第710話 「魂《こころ》からのアドバイス」
「ミンミ! 皆の魔法でお前の露払いをしてやろう! クラン全員に、オーガエンペラーの強さの目安が分かる」
ルウから、ミンミがオーガエンペラーと戦う前の援護が申し込まれる。
これもルウの深謀遠慮であろう。
ミンミは即快諾する。
「うふふ! ルウ様に露払いをさせるなど恐れ多いですが……お願いしますっ!」
「よっし! フラン、オルトロスを直ぐに下がらせるんだ! 同時に火弾の発動準備! モーラルは氷弾、カサンドラも火弾、ルネは岩弾、以上の発動準備に入れ!」
「旦那様、了解! オルトロスを下げます」
フランと、彼女の従士オルトロスは強固な魂の契約で繋がっている。
戦いの現場に踏み止まり、咆哮して敵を威嚇していたオルトロスであったが、主であるフランからの念話が送られると、素直にルウ達の居る場所へ戻ったのである。
オルトロスが撤退し、ルウ達の傍らに控えると、ミンミ以外へ魔法発動の合図が出されたのだ。
ドン! ドン! ドン! ドン!
びゅおっ! びゅおっ! びゅおっ! びゅおっ!
5人の魔法使いが様々な言霊を詠唱すると、大量の火弾と氷柱槍、そして岩弾が放たれた。
ぎくしゃくした不死者特有の動きで、ルウ達へじわりじわりと迫っていた骸骨剣士の残りは燃やされたり、なぎ倒されてあっという間に全滅してしまう。
そして!
わざと流れ弾にした火弾、氷柱槍、そして岩弾がオーガエンペラー達にも着弾する。
凄まじい音を立てた攻撃魔法の威力は計り知れず、オーガ達は風前の灯の筈であった。
「おしっ! 私の火弾がドカンと命中したぞ!」
「姉さん! 私の岩弾もバッチリ当たったわ! うふふっ! さっきのお返しよ!」
その様子を見て確かに手応えがあったと、ボワデフル姉妹も胸を張る。
カサンドラは先程得た戦いの高揚をもっと味わいたかったし、ルネは敵の魔法障壁で岩弾があっさりと破壊されたので、何とか一矢報いたかったのだ。
しかし姉妹の喜びもほんの一瞬であった。
「えええっ!? な、何!?」
「そ、そんなっ!?」
5人の魔法使いが放った攻撃魔法が、オーガエンペラーに対して殆どダメージを与えていないのだ。
ロドニア王国選抜の魔法使いが戦った時と同様、例によってオーガエンペラー達は眠そうに欠伸をしたり、力瘤を見せてこちらへ己の強さを誇示していたのである。
間違いなく自分達の能力に絶対的な自信を持っている証であった。
「くくく、悔しい! 私の火弾が効いていないっ!」
「あれ! こっちに向かって舌を出しているわっ! 何、あの態度! 人を馬鹿にしてぇ!」
オーガエンペラーの余裕綽々な態度を見て悔しがるボワデフル姉妹。
激高する彼女達の傍らで冷静なのが、フランとモーラルだ。
こちらはオーガエンペラーの能力をある程度予測していたようである。
「モーラルちゃん、やはり悪魔の紋章の力は凄いわ」
「フラン姉、確かにそうですね!」
魔法の発動が終了したのを見て、頃合だと判断したらしいミンミが全員へ声を掛けた。
「これから私が奴等を倒します! ルウ様、クランの皆、見ていて下さい」
魔法で強化されたオーガエンペラー達を倒すと言い切ったミンミ。
ボワデフル姉妹が心配そうに見詰めているが、ルウとフラン、モーラルは微笑んでいる。
やがてルウが手招きしてミンミを呼ぶ。
「分かった、ミンミ! こっちにおいで!」
「はいっ!」
すかさず駆け寄って飛び込んで来たミンミを、ルウは確りと抱き締める。
自然とミンミの華奢な身体がルウとぴったりと密着した。
ルウは念の為に自分が戦った時の記憶を、再び魔力波を使ってミンミへ伝えて行く。
「ミンミ、お前が奴等と戦うのは今回が初めてだ! 決して油断せずに慎重に戦うんだぞ! 厳しかったら無理をせずに俺やクランの皆を頼れ、良いな?」
大事にされている!
自分は愛されている!
ルウの言葉と共に、魂から送られる魔力波には彼の優しい思いが篭もっていた。
ミンミは涙が出るほど、嬉しくて堪らない。
「ああ、ルウ様! ミンミは! ミンミは! その優しいお言葉だけで千倍、いや万倍も頑張れます!」
愛する夫に抱かれたミンミは蕩けるような表情である。
それから約1分……
ミンミは目を閉じ、ルウに確りと抱かれていた。
やがてミンミは目を開けるとにっこりと笑い、ルウからそっと離れた。
どうやらルウから戦う際のアドバイスも授かったらしい。
ミンミは自信に満ち溢れた表情でオーガエンペラーの方へ振り返ると、高らかに宣言したのだ。
「いざ、参る! 我が名はミンミ・アウティオ! いやミンミ・ブランデルだ! 偉大なる魔法使いルウ・ブランデルの妻也!」
ミンミの名乗りを聞いた魔法武官シモン・ゾンダーハは一瞬吃驚したようであった。
しかし黒雲から発せられる禍々しい瘴気が大きなあざ笑いを運んで来る。
「ははははは! 馬鹿めぇ! 私が一目置いた黒髪の魔法使いならともかく、相手がよりによって、お前のような非力なアールヴの女剣士たった1人とは、な! 我が精鋭達を舐めているとしか、思えん!」
シモンの笑い声を聞いたミンミは、何故か怒りもせず含み笑いをした。
「うふふ、舐めているのは果たしてどちらなのか……直ぐ分かるわ」
「な、何!?」
格下と見た相手の強気な言葉に思わずシモンは動揺する。
一方、ミンミは敵へ鋭い視線を向け、気合を入れた。
悪魔の紋章の力で護られた、怖ろしいオーガの上位種オーガエンペラー……
しかし今の私なら――そんな奴等は敵ではない!
ミンミはルウから手解きを受けた後、更に独自で鍛錬した呼吸法であっと言う間に魔力を上げて行く。
「ふぅ~」
ミンミはかつてルウが戦ったオーガエンペラーとの戦いの経験を活かす事に決めている。
ルウはオーガエンペラーの力の源である、悪魔の紋章の力を無効化してから戦ったのだ。
彼女の目的は直ぐ達成する事が出来た。
魔力波読みの達人であるミンミはルウ同様、肉眼では見る事の出来ない悪魔バエルの紋章を直ぐに捉える事に成功したのだ。
ミンミの魂の眼である心眼には、オーガエンペラー3体共、額の中心に不気味に輝く悪魔の紋章がはっきりと見えていたのである。
ミンミは再び大声を張り上げた。
「覚えておいて! 私の飛燕の2つ名はあの炎の技だけではないのよ!」
ミンミの大声を挑発と見たのか、オーガエンペラーが咆哮する。
があああああああっ!
「たああああっ!」
オーガキングの咆哮に合わせるかの如く、ミンミも敵を見据えて裂帛の気合を発したのであった。
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