第985話 「テオドラの復活⑩」
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とんとんとん!
原因不明の気温低下が、通常に戻りつつあった時。
応接室の扉が、リズミカルにノックされた。
「…………」
だが、テオドラはすぐ返事が出来ない。
代わりにというか、元気よく返事をしたのは、ウッラである。
「はいっ!」
「良いか? 入るぞ、ふたりとも」
応接室の扉が「さっ」と開く。
廊下から室内へ、颯爽と入って来たのは……
深い菫色の瞳、輝き揺れる長い金髪、独特の整った顔立ちにやや尖った耳……典型的なアールヴの美しい女性であった。
女性は、ルウの妻のひとりミンミである。
ふたりを見るミンミは慈愛に満ちた、優しそうな笑顔を浮かべている。
「ウッラ、良い返事だ」
「ミンミ様! ありがとうございますっ!」
ミンミに褒められ、ウッラは嬉しそうだ。
どうやら美貌のギルドマスターへ、憧れの気持ちを抱いているらしい。
ミンミはウッラを褒めると、テオドラに視線を移す。
「ふむ、彼女がテオドラか。ウッラと同じく双子の姉妹だと聞いていたが……成る程、姉のソフィアにそっくりだ」
「…………」
「テオドラ、私はミンミだ、宜しくな」
「…………」
相変わらず、「だんまり」のテオドラ。
ウッラは、たまらず注意する。
「こら! テオドラ、挨拶しないか」
しかしミンミは笑顔のまま、手を横に振った。
「ああ、良いさ、無理もない」
「…………」
「テオドラを見ると、私がイエーラを出て、人間の街へ来たばかりの時を思い出す……ルウ様がずっと好きで好きで会いたくて追いかけて来た……だが初めて来た人間の街は右も左も分からなかった」
ミンミがルウを追っかけて?
何となく……覚えているような、いないような……
……やはり、その記憶も曖昧であった。
考え込んだ上で、テオドラはやっと言葉が出る。
「え? ミンミ……様がルウ様を?」
「ああ、そうさ。ルウ様はアールヴの長ソウェルになるべき方だった。なのに、辞退して旅立たれてしまったのだ」
「…………」
「私は暫し経ってからイエーラを出て、後を追った。てっきりルウ様は冒険者になると思っていたからな。迷わずバートランドへ直行したから行き違いになってしまったよ」
「そう……だったのですか」
ミンミは一途にルウを思い、国を飛び出した。
しかし、すぐ会う事は出来なかった。
テオドラが気付くと、ミンミは遠い目をしている。
ぽつりと呟く。
「……だが、逆に良かった」
「え? 逆に良かったって? 何故?」
テオドラが聞くと、ミンミは堰を切ったように話し出す。
「うん! 急がば回れというのは本当だ。今となっては、ルウ様にすぐ会えなくて良かったと思っている。人間の街でもまれた結果、故国に居たままでは絶対に出来ない体験をした。実力を付け、こうして名誉ある地位も得た。そして無事に巡り合い、あの方に釣り合える妻にもなれた」
「…………」
「…………」
いつになく、口数が多いミンミ。
やはりルウの事となると、たくさん喋りたいらしい。
ウッラとテオドラは聞き役に徹しざるをえない。
黙ったふたりに構わず、ミンミの口調は熱を帯びる一方だ。
「ギルドマスターという職務から、官舎暮らしが多いのが残念だ。屋敷に居る他の妻同様、私だって毎晩、ルウ様と一緒に風呂に入りたい。たっぷり可愛がっても頂きたいっ!」
「…………」
「…………」
「一日ずっと一緒に、ルウ様と居るわけではない……だが、今の私の生活は充実一途だ。うん、本当に幸せだ」
「…………」
「…………」
ミンミはここまで話すと、ハッとした。
自分が一方的に喋ってしまった事に気付いたらしい。
照れて、少し苦笑している。
「ふむ、済まぬ。つい惚気てしまった……すぐ本題へ入ろう。テオドラ、お前にはこのギルドの仮登録証を発行する」
「ギルドの? 仮登録証ですか?」
「ああ、ルウ様の命令だ。後日、ウッラと共にランク認定試験を受けて貰う」
「え?」
ウッラが「了解している」というように、頷いている。
どうやら事情が分かっているようだ。
しかしテオドラはきょとんとしている。
実感が湧かない……
「私が……冒険者?」
「うむ、ルウ様に聞いたが……お前は、素晴らしい力を持っているそうじゃないか」
「…………」
嬉しい!
ルウが認めてくれた。
自分の力を……
だが……付き従う従士ではなく……冒険者になれって……
「その力を、ぜひギルドの為に活かせとの仰せだ」
「…………」
テオドラは……また無言になってしまった。
ミンミは苦笑する。
指示を受け入れたくないという、テオドラの心の内を見抜いていた。
「まあ、表向きだがな」
「え? お、表向き?」
表向き?
表向きって何?
テオドラは、意味が分からない……
「冒険者になるのは表向きという事さ。所詮は手段に過ぎぬ」
「手段?」
「ああ、お前がこの国で、そしてこの王都で自由に振る舞えるようにする為だから。ギルドの登録証は身分証明書になる」
「私の身分証明書……」
「テオドラ、お前はまず、この王都に根を生やせ。その後の事はゆっくりと考えるが良い」
「ゆっくりと考える……のですか?」
「うむ、未来への選択肢は多い方が良い」
「未来への選択肢……」
「ああ、お前がどうしても、ルウ様の従士として仕えたいのなら……いろいろ方法がある。希望は、そのまま通らないかもしれないが……折り合える着地点は見いだせる筈だ」
「…………」
漸く分かった……
ルウは、突き放そうとしているのではない。
テオドラに対し、多くの可能性を探れ……
その中から、自分に合った『道』を、見極めてみろと手を差し伸べているのだ。
テオドラが、そこまで考えた時。
ミンミが、新たな話を切り出して来る。
「後、これは大事な事だから念を押しておく。当然ウッラにもだ」
「はいっ!」
「…………」
ウッラはこれからする話も分かっているようである。
だから、元気よく肯定の返事をしたのだ。
彼女の性格上、納得しなければOKしない筈だから。
案の定、ミンミの話は『微妙な内容』である。
表情も真剣だ。
「ルウ様は数多の人外を従えている。出自は様々だが……今は全てルウ様の同志だ。お前達も今迄いろいろあっただろうが、改めて相手自身を見て欲しい」
「分かりました!」
「…………分かりました」
今のミンミの、話の内容は理解出来る……
ルウの屋敷には……様々な者が居る。
ウッラ達ダンピールの他には妖精達だ。
今は……皆、家族同様である。
彼等、彼女はまだ良い。
だが悪魔だけは……敵。
そんな認識がテオドラにはある。
しかし……
ルウの従士には実際、多くの悪魔が居る。
更にアスモデウスという悪魔は……姉からは『微妙な関係』だとも聞いた。
悪魔など、姉が命を助けて貰ったとしても……駄目だ。
何とかして、姉の目を覚まさせたい。
そしてテオドラ自身は、悪魔など絶対に受け入れたくないと思う……
でも仕方がない……
ルウと共に生きて行くなら、気持ちを曲げて了解するしかない。
ウッラとテオドラの返事を聞いたミンミは一転、また優しく笑う。
「ようし、私の話は終わりだ。もう仮登録証は出来上がっただろうから、そろそろギルドを出て金糸雀へ行けば良い」
「金糸雀! りょ、了解です!」
「分かりました」
あの美味しい焼き菓子にありつける!
思わず喜び、噛んだ物言いをしたウッラの傍らで……
テオドラは、固い表情で俯いていたのであった。
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☆『隠れ勇者と押しかけエルフ』
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深き深き地下世界で……
怖ろしい悪魔王により、父と一族全員を殺されたダークエルフの姫エリン。
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※本日2月19日朝、更新予定です。




