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第993話 「差し伸べられた手②」

愛読者の皆様!


『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻が発売決定致しました!

詳細は決まり次第お報せ致します。


書籍版をまだお読みではない方は、第1巻~3巻を宜しくお願い致します。

皆様が応援して下されば、更にまた『次』へと進む事が出来ます。

※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。

「いった~」


「うう、いたた……」


「きつい~」


「苦しいっ」


 広大な、魔法女子学園屋外闘技場のあちこちから、辛そうな声が聞こえて来る。

 呻くような、可愛い悲鳴をあげているのは……

 ルウとフランから、魔法攻撃術B組の授業を受ける生徒達である。

 各々の習得度により、3班のクラス分をけされた生徒達であったが、最初は全員一緒に基礎訓練を行う。

 現在は、ふたりひと組になって、ストレッチと柔軟体操が行われていた。


 その生徒達の中には、マノンも居る。

 

 何と!

 マノンは……好敵手ライバルと目した、オレリーと組んでいる。

 傍らでは、ジョゼフィーヌとリーリャが組んで、柔軟体操を行っていた。


 今、マノンの中には予想通りだという安堵感と、予想外だという驚きが混在している。

 予想通りの安堵感というのは……

 事前にオレリー達から聞いた情報が裏付けられ、準備して来た事が役に立っている事だ。


 ルウの授業メニューは、ここまではほぼマノンの予想通りなのである。


 まずは生徒各自に合った適正な呼吸法で、精神を安定、集中させた。

 更に魔力も充分に高め、発動準備が整った上で、入念なストレッチと柔軟体操が行わせている。


 ……やはり、オレリーさん達は誠実でした。

 本当の事を、教えてくれていました。


 マノンは、喜びを感じると同時に、少し反省もする。

 今迄の自分は、何という『愚かな子』だったのかと。


 身分という偽りの幻に囚われ、相手の本質を見抜く事が出来ていなかったと。

 『真実』が明らかになって、良く良く考えれば……

 オレリーは、自分より先にルウが『妻』にした女子なのだ。

 優れていないなど、あるわけがない。

 元々、オレリーは2年生のトップ――『首席』でもある。


 そのオレリーから、強く背中を押されながら、マノンは一層気合が入った。


 もっと、もっと頑張らないといけない!

 頑張らないと、自分は置いて行かれてしまう。

 これ以上、オレリーにだけは負けるわけにはいかないと。


 思い起こせば、衝撃の事実だった。

 『目標とした人生』のライバルは、予想以上に多かった。

 自分と同じか、それ以上の身分の女子があんなに多く、ルウの妻となっていたから。


 マノンも、ロドニアの王女リーリャや公爵令嬢のジゼルには一目置く。

 一目置くどころか、引け目も感じる。

 さすがの伯爵令嬢でも、王族や超が付く上級貴族の子には、負けても……仕方がないとも感じるのだ。


 だからこそ!

 平民のオレリーを見ていると、自分が励まされる。

 いくらルウの助力があったとはいえ、這い上がって来た、叩き上げの強さを感じるから。

 オレリーの存在は、マノンにとって強い刺激になる。

 絶対に諦めたくないという、挫けぬ勇気が湧いて来る。


 マノンは思う。

 今のオレリーに対して……

 ポレットやステファニーとは、違う友情さえも感じると。

 『強敵』『戦友』という言葉がぴったり当てはまるのだ。


「ふうう……」


 やっとストレッチ&柔軟体操のメニュー終わり、マノンは軽く息を吐いた。

 一見、満足そうな笑みも浮かべている。

 少々強張ったマノンの笑顔を見て、オレリーも微笑む。


 だが……

 正直言って、マノンは辛くなっていた。

 安堵と共に予想外だと思ったのは、ルウの設定した訓練メニューが、想像以上にきつかった事である。

 

 確かにオレリーの言葉通りだった。

 ストレッチと柔軟体操を行ったから。

 当然ながら……オレリーを責める事など出来ない。

 加えて、オレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャは、マノンと違い……

 涼しい顔で、楽々とメニューをこなしていた。

 

 だからこそ、マノンは我慢する。

 オレリーを含めたライバル達には勿論、愛するルウにみっともない部分を見せたくない。


 それ故マノンは、他の生徒のように大袈裟に痛がったり、大きな声で悪戯に悲鳴をあげたりはしていない。

 身体を僅かに震わせ、子犬のように唸っただけである。


 暫し経ち、ルウの声が響き渡る。


「よっし、休憩の後は、全員でランニングだ」


 更にフランの声も、


「ここまでで、きつい人は申し出て下さい」


 フランの呼び掛けに応え、数人の生徒が休憩を申し出た。

 「辛い」と申し出た生徒達は、引き続き呼吸法と、ストレッチ&柔軟体操を継続するようだ。


 一瞬、マノンは自分も手を挙げそうになった。

 しかし強く首を振る。

 そんなマノンの耳へルウの声が飛び込んで来た。


「さあ、行くぞ。今日は下期初日だし、ゆっくり走るからな」


 顔中汗だらけのマノンは、疲れを吹き飛ばすかのように、にっこり笑う。

 ルウが自分をしっかり見て、微笑んでくれたからである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウの言う、ゆっくりめのランニングは、疲れたマノンへ更にダメージを与えた。


 元々、マノンの趣味のひとつに乗馬があった。

 護身の為にほんの少々ではあるが、剣の心得もあったし、そこそこ身体を鍛えていた。

 だから授業の鍛錬も全然平気だと、大丈夫だと高を括っていた。


 しかし、ルウの与えたランニングメニューは、やはりマノンの予想を遥かに超えていた。

 指示された距離を何とか走り終わると……

 遂に、体力の限界に来たマノンは、思わず膝を突いてしまったのである。


 身体を揺らし、荒い息をするマノンに声が掛けられる。


「マノンさん!」


 ……この声は……オレリーだ。

 しかしマノンは、いつものように「打てば響け!」と、返事が出来ない。


「…………」


「マノンさん!!」


 今度は先ほどより、強く呼ばれ、マノンの目の前に手が差し出された。


「…………」


 マノンは、「ぼんやり」と差し出された手を見た。

 目の前にあるのは、華奢なオレリーの手である。


「私の手に、掴まって……」


「え、ええ……」


 おずおずとマノンは、オレリーの手を掴んだ。

 その瞬間!


 何と!

 疲れが!

 ……みるみるうちに引いて行く。


 マノンは知らない。

 オレリーは加護を与えてくれた水の精霊(ウンディーネ)、更に水の妖精(グウレイグ)のアリス、両方の祝福を受けた『英雄を癒す者』であり、『邪気を払う清流の乙女』である事を。


 回復魔法の申し子となる、最高の素質を有しているオレリー。

 まだ彼女は、完全に覚醒はしていない。

 だがこれまでの修行により、中級レベル以上の回復魔法を、容易に行使する事が出来る。


 この子……凄い!

 凄すぎる!

 そして何!?

 この包まれるような、感覚はっ!


 あっという間に回復したマノンは驚きと共に、穏やかな安らいだ気持ちになっている。


 マノンが改めて見れば、当のオレリーは優しく微笑んでいる。

 自分の魔法を、誇示する様子はない。

 それどころか、魔法を使った事さえ告げない。


「大丈夫? 何とか立てそう?」


 やはりそうだ!

 

 マノンは自分の考えが当たっているのを感じる。

 オレリーは、意識して回復魔法を発動したのではないらしい。

 疲労困憊ひろうこんばいの友を助けようとして、自然に魔法を使ったようなのだ。


 この子は……ルウ先生が見込んだだけの事はある!

 とんでもない子……なんだ。

 

 でも!

 私は負けない!

 ここまでの相手なら、『倒しがい』がある。

 完全完璧な好敵手ライバルとして、もう手放せないっ。


 それだけじゃない!

 ……生涯競い合える、親しい友達になれるかもしれない。


 少し噛みながらも、マノンは微笑む。


「あ、あ、ありがとう! オレリーさん」


「すっく」と立ち上がったマノンは、賞賛の気持ちも込め……

 オレリーへ、素直に礼を言う事が出来たのだった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

東導の別作品もお願いします。


☆『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』新パート連載中!


https://ncode.syosetu.com/n4411ea/


※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う

ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。


故郷に帰りたかった青年が謎の死を遂げ、15歳の少年になって異世界転生! 

バトルは少々ありますが、基本は田舎の村で美少女達とスローライフ。

畑を耕したり、狩りをしたり、魚を釣ったり、結婚した美少女達と日本の昔遊びなど。

スローライフ最中、自らの転生の謎を解き、様々な人々と、出会い&別れを繰り返す。

結果、逞しい『ふるさと勇者』へと成長して行く物語です。


※本日3月16日朝、更新予定です。

何卒宜しくお願い致します。

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