表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
985/1391

第985話 「テオドラの復活⑩」

愛読者の皆様!

『魔法女子学園の助っ人教師』最新刊第3巻が発売中です。

ぜひお手に取って頂ければと思います。

幸せ笑顔のジョゼフィーヌとオレリーの表紙が目印です。

※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。


何卒宜しくお願い致します。

 とんとんとん!


 原因不明の気温低下が、通常に戻りつつあった時。

 応接室の扉が、リズミカルにノックされた。


「…………」


 だが、テオドラはすぐ返事が出来ない。

 代わりにというか、元気よく返事をしたのは、ウッラである。


「はいっ!」


「良いか? 入るぞ、ふたりとも」


 応接室の扉が「さっ」と開く。

 廊下から室内へ、颯爽さっそうと入って来たのは……

 深い菫色すみれいろの瞳、輝き揺れる長い金髪、独特の整った顔立ちにやや尖った耳……典型的なアールヴの美しい女性であった。

 女性は、ルウの妻のひとりミンミである。


 ふたりを見るミンミは慈愛に満ちた、優しそうな笑顔を浮かべている。


「ウッラ、良い返事だ」


「ミンミ様! ありがとうございますっ!」


 ミンミに褒められ、ウッラは嬉しそうだ。

 どうやら美貌のギルドマスターへ、憧れの気持ちを抱いているらしい。


 ミンミはウッラを褒めると、テオドラに視線を移す。


「ふむ、彼女がテオドラか。ウッラと同じく双子の姉妹だと聞いていたが……成る程、姉のソフィアにそっくりだ」


「…………」


「テオドラ、私はミンミだ、宜しくな」


「…………」


 相変わらず、「だんまり」のテオドラ。

 ウッラは、たまらず注意する。


「こら! テオドラ、挨拶しないか」


 しかしミンミは笑顔のまま、手を横に振った。


「ああ、良いさ、無理もない」


「…………」


「テオドラを見ると、私がイエーラを出て、人間の街へ来たばかりの時を思い出す……ルウ様がずっと好きで好きで会いたくて追いかけて来た……だが初めて来た人間の街は右も左も分からなかった」


 ミンミがルウを追っかけて?

 何となく……覚えているような、いないような……

 ……やはり、その記憶も曖昧であった。

 考え込んだ上で、テオドラはやっと言葉が出る。


「え? ミンミ……様がルウ様を?」


「ああ、そうさ。ルウ様はアールヴの長ソウェルになるべき方だった。なのに、辞退して旅立たれてしまったのだ」


「…………」


「私は暫し経ってからイエーラを出て、後を追った。てっきりルウ様は冒険者になると思っていたからな。迷わずバートランドへ直行したから行き違いになってしまったよ」


「そう……だったのですか」


 ミンミは一途にルウを思い、国を飛び出した。

 しかし、すぐ会う事は出来なかった。


 テオドラが気付くと、ミンミは遠い目をしている。

 ぽつりと呟く。


「……だが、逆に良かった」


「え? 逆に良かったって? 何故?」


 テオドラが聞くと、ミンミは堰を切ったように話し出す。


「うん! 急がば回れというのは本当だ。今となっては、ルウ様にすぐ会えなくて良かったと思っている。人間の街でもまれた結果、故国に居たままでは絶対に出来ない体験をした。実力を付け、こうして名誉ある地位も得た。そして無事に巡り合い、あの方に釣り合える妻にもなれた」


「…………」

「…………」


 いつになく、口数が多いミンミ。

 やはりルウの事となると、たくさん喋りたいらしい。

 ウッラとテオドラは聞き役に徹しざるをえない。


 黙ったふたりに構わず、ミンミの口調は熱を帯びる一方だ。


「ギルドマスターという職務から、官舎暮らしが多いのが残念だ。屋敷に居る他の妻同様、私だって毎晩、ルウ様と一緒に風呂に入りたい。たっぷり可愛がっても頂きたいっ!」


「…………」

「…………」


「一日ずっと一緒に、ルウ様と居るわけではない……だが、今の私の生活は充実一途だ。うん、本当に幸せだ」


「…………」

「…………」


 ミンミはここまで話すと、ハッとした。

 自分が一方的に喋ってしまった事に気付いたらしい。

 照れて、少し苦笑している。


「ふむ、済まぬ。つい惚気のろけてしまった……すぐ本題へ入ろう。テオドラ、お前にはこのギルドの仮登録証を発行する」


「ギルドの? 仮登録証ですか?」


「ああ、ルウ様の命令だ。後日、ウッラと共にランク認定試験を受けて貰う」


「え?」


 ウッラが「了解している」というように、頷いている。

 どうやら事情が分かっているようだ。

 しかしテオドラはきょとんとしている。

 実感が湧かない……


「私が……冒険者?」


「うむ、ルウ様に聞いたが……お前は、素晴らしい力を持っているそうじゃないか」


「…………」


 嬉しい!

 ルウが認めてくれた。

 自分の力を……

 だが……付き従う従士ではなく……冒険者になれって……


「その力を、ぜひギルドの為に活かせとの仰せだ」


「…………」


 テオドラは……また無言になってしまった。

 ミンミは苦笑する。

 指示を受け入れたくないという、テオドラの心の内を見抜いていた。


「まあ、表向きだがな」


「え? お、表向き?」


 表向き?

 表向きって何?


 テオドラは、意味が分からない……


「冒険者になるのは表向きという事さ。所詮は手段に過ぎぬ」


「手段?」


「ああ、お前がこの国で、そしてこの王都で自由に振る舞えるようにする為だから。ギルドの登録証は身分証明書になる」


「私の身分証明書……」


「テオドラ、お前はまず、この王都に根を生やせ。その後の事はゆっくりと考えるが良い」


「ゆっくりと考える……のですか?」


「うむ、未来への選択肢は多い方が良い」


「未来への選択肢……」


「ああ、お前がどうしても、ルウ様の従士として仕えたいのなら……いろいろ方法がある。希望は、そのまま通らないかもしれないが……折り合える着地点は見いだせる筈だ」


「…………」


 漸く分かった……

 ルウは、突き放そうとしているのではない。

 テオドラに対し、多くの可能性を探れ……

 その中から、自分に合った『道』を、見極めてみろと手を差し伸べているのだ。


 テオドラが、そこまで考えた時。

 ミンミが、新たな話を切り出して来る。


「後、これは大事な事だから念を押しておく。当然ウッラにもだ」


「はいっ!」


「…………」


 ウッラはこれからする話も分かっているようである。

 だから、元気よく肯定の返事をしたのだ。

 彼女の性格上、納得しなければOKしない筈だから。


 案の定、ミンミの話は『微妙な内容』である。

 表情も真剣だ。


「ルウ様は数多の人外を従えている。出自は様々だが……今は全てルウ様の同志だ。お前達も今迄いろいろあっただろうが、改めて相手自身を見て欲しい」


「分かりました!」


「…………分かりました」


 今のミンミの、話の内容は理解出来る……

 ルウの屋敷には……様々な者が居る。

 ウッラ達ダンピールの他には妖精達だ。

 

 今は……皆、家族同様である。

 彼等、彼女はまだ良い。

 

 だが悪魔だけは……敵。

 そんな認識がテオドラにはある。

 

 しかし……

 ルウの従士には実際、多くの悪魔が居る。

 更にアスモデウスという悪魔は……姉からは『微妙な関係』だとも聞いた。

 

 悪魔など、姉が命を助けて貰ったとしても……駄目だ。

 何とかして、姉の目を覚まさせたい。

 そしてテオドラ自身は、悪魔など絶対に受け入れたくないと思う……

 

 でも仕方がない……

 ルウと共に生きて行くなら、気持ちを曲げて了解するしかない。


 ウッラとテオドラの返事を聞いたミンミは一転、また優しく笑う。


「ようし、私の話は終わりだ。もう仮登録証は出来上がっただろうから、そろそろギルドを出て金糸雀キャネーリへ行けば良い」


金糸雀キャネーリ! りょ、了解です!」

「分かりました」


 あの美味しい焼き菓子にありつける!

 思わず喜び、噛んだ物言いをしたウッラの傍らで……


 テオドラは、固い表情で俯いていたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

東導の別作品もお願い致します。


☆『隠れ勇者と押しかけエルフ』


https://ncode.syosetu.com/n2876dv/


深き深き地下世界で……

怖ろしい悪魔王により、父と一族全員を殺されたダークエルフの姫エリン。

穢されそうになったエリンを、圧倒的な力で助けたのは謎の魔法使いダンであった。

※本日2月19日朝、更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ