第958話 「小さな女傑③」
『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、いつもご愛読して頂きありがとうございます。
只今、書籍版第3巻の改稿作業中です。
発売日等、詳細が決まりましたら、随時お知らせしますので何卒宜しくお願い致します。
アニエスは、大きく深呼吸をした。
真っすぐに、背筋をピンと伸ばす。
顔をしっかりと正面から、アンドレへ向ける。
いよいよ、自分の考えを話すのだ。
はっきり言って、常識では考えられない……とんでもない内容なのである。
「お祖父様……私からの話というのはブレヴァル家の行く末の事です」
「ブレヴァル家の……行く末だと?」
「はい! そうです」
愛する孫娘から予想外の言葉を聞き、アンドレの目の色が変わる。
滅多な事では動じないアンドレにも、驚きの内容ではあった。
しかしアニエスがしっかりと居住まいを正し、そこまで言うのだ。
驚きは、すぐ深い興味へと変わった。
アンドレは頷き、笑顔で促す。
「ふむ、ならば、アニエス……話してみなさい」
「お話する前に、念の為ですが……私のような若輩者が差し出がましい口を利くのをお許し頂けますか?」
祖父をじっと見つめるアニエスの表情は、今迄に見た事がないくらい、酷く真剣であった。
こうしていちいち断るのは、「大胆な物言いも遠慮せずに話す」という宣言なのだ。
アニエスを見返す、アンドレの瞳が細くなる。
目の中に入れても痛くないくらい、可愛がっている甘えん坊の孫娘が、生まれて初めて見せる決意なのである。
「分かった! アニエス、お前がそこまで言うのは余程の事なのだろう……許す!だから話してみなさい」
「はい……では!」
祖父から発言を許可されたアニエスは、再び深呼吸をする。
大きく大きく息を吐くと、ゆっくり話し出した。
「我がブレヴァル家は……初代ローラン様から始まり、ヴァレンタイン王国と共に長い歴史を経て、現当主はお祖父様です」
「うむ、そうだな」
アニエスに言われ、アンドレは遠き時代に思いを馳せる。
ブレヴァル家の初代ローランは、古文書にも記載される強靭な神聖騎士であり、英雄バートクリード・ヴァレンタインの無二の親友でもあった。
武技、知略だけでなく、容姿にも優れ、まれにみる傑物だったと伝えられている。
ローランが打ち立てたブレヴァル家を、代々の当主が大事に引き継ぎ、王国にブレヴァル家ありと称えられている事実。
そして初代ローランに勝るとも、劣らずという評判なのが現当主のアンドレなのだ。
最早老齢といえるアンドレは、本来ならばとっくに引退していてもおかしくない。
しかしアンドレの創世神教会における運営手腕は勿論、求心力、すなわちカリスマ性から、周囲が引退を許さなかった。
更にアンドレは、普段からヴァレンタイン王家とも深く交わっていた。
一宗教者であるという立場を貫き、政治には一切口を出さないという主義のアンドレではあったが……
王リシャールや宰相フィリップなどから望まれ、あくまで私見という形で出すアドバイスは、ヴァレンタイン王国を確実に支えていたのである。
そんなアンドレを、孫娘のアニエスは常に深い尊敬の気持ちを持って見つめている。
「あくまでも私アニエス、個人としての見立てですが、初代ローラン様は別格として……お祖父様は歴代の当主の中でも傑出した方だと思います」
アンドレが傑出した当主……
確かにアンドレには、その自負がある。
だが自慢になるので、敢えて他人へ言う事ではない。
「…………」
返事をしないアンドレの気持ちを察して、アニエスは話を続ける。
「現在の、ブレヴァル家の素晴らしい繁栄がそれを物語っています。しかし残念ながら次の代のお父様、そしてそのまた次のお姉様の代になれば我が家の勢いは落日となるでしょう」
「むう……」
アンドレは、思わず唸った。
落日となる……すなわちブレヴァル家は、代替わりすれば没落すると指摘している。
今のアニエスの厳しい言葉は父マティアスに対する軽視、そして能力も足りないと言い切ったに等しい。
可愛がられている祖父にさえ、話すのも覚悟が必要な内容だ。
しかしアニエスは、けして臆してなどいない。
引き続き、話を続けて行く。
「ブレヴァル家が確実に衰える……私にはそのような悲劇を黙って見過ごすなど出来ません」
実の父親が跡を継ぐ事を、悲劇とまで言い切るアニエスの言葉……
アニエスが話を始める前に念を押したのは、このような歯に衣着せぬ発言の為であった。
孫娘の真意を理解し、アンドレは頷く。
「ふむ……成る程。お前が最初に差し出がましい口などと、わざわざ断ったのはそういう事なのだな?」
「はい! お祖父様が引退され、お父様が跡を継ぐのは、そう遠くない未来ですから」
「ほう! 何故そう思う?」
「はい! お祖父様は枢機卿の任を退かれたら、神学の研究者となり、自説の追及に残りの生涯を奉げる……ええ、なるべく早くそうしたいとお考えになっていらっしゃる。普段のご様子を見ていると、そのように思えて仕方がありませんわ」
「ははははは! 見抜かれていたか、確かにその通りだ」
大声で笑い飛ばしながら、アンドレはアニエスの能力に舌を巻く。
誰もが死ぬまで、アンドレはブレヴァル家当主を務めると信じ込んでいるからだ。
だが、確かにアニエスの言う通り……
早く引退して、好きな学問に没頭したいという気持ちは年々強くなっている。
人生も、そろそろ終盤に差し掛かって来たアンドレにとっては……
生きているうちに、しっかり学べるうちに、少しでも求める『真理』へと近付きたいという、純粋且つひたむきな思いからであったのだ。
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※本日12月8日朝更新予定です。




