第783話 「久々の出勤」
8月7日朝午前6時30分……
ルウ・ブランデル邸では夏季休暇中ながらいつもの通勤、通学の朝が始まっていた。
違うのは新たな家族が増えたのは勿論、使用人のアルフレッド達に対して、てきぱきと指示を与えながら朝の出勤前の支度を仕切るのがモーラルからアリスへ変わっている事だ。
ちなみにミンミは冒険者ギルドの用意した官舎に入る義務があるので残念ながら今、ここには居ない。
屋敷内に専用の部屋だけは用意して貰ったが休暇の時以外は帰る暇もない忙しいらしかった。
閑話休題。
今日からは久々にルウとフランが魔法女子学園へ出勤する。
元々休みの予定であったフランと共に、昨日のルウはゆっくり休む……つまり完全休養日と一旦は決められていた。
しかし!
結局、ルウはまるまる1日、妻達にたっぷり付き合う事となってしまった。
まずはフランとの打ち合せが30分で終わらず、結局は2時間も掛かってしまう。
議題がロドニアの魔法学校創立や13日に予定されているオープンキャンパスの話にも及んだので無理もない。
漸くフランとの打ち合せが終わったルウを待っていたのは、気合が入りまくりのジゼルを中心にした『有志』で秘密裏に結成されたブランデル家料理研究部の『攻撃』であった。
ルウがゆっくり食事を出来るこの日を知った妻達が日頃磨いた料理の腕を昼食に炸裂させたのだ。
中でもジゼルの料理の腕の上達は目を見張るものがあった。
いつの日か、手作りの菓子をルウに食べさせたナディアへのライバル心からか、オレリーやアリスに師事するには勿論、僅かな時間を作ってはオレリーの母アネットへも教えを受けていたのである。
無論、仮想敵とされたナディアも負けてはいない。
こちらは何と『魔法使いの為の栄養料理』という変化球でジゼルに戦いを挑んだのだ。
凄い量の料理が大広間のテーブルに並べられる。
しかしルウは苦もなく全員が作った大量の料理を平らげて行く。
唖然とする妻や料理人達……
しかしジゼル達はすぐに我に返ると公正なジャッジをルウに求めたのである。
だが!
ルウはひと言しか発しなかった。
「引き分け!」
ただそれだけである。
こうして妻達の料理バトルはまた新たなステージへ進んだのである。
午後のルウもペースはまったく変わらなかった。
書斎でのんびり魔導書を読んだり、中庭でロドニアから連れて来た馬に騎乗して、散歩したり様々である。
そんなルウに、妻達も当然くっついて離れない。
こうしてルウは前日に続き、否応なしに家族サービスを行った日になったのであった。
そして今朝、
「「「「「「「「「「頂きます!」」」」」」」」」」
昨日の『イベント』に満足した妻達の食事を摂る前の声も明るい。
使用人も含めて久々に家族全員で過ごした日になったからだ。
こうなると魔法の勉強にも益々身が入る。
今日はまだ授業は始まらないが、ルウ、フランと共に早めに学園に登校して明日から始まる夏期講習の予習をしようだとか、図書館で読みたかった魔導書を探そうとかやる気も漲って来ているらしい。
やがて食事を摂り終えたルウ達は、漆黒の馬車に乗り込むと学園へ向かったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アドリーヌ先生、お早う!」
「お早うございます、ルウ先生!」
「「ルウ先生、お早う」」
「ああ、カサンドラ先生、ルネ先生お早う!」
「久々ですね、校長」
「教頭、御免なさい……色々と」
午前8時の職員室に様々な声が飛び交っている。
しかし……
「お早うございます、皆さん」
アデライドが顔を見せると職員室は少し緊張に包まれる。
職員たちには事前に今日の議題が伝えられているからだ。
ケルトゥリがアデライドへ一礼すると、早速職員会議の開始が告げられる。
「宜しいですか? 職員会議を始めます」
今日の職員会議は長丁場になりそうだ。
例年の夏季休暇中の会議であれば長くても約2時間で終わる。
しかし今年は遥かに時間が掛かるだろう。
何故ならばいつもの発生訓練、夏期講習、オープンキャンパス以外にも議題が盛りだくさんなのだ。
会議はまず粛々と進んだ。
オープンキャンパスのイベントや方向性に関しても大筋は纏まった。
ケルトゥリが説明しながらルウを鋭く睨む。
まだまだ貸しだから!
ケルトゥリが目で言いたいのはそのような意味であろう。
そして会議が始まって2時間後、いよいよ本日最大の議題に入ることとなった。
それは……いきなりアデライドが立ち上がっての説明から始まった。
「皆さん、耳に入っているかもしれませんが……2年後に隣国ロドニアに魔法学校が創立されます。隣国の事なんてと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、大きな間違いです」
アデライドの話を聞く教師陣ではロドニアへ行き話を纏めて来たルウと、フラン、ケルトゥリ以外は皆、緊張して話を聞いている。
それは当然かもしれない。
この案件は自分の人生にも関わる重大事なのだから。
「これは我がヴァレンタイン王国のロドニアへ向けての国策でもあります」
ごくり……
誰かの喉がいきなり鳴った。
「良いですか、この話にはお伝えする事が多々ありますが、皆さんの1番気にしていらっしゃる職員募集の件を最初にお話しましょう」
職員募集!
教師達の顔がやはりと言っている。
「ロドニアの魔法学校は魔法使いの教員免許を持つ人材を募集します。給与は今の3倍、そして理事長を初めとした幹部登用の道も開かれています」
「おおおっ!」
「まあ!」
「凄い!」
アデライドの説明に思わず声が出る教師陣。
この話は人生の転機とも言える話であろう。
ぱんぱんぱん!
「ご静粛に! 理事長のお話はまだ続いています」
ケルトゥリの手が叩かれて、ざわめいた教師たちへ静かにするよう告げられた。
さすがに口を閉じた教師達を見回して、アデライドは話を続ける。
「まずは何故ロドニアに魔法学校なのか? これを実際に公務として現地で取り纏めていらしたルウ先生から説明して貰います、ルウ先生お願いします」
「はいっ!」
アデライドに指名されて、起立したルウはいつもの通り穏やかな表情を浮かべていたのであった。
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