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終章














 体育館で入学式を終え、千草はぐっと背伸びをした。隣には高校時代からの友人である加代子がいる。


「いや~、よかったよね。お互い、受かって」

「全くですね」


 千草はすでに大学生になっていた。と言っても、今日が大学の入学式で、まだ大学一回生になる。ちなみに、入学したのは千草の兄、千秋が通ってきいたのと同じ大学。兄千秋はそのまま大学院に進んだので、同じ敷地内で勉強することになるが、大学院は午後からの講義が多いので、授業時間がかぶることはあまりないかもしれない。


「ちーちゃん、文学部だったよね。何専攻にするの?」

「今のところ、歴史学かなぁ」


 結局、兄と同じ道だ。だが、純粋に歴史について調べている千秋とは違い、千草は神話について調べようと思っているから、宗教学とか、純粋に文学に近いのかもしれない。

 おそらく、千草がそう思ったのは、彼女の身近にいる十二天将や神の存在がある。自分自身も陰陽師であるし、何より、彼女が高校一年生の時にいなくなってしまった、半神半人の女性、瑠依。真名は佳夜明姫。彼女の存在が大きいだろう。


 今でもよく覚えている。自分は人間だと主張するのに、その存在は神に近かった瑠依。彼女に育てられたも同然の由良は、瑠依が亡くなったことがよほどショックだったらしい。それでも、日々を過ごし、今は学者としてどこぞの研究所で働いているらしい。


 同じく瑠依と関わりの深かった紫蘭は、瑠依とその姉・玉華の埋葬が終わった後、気づいたら姿を消していた。彼は最後まで、瑠依に『愛している』と伝えられなかったようだ。

 千草はため息をついた。


「じゃ、加代子。私、ここの校舎だから」

「そっかぁ。学部が違うとあまり会えなくなるよねぇ」


 ちなみに、一緒にいる加代子は教育学部である。一応同じ文系であるが、やはり学部が違えば使用する校舎も違う。オリエンテーションが学部ごとに行われるので、千草は加代子と別れて文学部のオリエンテーションが行われる後者に入った。

 教授の話を聞きながら、思う。瑠依がいなくなっても、この世界はいつも通りに動いている。やはり、瑠依がいなくなったことには誰も気づいていなくて、千草はさみしい思いをした。誰も覚えていないから、千草が覚えていようと思う。そうしたら、千草の中では、少なくとも『神藤瑠依』と言う女性が生きていたことは事実になる。


 オリエンテーションが終われば今日は終わりだ。千草はぐっと伸びをした。そこに声がかかる。


「千草」


 振り返ると、相変わらず人形めいた顔の同居人。


「お、透哉。医学部ももう終わり?」

「ああ」


 たとえ医学部であろうと、初日は半日らしい。そう。この男は『医者になりたい』と言いだし、この大学の医学部を受験して合格したのだ。しかも、成績優秀者として、奨学金も出るらしい。次元が違いすぎてよくわからない。

 医学部キャンパスはこことは別の所にあるのだが、今日は今年の入学者全員そろっての入学式があったので、医学部オリエンテーションもこのキャンパスだったらしい。


「今帰りか?」

「うん。透哉も?」


 うなずかれたので、千草は「じゃあ、一緒に帰ろうか」と言った。いまだに、透哉は土御門邸に住んでいる。彼は大学受験を期に一人暮らしをする、と言ったのだが、別に透哉がいることで土御門家に迷惑がかかるわけではないし、もともと広さの割に人が少ない土御門家だ。せっかくなじんできたのにいなくなったら寂しい、と千草が駄々をこねたので一緒に通学を相成っている。


 透哉の人形めいた整った美貌は健在だ。さすがに、十五歳のころよりも大人びているが、やはり作り物めいた顔立ちだ。左右対称なのである。まあ、言ったら気を悪くするだろうから、言わないけど。


「医学部ってさ、どう?」

「年上が多いな。浪人して入学した人が多いから」

「現役が少ないってことかぁ。ってことは、透哉、やっぱりすごいのね」

「……」


 文系キャンパスの方から土御門家に帰ろうとすると、理系キャンパスの近くを通ることになる。校門から理系の学生が何人か出てくる。

 楽しげに騒ぎながら帰路につく学生の中、午後から講義なのだろうか。大学に入っていく女子学生がいた。その後ろ姿が、似ていた。


 長身痩躯の女性。つややかな黒髪に、どこか神秘的な雰囲気を放っている。


 似ているのだ。二年前に死んだ半神半人の女性、瑠依と。


 そう思ったとたん、千草は駆け出した。


「って、おい!」


 千草! と駆け出した千草の背中に透哉の声がかかる。止まらない千草を見て、透哉も後を追ってきた。その前に、千草は目を付けた女性に声をかける。


「待って! 待ってください! ねえ、お姉さん!」


 どこかの下手なナンパのような言葉を吐き、千草は背の高い女性の肩に手をかけた。その人は驚いたように振り返った。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


『神がいる世界で』はこれで終わりになります。最後に振り返った人は、いったい誰だったのでしょうか(笑)

とにかく。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!




最後に、人物紹介に入っていない人の紹介を。


玉華ぎょくか

今から1700年ほど前の人物。初依の姉。母親から玉依姫を受け継いだ半神半人。祈りの女神。人間の男性と恋におち、子供をもうけるが、それを良く思わなかった者たちに断罪され、恨みを抱くようになる。子供は初依が連れて逃げた。



紫蘭しらん

外見は二十代前半。半神半人で、衣良を拾ってきた人物。瑠依の古くからの知り合いであり、本人たち曰く腐れ縁。なんだかんだで仲がいい。強力な治癒力を持つ神。ちなみに、男。医術の神。最後まで瑠依(初依)に『愛している』と伝えられなかった。その後の行方は不明。



雪莉せつり

玉華の娘。死後、長らく現世にとどまっていたが人柱となる。実の母のことはほとんど覚えておらず、瑠依と紫蘭を実の父母のように慕っていた。そのため、優先順位は生みの親の玉華より瑠依たちの方が上。



騰蛇とうだ

外見年齢は20代半ば。十二天将中最強の力を持つと言われるが、その姿を見たものはほとんどいない。先代勾陣を討って以降、超絶引き籠りに。神の世界と人界の間にある宮殿に引きこもっている。

身長182センチ。



これくらいでしょうか。というか、ついに千草母は出てこなかったな……。由良の父親も出せなかった……(←忘れてた)。ちなみに、由良の父はソロモン王に拝謁したことがあるというあの人です。



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