始めたところから、段々とリディア父の笑顔が消えていったのである。
そしてリディアが最後に
「リュウにリードして貰って(魔法使いとして)一線を越え(ることが出来)た」
と言った直後リディア父が
「よろしい、ならば戦争だ」
と突如襲い掛かってきたところで冒頭に戻る。
「殺ったぁあああ!」
リディア父が血走った目で叫びながら、恐らく名のある剣であろう白銀の刃で彩られた片手剣を振りかざす。
(やばい、このおっさん目がマジだ)
リディア父の全身全霊の一撃によって俺が袈裟切りにされる……と誰もが思った場面であったが、リディア父の振り下ろした刃は俺に触れることはなく、俺から皮膚一枚程の薄さを隔てて動きを止めていた。
「何、だと……?貴様一体……ぬおっ!」
リディア父は全力の剣をもってしても一切の手応えがないことに驚きつつも、目の前で展開される強大な魔力のプレッシャーを感じ取り思わず仰け反る。
「そっちも本気だったし、覚悟はいいよな?」
俺は体内の魔力を練り上げ、その密度を高める。
そして空に掲げた俺の左手の上では魔力がうねる様に回転し、小型の竜巻が発生していた。
小型とはいえ、建物を破壊し得るハリケーンのカテゴリー5クラスの威力は秘めた魔の竜巻である。
恐らく普通の人間がまともに直撃したならば、その生を終えるに十分な破壊力は所持しているだろう。
「ま、待て。私が悪かった。よし、娘はやろう!今日から息子と呼ばせてください!」
「……最低」
命の危険を感じ取ったリディア父が意味不明なことを口走りながら命乞いをする。
リディアはそんな父を汚物を見るかのような目で見つめるのであった。
なんとなくイラッとした俺は無言のまま、更に魔力を高めていく。
「わ、わかった。今ならサービスで妻もつけちゃうぞぉおおお……ひ、ひいっ!」
更に余計なことを口走るリディア父。
そして俺は、部屋の外から恐ろしい魔力の圧力を感じ取る。
そちらに視線をやると、リディア父の妻であるリディア母がなぜか笑えない笑顔で「おいでおいで」と手招きをしているのであった。
「メリッサ、ち、違うんだ。今のはちょっと口が滑……ぬぉっ!体が勝手に!」
リディアの母はメリッサというらしい。
感じ取れる魔力量から見ても、恐らく相当な魔法使いであるだろう。
どうやらリディア父に物申したいことがあるようだ。
親切な俺は風魔法の力を借り、リディア父の体を宙に浮かせて動きを奪ってから、風に乗せてリディア母の元へと送り届けてあげたのだった。
リディア父とリディア母が闇へと消えていく。
「アッー……」
遠くで響く断末魔の叫びを聞きながら、俺とリディアは出されたお茶をまったりとすするのであった。




