第993話 「差し伸べられた手②」
愛読者の皆様!
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「いった~」
「うう、いたた……」
「きつい~」
「苦しいっ」
広大な、魔法女子学園屋外闘技場のあちこちから、辛そうな声が聞こえて来る。
呻くような、可愛い悲鳴をあげているのは……
ルウとフランから、魔法攻撃術B組の授業を受ける生徒達である。
各々の習得度により、3班のクラス分をけされた生徒達であったが、最初は全員一緒に基礎訓練を行う。
現在は、ふたりひと組になって、ストレッチと柔軟体操が行われていた。
その生徒達の中には、マノンも居る。
何と!
マノンは……好敵手と目した、オレリーと組んでいる。
傍らでは、ジョゼフィーヌとリーリャが組んで、柔軟体操を行っていた。
今、マノンの中には予想通りだという安堵感と、予想外だという驚きが混在している。
予想通りの安堵感というのは……
事前にオレリー達から聞いた情報が裏付けられ、準備して来た事が役に立っている事だ。
ルウの授業メニューは、ここまではほぼマノンの予想通りなのである。
まずは生徒各自に合った適正な呼吸法で、精神を安定、集中させた。
更に魔力も充分に高め、発動準備が整った上で、入念なストレッチと柔軟体操が行わせている。
……やはり、オレリーさん達は誠実でした。
本当の事を、教えてくれていました。
マノンは、喜びを感じると同時に、少し反省もする。
今迄の自分は、何という『愚かな子』だったのかと。
身分という偽りの幻に囚われ、相手の本質を見抜く事が出来ていなかったと。
『真実』が明らかになって、良く良く考えれば……
オレリーは、自分より先にルウが『妻』にした女子なのだ。
優れていないなど、あるわけがない。
元々、オレリーは2年生のトップ――『首席』でもある。
そのオレリーから、強く背中を押されながら、マノンは一層気合が入った。
もっと、もっと頑張らないといけない!
頑張らないと、自分は置いて行かれてしまう。
これ以上、オレリーにだけは負けるわけにはいかないと。
思い起こせば、衝撃の事実だった。
『目標とした人生』のライバルは、予想以上に多かった。
自分と同じか、それ以上の身分の女子があんなに多く、ルウの妻となっていたから。
マノンも、ロドニアの王女リーリャや公爵令嬢のジゼルには一目置く。
一目置くどころか、引け目も感じる。
さすがの伯爵令嬢でも、王族や超が付く上級貴族の子には、負けても……仕方がないとも感じるのだ。
だからこそ!
平民のオレリーを見ていると、自分が励まされる。
いくらルウの助力があったとはいえ、這い上がって来た、叩き上げの強さを感じるから。
オレリーの存在は、マノンにとって強い刺激になる。
絶対に諦めたくないという、挫けぬ勇気が湧いて来る。
マノンは思う。
今のオレリーに対して……
ポレットやステファニーとは、違う友情さえも感じると。
『強敵』『戦友』という言葉がぴったり当てはまるのだ。
「ふうう……」
やっとストレッチ&柔軟体操のメニュー終わり、マノンは軽く息を吐いた。
一見、満足そうな笑みも浮かべている。
少々強張ったマノンの笑顔を見て、オレリーも微笑む。
だが……
正直言って、マノンは辛くなっていた。
安堵と共に予想外だと思ったのは、ルウの設定した訓練メニューが、想像以上にきつかった事である。
確かにオレリーの言葉通りだった。
ストレッチと柔軟体操を行ったから。
当然ながら……オレリーを責める事など出来ない。
加えて、オレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャは、マノンと違い……
涼しい顔で、楽々とメニューをこなしていた。
だからこそ、マノンは我慢する。
オレリーを含めたライバル達には勿論、愛するルウにみっともない部分を見せたくない。
それ故マノンは、他の生徒のように大袈裟に痛がったり、大きな声で悪戯に悲鳴をあげたりはしていない。
身体を僅かに震わせ、子犬のように唸っただけである。
暫し経ち、ルウの声が響き渡る。
「よっし、休憩の後は、全員でランニングだ」
更にフランの声も、
「ここまでで、きつい人は申し出て下さい」
フランの呼び掛けに応え、数人の生徒が休憩を申し出た。
「辛い」と申し出た生徒達は、引き続き呼吸法と、ストレッチ&柔軟体操を継続するようだ。
一瞬、マノンは自分も手を挙げそうになった。
しかし強く首を振る。
そんなマノンの耳へルウの声が飛び込んで来た。
「さあ、行くぞ。今日は下期初日だし、ゆっくり走るからな」
顔中汗だらけのマノンは、疲れを吹き飛ばすかのように、にっこり笑う。
ルウが自分をしっかり見て、微笑んでくれたからである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルウの言う、ゆっくりめのランニングは、疲れたマノンへ更にダメージを与えた。
元々、マノンの趣味のひとつに乗馬があった。
護身の為にほんの少々ではあるが、剣の心得もあったし、そこそこ身体を鍛えていた。
だから授業の鍛錬も全然平気だと、大丈夫だと高を括っていた。
しかし、ルウの与えたランニングメニューは、やはりマノンの予想を遥かに超えていた。
指示された距離を何とか走り終わると……
遂に、体力の限界に来たマノンは、思わず膝を突いてしまったのである。
身体を揺らし、荒い息をするマノンに声が掛けられる。
「マノンさん!」
……この声は……オレリーだ。
しかしマノンは、いつものように「打てば響け!」と、返事が出来ない。
「…………」
「マノンさん!!」
今度は先ほどより、強く呼ばれ、マノンの目の前に手が差し出された。
「…………」
マノンは、「ぼんやり」と差し出された手を見た。
目の前にあるのは、華奢なオレリーの手である。
「私の手に、掴まって……」
「え、ええ……」
おずおずとマノンは、オレリーの手を掴んだ。
その瞬間!
何と!
疲れが!
……みるみるうちに引いて行く。
マノンは知らない。
オレリーは加護を与えてくれた水の精霊、更に水の妖精のアリス、両方の祝福を受けた『英雄を癒す者』であり、『邪気を払う清流の乙女』である事を。
回復魔法の申し子となる、最高の素質を有しているオレリー。
まだ彼女は、完全に覚醒はしていない。
だがこれまでの修行により、中級レベル以上の回復魔法を、容易に行使する事が出来る。
この子……凄い!
凄すぎる!
そして何!?
この包まれるような、感覚はっ!
あっという間に回復したマノンは驚きと共に、穏やかな安らいだ気持ちになっている。
マノンが改めて見れば、当のオレリーは優しく微笑んでいる。
自分の魔法を、誇示する様子はない。
それどころか、魔法を使った事さえ告げない。
「大丈夫? 何とか立てそう?」
やはりそうだ!
マノンは自分の考えが当たっているのを感じる。
オレリーは、意識して回復魔法を発動したのではないらしい。
疲労困憊の友を助けようとして、自然に魔法を使ったようなのだ。
この子は……ルウ先生が見込んだだけの事はある!
とんでもない子……なんだ。
でも!
私は負けない!
ここまでの相手なら、『倒しがい』がある。
完全完璧な好敵手として、もう手放せないっ。
それだけじゃない!
……生涯競い合える、親しい友達になれるかもしれない。
少し噛みながらも、マノンは微笑む。
「あ、あ、ありがとう! オレリーさん」
「すっく」と立ち上がったマノンは、賞賛の気持ちも込め……
オレリーへ、素直に礼を言う事が出来たのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
東導の別作品もお願いします。
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※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。
故郷に帰りたかった青年が謎の死を遂げ、15歳の少年になって異世界転生!
バトルは少々ありますが、基本は田舎の村で美少女達とスローライフ。
畑を耕したり、狩りをしたり、魚を釣ったり、結婚した美少女達と日本の昔遊びなど。
スローライフ最中、自らの転生の謎を解き、様々な人々と、出会い&別れを繰り返す。
結果、逞しい『ふるさと勇者』へと成長して行く物語です。
※本日3月16日朝、更新予定です。
何卒宜しくお願い致します。




