第704話 「エールと羨望」
―――約10分後
ルウ達は砦から約500mの位置に居た。
いきなり乗り込むのではなく、攻め方の確認と敵への警戒をしながら徐々に接近する為である。
召喚したケルピーは既に異界へ帰還させていた。
ルウは穏やかな表情を浮かべ、腕組みをして前方を見詰めている。
索敵能力に関していえば、フランとモーラルは約500m、ミンミは約300mの範囲内での魔法発動が可能である。
ちなみにルウは、フランが認識しているだけでも楽に1km以内の敵の捕捉が可能だ。
よって現在、この距離で目標である砦の状況を完全に把握出来るのはルウだけであった。
ルウは珍しく口笛を吹く。
「ほう、意外だな……結構な腕の魔法使いが居る」
「え!? 旦那様」
フランが驚いて、ルウを見詰めた。
ミンミもルウの言葉を聞いて、より気合が入ったらしい。
「ルウ様! と、なると!」
「探索する砦が単なるオークの巣窟というわけではなさそうだ」
ルウの言葉を聞いたモーラルが感嘆する。
「旦那様! さすがです! 私が昨日見届けた折にはそのような首魁の気配など皆無でした」
「加えて結構な数の不死者の気配がするな。多分砦の元兵士達の遺骸を使ったものだろう……う~ん、こちらは数百ってとこかな?」
ルウの言葉を聞いたボワデフル姉妹は吃驚して顔を見合わせた。
「不死者!? で、では! 相手は死霊術師か!? むうう不埒な!」
「うわぁ! 何か気持ち悪いし、怖そうです!」
カサンドラが気合を入れて拳を握り締めれば、ルネは生理的に苦手らしくとても嫌そうな顔をする。
しかしルウの話はまだ終わらなかった。
「おおっ、どうやら相手は俺達の存在に気がついたようだ。……ほう、まもなく『挨拶』が来るぞ」
ルウはそう言うと不敵な笑みを浮かべる。
「ええっ!? 『挨拶』って、もしかして私達へ遠距離攻撃魔法を!?」
フランが思わず呟く。
すると砦のある方角から、数十発とも思われる大量の火球が飛来するのが見えたのである。
「あああっ、旦那様!? あれは火弾! それもあんなにっ!」
「ルウ様! 早く対火属性の魔法障壁を!」
フランが叫び、ミンミが鋭い声を発する。
「ははっ、あれくらいの火弾なら――大丈夫さ。皆、俺の傍から離れるなよ」
ルウはそう言うと軽く息を吸い込んだ。
そして!
「はあああっ!」
ルウは裂帛の気合を発する。
魔力波が大量に放出され、大気がびりびりと震える。
クラン星の間近に迫った火球が歪んだように見えた瞬間であった。
ぱああんん!
大音響を発した火球は全て破裂し、跡形も無く消失してしまったのである。
「え!?」
「何!?」
「気合!?」
「す、凄いっ!」
モーラルは当然のように微笑むが、彼女以外のクランメンバーは唖然としてしまう。
「ああ、魔力波を直接攻撃可能な魔闘気に変換してぶつけたのさ……そこそこ魔力を使うのはネックだけど、な」
あ、あれって!?
フランは思い出していた。
以前、ルウが木霊のエレナを助けようとして、青銅の巨人と正対し時の事である。
青銅の巨人が投じた巨大な岩をルウは指をさしただけで破砕したのだ。
※第582話参照
「魔法障壁を発動させても良いけど……ああ、また来たか」
ルウは新たに迫る火球に向って軽く指を振る。
すると!
大量の火球は同じ様に全て破砕されたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――更に10分後
ルウ達の目前には砦がそびえている。
渡された資料によるとヴァレンタイン王国建国より以前の建造物らしい。
朝陽に照らされた石造りの建物は所々、崩れ落ちていた。
完全に廃墟となったその姿は、遥か昔に打ち捨てられずっと放置された物悲しさを感じさせる。
ここには現在、邪悪な意思を持つ何者かが巣食っているのだ。
あれから2回……クランに対して火球による攻撃があった。
しかし、やはりというかルウが全てを破壊してしまった。
攻撃して来た魔法使いもさすがに学習したらしく、それ以上の攻撃は来なかったのだ。
その代わり、ルウ達を待ち受けていたのはオークの残党約100体と、その倍は居ると思われる骸骨剣士である。
「くうう!」
「凄い数!」
大群を見て、怯むボワデフル姉妹であったが、ルウが檄を飛ばす。
「ははっ、魔力波で識別した所、目の前の相手は単に物理攻撃だけの敵だ。それに敵の魔法対策も考えてある。お前達は俺が確りと守ってやるさ……大丈夫! 安全第一で戦うぞ!」
「ルウ様!」「ルウ様!」
ボワデフル姉妹は嬉しそうにルウの名を呼ぶ。
さすがに双子、タイミングが全く同じであった。
「よっし! 俺とルネは攻撃魔法で先制! モーラルは氷柱で魔法対策の防壁を! フランは俺とルネの攻撃魔法発動後、直ぐに従士を召喚して敵中へ放て! そこから俺とミンミ、カサンドラが同じく敵中へ打って出る」
2回目の戦闘なので初陣ほどの緊張感はないが、敵に不死者の剣士が居るのでルウが注意を促す。
「ミンミ、カサンドラ! オークは勿論だが、骸骨剣士の剣技には特に気をつけろ。腕で敵わないと思ったら思い切って退くんだ。ちなみに戦闘開始後はクラン間の指示等の会話を全て念話で行う、以上良いか?」
「「「「了解!」」」」
「りょ、了解……」
ワンテンポずれて返事をしたのはまたもやカサンドラだ。
自分が敵中へ斬り込むという、ルウの作戦を聞いて緊張しているようである。
顔が強張るカサンドラへルウが声を掛けた。
「ははっ、カサンドラ、大丈夫だ。俺がお前を援護する」
「へ!?」
驚くカサンドラをミンミが励ます。
「頑張れよ、カサンドラ!」
「あ、ああっ! せ、先輩! ミンミ先輩!」
声を掛けたミンミが、じっとカサンドラを見詰めている。
それは、大丈夫、頑張れ!という、ミンミの熱いエールと彼女の羨望が混在した眼差しであったのだ。
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