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第532話 「楓村自警団」

 それから馬車は200m程走った。

 バルバトスとアモンもケルピーに跨って併走する。

 既に索敵で5名の男達が楓村へ進んでいるのを察知しているので馬車の中の妻達はいつでも戦えるようにスタンバイしていた。

 ちなみに妻達の服装は全員が革鎧姿であり、装備した武器はショートソードを携えた魔法剣士のジゼル以外は魔法杖である。

 先程のジゼルの厳しいひと言により妻達は自らも戦うという事で意見が一致したのだ。

 その為、フラン以下彼女達の表情は緊張感に満ち溢れている。

 もしかしたら生まれて初めて人間と殺し合いをする可能性もあるからだ。


 だが御者席のルウとモーラルは余裕の表情だ。

 馬車が楓村の手前に転移した瞬間からルウとモーラル、そして悪魔達は5名の存在を捕捉しており、その正体もほぼ特定しているからである。


「5名のうち、4名は魔力波オーラに見覚えがあるぞ……以前一緒に戦った楓村の村民だ。風の精霊シルフもそう告げている」


「はい! 残りの1人も戦士という雰囲気の魔力波を放っていますが、邪悪な意思は全く感じられません」


「その1人も大体分った。俺達は近しい魔力波を知っているからな」


 ルウの言う近しい魔力波とは?

 モーラルも当然それが誰なのか知っているようだが、それよりルウの深謀遠慮が気になるようだ。


「はい、私も分ります! ところで旦那様、敢えてフラン姉達へ事実を伝えないのは彼女達の自立を促す為でしょう?」


「そうだ。いつまでも俺やお前に頼りっきりではいけない。自分で学び、考え、そして実力を身に付けた上で経験を積めば、いざというときの実戦にも強くなる」


 ルウは妻達の成長に期待しているようである。


「俺だけではなくモーラルも今迄魔法や魔導拳をしっかりと教えて来たからな。いわばお前も俺と同じ教師なのさ」


 俺と同じ教師……

 ルウに色々な意味で惚れ込んでいるモーラルにとっては最高の褒め言葉である。


「そんな! 私が旦那様や皆のお役に立つのであればそれで充分です」


 謙遜しながらも嬉しそうなモーラル。

 ルウとモーラルはフラン達が索敵で相手を捕捉するずっと前にそのような会話をしていたのだ。


 ――数分後、一行は例の5人を目視出来る位置に至った。


 ルウが馬車を停めると、中に居たフラン達もすかさず戦闘態勢に入る。

 相手もルウ達に気付いたようだ。

 ルウとモーラルが先に話していた通り、4名は普通の農夫と言った雰囲気である。

 しかし全員が革鎧を纏っており、手には様々な武器を携えていた。


 5名の先頭に居る男だけがプロの戦士のようだ。

 身長はルウとほぼ同じで約180cm、横幅はルウよりもがっちりしており、遥かに逞しい。

 だが、ルウ達を見ても背中の大剣を抜く気配はない。


 ルウ達が馬車を停めたまま動かないでいると、リーダーらしい戦士は4名を従えて、こちらに近付いて来る。

 やがて戦士と村民達は馬車から10mくらいまで近付いた。

 戦士の体躯は逞しく歴戦の勇者といった面構えであり、彼は野太い声を響かせた。


「おう! あんたらは旅の貴族といった感じだが何者だ?……俺はランディ・バッカス。村長の息子で楓村自警団の隊長だ」


「ははっ、俺はルウ・ブランデルだ。アンセルム村長の息子さんといえば、エミリーの父親だな」


「何だ!? 親父や娘を知っているのか? あんたは一体?」


 それまでランディの背後で恐る恐るルウを見ていた村民の1人が「あっ」という表情をして指をさす。


「あ、あの黒髪の人は! それにシルバープラチナの娘さんも村を助けた恩人だよ!」


 その村人はルウとモーラルを髪色で覚えていたようだ。


「本当か?」


「ああ、エミリーちゃんの彼氏と一緒に怖ろしいゴブリンの群れと戦ってくれた魔法使いだよ、間違い無い!」


 ランディはルウとモーラルを見た上で、背後に居る妻達を見た。

 危険な相手ではないと確信したらしい。


「じゃあ、歓迎の為に村へ案内しよう、と言いたい所だが生憎あいにく、警備中でな。あんたらが倒してくれたゴブリンだが、また異常発生しているんだ。毎日群れを見かけるもので、こうやって見回っているのさ」


「成る程……じゃあ僅かな時間だが協力しよう」


 ルウはそう言い放つとすかさず馬車の中の妻達へ念話を送る。

 危険がないと言う事と楓村の『自警団』に協力するというものだ。


 ひらりと、ルウが御者台から飛び降りると同時に馬車の扉が開き、フラン以下妻達も続々と馬車から降り立った。

 革鎧姿の凛々しく美しい女達がその場の空気を一気に変える。


「これは可愛いお嬢さんたちだ。ルウって言ったな、あんたの身内かい?」


 ランディがほうと溜息を吐いた。


「ああ、御者台のモーラルを含めて全員俺の嫁だ。更にいえば皆が強力な魔法使いでもある」


「ふうむ……俺は冒険者で盾役タンクの戦士だ。だから魔法使いの効用は分り過ぎるくらい分っている。そんな訳で遠慮なく協力を受けさせて貰う」


「契約成立だな。バルバ、アーモンは馬を常足なみあしにして先頭に立ってくれ。フラン達は俺と一緒に暫く徒歩だ。モーラル、馬車を最後方から微速前進だ。


 ルウはてきぱきと指示をすると、皆も大きな声で答える。


「は、かしこまりました。バルバとアーモン、先頭に立ちます、ルウ様!」


「はい! 旦那様、一緒に行軍ですね」


「モーラル心得ました!」


 その様子をランディ達、楓村の村民は吃驚したように見守っていた。


 ――10分後


 街道から楓村へ向う横道の入り口に魔物の群れが居る事をルウが捕捉した。

 距離は未だ1kmほどある。

 ちなみに今回もルウとモーラルはもっと以前から群れの存在を察知していた。

 ただ余りにも離れた所から敵の存在を指摘すると、桁外れの索敵能力を宣伝するようなものである。


 敵ではない相手だが、必要以上にルウの力を知らしめる事も無い。

 ルウはそう考えていたのである。

 しかしこの索敵でもランディ以下の驚きは大きかった。


「成る程! さすがに一流の魔法使いだ。冒険者のランカーで言えばトップクラスだろうよ」


「そいつはどうも! 数は約50匹。やはり魔力波オーラからするとゴブリンのようだが……通常のゴブリンより遥かに強いようだ」


 ルウの報告を厳しい表情で聞くランディだが、他の4人には怖れの色が浮かんでいる。


「ご、50!? ランディ、やばいぜ。に、逃げよう!」


「今迄は5匹程度の小さな群れだったから、ランディが中心になって俺達農夫でも倒せたが、今度はその10倍も居やがる。オラスの言う通りに引いた方が良いのでは?」


 腕組みをしたランディがルウに問う。


「ふむ、どうする? 確かに50匹は半端じゃない。俺はあんた達の戦いは見ていないし、この小人数だ。迂回すれば接触は避けられるが……」


 ランディの問いにルウはゆっくりと首を横に振った。


「この子達は初陣ういじんだが、相手にとって不足はないだろう。心配なら俺達が前面に立つからあんた達は離れた安全な位置で見ていてくれ」


 不敵に笑うルウ。

 ランディは背筋にぞくりと戦慄が走ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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