第39話 スイート・ブレンド
こんにちは。バレンタイン系小説家、風井明日香です。
この話を予約した日、某アニメグッズショップにて、とあるアニメのバレンタインイベントがやっておりまして。
内容が、レジでなんとも恥ずかしい合言葉を言えば、チョコが貰えるというものでして……。
レジの人が優しい人でよかった! マジで!(真顔)
「あ、甘い、甘すぎる……」
「自業自得ね」
長谷川さんお手製、砂糖増し増しコーヒーを一口飲むと一瞬で口の中が尋常じゃない甘さで埋め尽くされる。
お、おぇえ……。あ、あんなこと言わなければよかった……。
そら「あーん」なんて単語出したら怒るわな。
まあ実際「あーん」だったことに違いはないんだが……。
「さて、本題に戻るわよ。松下くん」
「本題……?」
「愛美と浩介くんのことに決まってるでしょ」
「あー、そういえばそんな話だったか」
「あなたね……」
「悪い悪い。喫茶店入ってから色々ありすぎて忘れてた」
店に入ってから、注文、ミステリー小説、ムンク、そして「あーん」。
盛り沢山すぎて完全に本題を忘れていた。
「よし、じゃあ話を戻して『浩介と佐倉さんゴールデンウィークでドキドキ急接近作戦』のことなんだが」
「……そのセンスの欠片もない作戦名はなんとかならないのかしら」
「なんともならねえ。あきらめてくれ」
初っぱなから不安に満ちた視線を送ってくる長谷川さん。
いいタイトルだと思うんだがなあ……。ダメか。
俺が考えた作戦は、まあほぼタイトルで言ってしまっているが、今週末からのゴールデンウィークを利用したものだ。
今年のゴールデンウィークは、四月末の三日間、そして5月に入り平日二日間をまたいでそこから四日間。
合計七日間もの休日があるのだ。これを使わない術があるだろうか。
否、使うしかない。恋愛の神様はそう囁いている!
「いきなりだが、五月一日って何の日か分かるか?」
「五月一日……。スズランの日かしら?」
「……悪い、全然知らねえ。なんだそれ」
「愛する人やお世話になった人にスズランを送る日よ。もらった人には幸せが訪れると言われているの。日本ではあまり主流じゃないけれどね」
「ほへぇ~」
いやはや、全く知らなかった。そんな日があったのか。
しかし、ある意味この情報はありがたいな。使わせていただこう。
「えっと、俺が思っていたのは違う日なんだが。ありがとな、いい情報をもらった。長谷川さん物知りだな」
「……? どういたしまして。そんなに物知りでもないわよ。私の好きな花がスズランだったというだけ」
「長谷川さん、スズラン好きなのか?」
「ええ。花の中では一番……かしらね」
これまた有力な情報を得たな。まあ、何に使うかは未定だが。
「んで、話は戻って五月一日なんだが。浩介の誕生日なんだよ」
「へぇ、杉浦くんの誕生日……。今回の作戦はその日を使うのかしら?」
「そういうことだ」
俺が考えた作戦はこうだ。
まず、ゴールデンウィーク前半の四月末三日間を使い、浩介を除く三人でプレゼントを買いにいく。
そして休み明け、平日二日間の一日目、この日がちょうど五月一日。
ここで佐倉さんがプレゼントを渡す。
さらに、ゴールデンウィーク後半四日間。この期間を使い、四人で集まるのだ。そして、ただ集まって遊ぶだけではない。
五月中旬、高校に入り一回目の中間テストがある。これの勉強会という名目で集まり「教え合い」の中で「教え愛」が芽吹く……みたいな?
……自分で言っててよく分かんなくなってきたな。
とまあ、そんな感じの作戦。我ながら悪くない作戦だと自負している。
長谷川さんに概要を伝えると、
「……あなた、本当にしっかり考えてくれていたのね」
「まあな」
前回喫茶店に来たとき、ゴールデンウィークを使って何か二人の距離を縮められないか、という話を長谷川さんにしていた。
しかし、考えていたのはそれだけで詳しい内容までは決まっていなかった。そう、内容はないよう!っていう状態。
だから、次の作戦会議までにはしっかり内容も決めてくるという話をしていたのだ。
「んで、さっき話した通り、休み始めにプレゼントを買いにいくから、長谷川さんから佐倉さん誘っておいてくれないか?」
「了解したわ。杉浦くんの誕生日ということは伝えても大丈夫よね?」
「問題ない。三人で浩介の誕生日プレゼントを買いにいくって伝えてくれ」
一通り話すべきことは話したので、少し力が抜ける。
だらしなく背もたれにだらーんとしていると、長谷川さんから話しかけられる。
「何度も言うけれど、あらためてありがとね。すごく感謝してるわ」
「まだお礼を言うのは早いぜ長谷川さん。感謝するはあの二人にハッピーエンドが訪れた後にしてくれ」
「そう……ね。もしそうなったら、もう一度しっかりお礼させてもらうわね」
「おう、そうしてくれ」
前にも話したが、俺だって長谷川さんにはすごく感謝している。俺からもお礼したいくらいだ。
でも、これまでの長谷川さんを見る限り、たぶんそういう態度は逆効果だ。
だから、これからはもう素直に長谷川さんのお礼を受け止めようと思う。
彼女がしたいって言うなら仕方ないよねの精神で行きましょうかね。
……俺からのお礼はまたの機会にしよう。
「よし、じゃあ今日はここらで解散だな」
「そうね」
長谷川さんがコーヒーゼリーを食べ終わるのを見届けてからそう提案する。
長谷川さんも賛同してくれて「よし」と呟き腰を上げる。長谷川さんも同じように立ち上がり──
「……あら、松下くん? まだコーヒーが残っているようだけれど?」
「……」
「あまり飲食物を残すというのは感心しないわね」
「………」
「せっかく私が心を込めてブレンドしてあげたのに……。がっかり──」
「ありがたくいただきます!!」
結局、喫茶店を出て家に着くまでの間、口の中から砂糖の残存勢力が消えることはなかった。
……なんか最近、長谷川さんにうまく乗せられている気がしてます。俺です。
スズランの日は、フランス発祥のイベントらしいですね。私もスズラン好きです。
……自分の好きなお花を聞かせてくれる女の子って……なんかいいですよね()
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