第784話 「フランソワーズ・グリモール」
「はい! アデライド理事長の指名を受けましたのでロドニアの魔法学校創設に関して報告致します。質問は後ほど受け付けますのでまずはご説明させて頂きます」
起立したルウは、そう言うと教師全員を見渡した。
彼の呼びかけに対して教師達から特に異論や意見は無さそうだ。
ルウは了解したというように、軽く頷いて話を続ける。
「私は先月ロドニア王国へ赴き、ボリス・アレフィエフ国王陛下、宰相バルタザール・フェレ公爵、そして騎士団長グレーブ・ガイダル公爵にお会いし、ロドニアにおける魔法学校の件を申し入れ、契約書にて了解を取って参りました」
おおおっ!
いきなり結論から話すルウに詳しい事情を知らなかった教師たちは驚いた。
「ロドニアの魔法学校は今から2年後の開校を目指します」
ルウはコホンと咳払いをして話を続けた。
「まず必要な資金ですがロドニアとヴァレンタインで折半となります。また建設用地の提供と物品の取引はロドニアの御用達商人ザハール・ヴァロフ氏に依頼済みです。ヴァロフ氏からヴァレンタイン王国の商会や商人へいずれ取引依頼が来る事でしょう」
話の内容が具体的になって来たが、教師達の関心ははっきりしている。
いずれ出て来る話に備えて皆、ルウを食い入るように見詰めていた。
「学校の運営自体はまずヴァレンタインから派遣した人間が行います。学校運営のノウハウはヴァレンタインが持っていますから。そして当然ですが、ロドニアで現地雇用した人間もスタッフに加えます」
ロドニアの魔法学校の運営をまずはヴァレンタイン王国の人間中心で行う。
魔法教育に関してロドニア王国には全く実績がない。
ロドニア王国単独ならともかく、両国共同で行うならヴァレンタイン主導は当然であろう。
教師達の数人は納得したように頷いていた。
「教科書や教材はヴァレンタイン王国で使用している物と基本同じ物を使います。具体的に言えば、ヴァレンタイン魔法女子学園と同様にします。ちなみにヴァレンタイン王国は男女別の学校ですが、こちらロドニアの学校は共学とします」
男女共学の学校……
教師達は少し驚いた。
今、勤務している女子生徒だけの職場とはがらりと雰囲気が変わる事が想像出来るからである。
男女を分けて躾も学ばせているヴァレンタイン王国の伝統的な魔法学校に比べて、自由闊達な雰囲気が出るのを、ルウは狙ったのだ。
「教材だけではなく、運営も施設もほぼこの魔法女子学園と同じで行きます。この魔法学校が開校すれば、ロドニア中の魔法使い志望の人間が集まって来る筈です。とりあえず決定したのはそこまでです」
ルウはそこまで言うと再び教師達を見渡した。
状況を理解した教師達であったがまだまだ不満顔をしている。
肝心の人材募集に関してルウが殆ど触れなかったからだ。
しかしルウが冒頭に伝えた質問は出て来なかった。
そこでルウが教師達へフォローを行う。
「申し訳ありませんが、この魔法学校創立の意義、そして本当の意味があります。大事な事です。加えて赴任する方の資格や詳しい給与条件などの待遇も理事長にお問合せ下さい。俺から言えるのはこのロドニア魔法学校創設は国策だという事だけです」
新たなる土地で自分の可能性を試す……
やりがいのある仕事であろう。
待遇もそれに見合うものとなりそうだ。
教師達の中で、今期で退職するベルナール・ビュランを始めとして数人の者が真剣な表情でルウを見詰めていた。
報告及び説明が終わったルウは、もう1度教師達へ礼をして話を終えたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
本日の職員会議は終了した。
会議が終わった教師達は緊張から解放され、職員室で寛いだ。
先程の報告の前にルウがロドニアに赴いた事は教師達へは事前に報されており、合わせてフランとリーリャが妻になった事も伝えられたのである。
ちなみにクラン星の仲間であるカサンドラとルネのボワデフル姉妹はジゼル達も妻である事を知っているが、当然口外などしない。
口が軽いカサンドラであったが、ルウとフランから念押しされていたのと自ら魔法に掛かる事を申し出た。
自分の口の軽さを何とか矯正したいという気持ちの現れであった。
そしてアドリーヌ・コレットもフランとリーリャがルウの妻になった事に対しても決して臆してなどいなかった。
自分の、ルウに対する気持ちは、真摯な思いは全く変わらなかったのである。
アドリーヌはこの7月の勤務も気合を入れてこなし、自らの魔法技術も向上するように努力を続けて来た。
それもこれも夏季休暇中にアドリーヌの故郷に旅立ち、父や兄姉との険悪な関係が改善する事に力を貸すというルウの約束が支えとなってくれたからだ。
アドリーヌは自分で気付いてはいないが、この魔法女子学園に赴任した当初より、精神的には遥かに強靭となり、魔法の技術も格段に向上していたのである。
時間はもうお昼近い。
久々に再会した事もあり、教師達は親しい同士でお昼を食べようという話になっている。
明日からの夏期講習等の打合せを兼ねて、ルウと食事をしようという申し入れが殺到した。
昼食は職員も学生食堂で摂るのが通例だ。
さもなくば食堂のテイクアウトか、売店で購入して学園内の飲食が許された場所で摂るという選択肢もあった。
結局、ルウ達はルウの研究室で打合せを兼ねた食事を摂る事になった。
フラン、アドリーヌ、カサンドラ、ルネ、クロティルド、リリアーヌ、サラと計8名にもなってしまった。
一行は地下の学生食堂で各々が好みの昼食をテイクアウトで購入した後、本校舎を出る。
お茶はルウ秘蔵の特製ハーブティーが飲めると知っているので誰も購入していない。
仕事の打合せとはいえ、他に話題も出て話は弾みそうだ。
8月上旬で、季節は夏真っ盛り……
天気も快晴で照りつける日差しの中、緑鮮やかなオープンキャンパスを一行は研究棟へ向かう。
その時であった。
鮮やかな紺色のブリオーをお洒落に着こなした1人の少女が正門の方から歩いて来たのである。
たっぷりとした金髪は背中の半ばまであり、真っ直ぐでさらさらだ。
鼻筋の通った美しい顔立ちで、切れ長の碧眼。
身長は170cmを楽に超えていて、全体的にはしなやかで細身。
顔も小さくて当然ながらスタイルは抜群だ。
彼女の顔は今年教師となったルウとアドリーヌ以外は全員が知っている。
「先生方、お久し振りですね。御機嫌よう!」
「御機嫌よう、フランソワーズさん!」
「こんにちわ、グリモールさん、お元気?」
「相変わらず、綺麗ね」
「大学でもダントツのトップだそうね?」
挨拶をした少女に対して、教師達から次々と声が飛んだ。
そしてフランが改めて少女=フランソワーズ・グリモールを労る。
「ああ、ご苦労様、フランソワーズさん。暑い中ありがとう」
「いいえ、これも母校の為ですわ。私のような若輩者がお役に立てるのでしたらなんなりと!」
フランソワーズは学園の卒業生であり、OGイベントの打ち合せの為に訪れたようである。
そしてフランソワーズは彼女にとって見慣れないルウが、教師達と一緒に居る事に気付いたようだ。
「あら、こちらの方は私、初めてお会いしますわね。校長、ご紹介をお願い致します」
フランソワーズは意味ありげに悪戯っぽく笑うと、じっとルウを見詰めたのであった。
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