第987話 「テオドラの復活⑫」
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テオドラは思い直す。
ルウの従士を務める、選ばれた戦士たる自分が、容易く恐怖に囚われる。
こんな事では、絶対にいけないと。
顔を軽く左右に振り、何とか勇気を振り絞って、恐る恐る見れば……
逞しい女戦士は腕組みをして、テオドラ達を見下ろすように立っていた。
ゆっくりと、女戦士の形の良い、薄めの唇が開く。
「ミンミ、任務完了だ。ただ、それだけを告げに来た。他に用はない」
どうやらこの女戦士は、ギルドから指示された依頼を完遂し、その報告に来た『だけ』のようだ。
彼女の言う通り、確かに依頼完了だけなら、わざわざギルドマスターへ伝えに来る事ではない。
マスター自らが出した『特別指令』というのなら、また話は別であるが……
片や、ミンミはというと、苦笑したままである。
「ははは、相変わらずだな、マルガ」
マルガと呼ばれた女戦士は、微かに笑う。
「ふん! 所詮は一般依頼。カウンターの担当者に伝えれば済む用件だ。しかし、丁度お前が居たから、上まで出向いてやった」
テオドラは、吃驚した。
マルガが、いくら実力のある女戦士だからとはいえ、所詮はギルド所属の一冒険者。
ギルドの長たるマスターに対し、何という、無作法且つ上から目線な口の利き方であろうか。
しかし、ミンミは怒った様子もなく笑っていた。
「ふふ、それは嬉しいぞ」
「にこにこ」するミンミから、視線を移した女戦士――マルガは「じろり」と、テオドラを見た。
視線を注がれたテオドラの身体が、緊張で固くなる。
「ほう……お前がテオドラか?」
驚いた事に、マルガはテオドラを知っているようだ。
当然初対面であり、この場で紹介もしていないのに。
「…………」
テオドラは、やはり返事をしなかった。
けして、単なる人見知りとかではない。
未知の相手であるマルガの事を、大いに警戒しているのだ。
無作法なテオドラの態度を見て、僅かに眉をひそめたマルガだが、何故か「ふっ」と微笑む。
「返事くらいはして欲しいが……私は、お前みたいな女が嫌いではない」
「…………」
しかし、相変わらずダンマリのテオドラ。
見かねたウッラは、テオドラの肩を掴み、軽くゆすった。
「お、おい、テオドラ……マルガさんに挨拶しろ」
「…………」
テオドラは頑なに返事をしない。
口を強く、「きゅっ」と結んでいた。
ずっと無言を貫くテオドラへ、マルガの怒りがさく裂するかと思いきや……
爆発したのは大きな笑い声であった。
「ははははははは! テオドラ! お前と私は似た者同士だ」
「…………」
「ふむ、お前の実力は魔力波を見て分かった。ギルド登録が終わったら、ウッラと共に来い。……私はいつまでも待っている」
マルガの言葉の意味とは……
冒険者になったら、同じクランのメンバーになれという誘いだ。
それにとても好意的な物言いである。
今迄の経緯を考えれば、意外……であった。
マルガに好意的らしいウッラは、感激したようで、素直に礼を述べる。
「あ、ありがとうございます」
対照的に、テオドラは……相変わらず無言である。
「…………」
「では失礼する」
「用はもう済んだ!」とばかりに、マルガは踵を返し、去ろうとした。
その背へ、ミンミが声を掛けた。
「まあ、待て、マルガ。そう急ぐな」
去ろうとした、マルガの動きが一瞬止まった。
「ここでひと息つけば良い。茶くらいは淹れるぞ」
ひと仕事終えたマルガを、労わろうとするミンミの誘いではあったが……
マルガは背を向けたまま、きっぱりと断る。
「無用だ。既に次の依頼を受けた。大昔に廃棄された古城の不死者退治だ」
普通の冒険者では考えられない事である。
休息という言葉は、マルガの辞書には存在しないらしい。
ミンミも心得ていて、お茶の誘いを引っ込める。
あっさり依頼の話へと、切り替えてしまう。
「ほう、あれか」
「うむ、あれだ! まあ、不死者など雑魚だから、あっという間に完遂するだろうが……さあ、ピエレット、もう行くぞ! 下まで降りる、先導しろ」
「は、はい!」
戦士マルガ――大悪魔マルコシアスは来た時と同様、扉をバンと閉め、去って行った。
部屋には、ミンミ、ウッラ、そしてテオドラが残される。
「ははは、相変わらずだ。あいつは……」
ミンミは笑いながら、首を横に振った。
だが、けして「あいつは嫌だ」という雰囲気ではない。
むしろ、マルガへの親しみが溢れていた。
ここで漸く、テオドラはおぼろげな記憶を修復する事が出来た。
口からは、ある人物のふたつ名が語られる。
「彼女、もしや天狼……ですか?」
「うむ、そうだ! 天狼……マルコシアス。ルウ様の悪魔従士の中では、アモン、アスモデウスと並び最強と謳われる女悪魔だ」
ミンミの説明を聞いて、ウッラは「うんうん」頷いていた。
「当然、承知」という雰囲気である。
先程のミンミ同様……
ウッラからは、マルガへの好意を示す強い波動が放たれている。
何故……だろう?
マルガはマルコシアス……
怖ろしい悪魔の筈だ。
人々から、忌み嫌われる筈なのだ。
疑問に思ったテオドラは、再びマルガの正体を呟く。
「天狼マルコシアス……」
テオドラの言葉を受けて、ミンミが言う。
「うむ……愚直という言葉を、具現化したような女だな」
「愚直……」
愚直とは、正直すぎて上手く立ち回れず、不器用……
テオドラが知るところ、確か、そんな意味である。
何となく共感を覚える。
「なあテオドラ、ここに居る私達3人は皆同じなのさ……マルガ同様、ひたすら愚直に生きている。そう思わないか?」
ミンミからの、問いかけを聞いたテオドラは……
何故マルコシアスが、怖ろしい悪魔なのに好かれるのか?
そして、不器用な自分が……
何故、周囲から、優しく見守って貰えるのか?
漸く、分かった気がしたのであった。
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東導の別作品もお願いします。
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