↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
533/1391

第533話 「フランの決意」

 ルウ達は街道から楓村へ入る横道に急いでいる。

 ゴブリンの群れが楓村へ進んでおり、一刻の猶予もならない状況だ。


「村の入り口に居るって事は奴等、また村を襲おうって魂胆か?」


「ち、畜生!」


 村長のアンセルムの息子であるランディ・バッカスに率いられた楓村自警団の農夫達は歯噛みをする。

 楓村がゴブリンの大軍に囲まれたあの日の事は未だ記憶に新しい。

 村民全員が協力して死ぬ思いで撃退したのだ。


「急ぐぞ……」


 リーダー役のランディがぽつりと呟くと村民達は頷き合い、足を速める。


 ――5分後


「奴等が居る」


 ルウが片手を挙げると全員が前方に注目した。


 索敵の魔法によりルウが捕捉したゴブリンの個体数は約50匹。

 実際、それに近い数の大きな群れが村の方へ移動して行く。

 1匹当たりではそう強くないゴブリンだが、数を頼んでまた村を襲おうとしているのは間違いが無かった。


 ここで、妻達の輪の中から、ずいっと前に出たのはフランである。

 いつもはにこやかな彼女の表情は珍しく厳しかった。


「旦那様とモーラルちゃんが守った楓村を襲わせるなど絶対にさせません。あんな奴等は私1人で充分です」


「良し! 良く言ったぞ、フラン」


 ルウとフランの会話を聞いたランディは仰天する。

 目の前のフランはまさに深窓の貴族令嬢だ。

 一応革鎧を纏ってはいるが、逞しいと言うより華奢である。

 獰猛なゴブリンを、それも1人で倒すなどランディ達には到底想像出来なかったのだ。


「お、おい! こんなお嬢様をたった1人で戦わせる気か? 死にに行かせる様なものだ!お前、気は確かか?」


 ランディの必死な制止も聞えない様にルウとフランは平然と会話を続けていた。


「自分の力を試してみろ。お前は俺と出会った頃のフランシスカ・ドゥメールではない筈だ」


「はいっ!」


 ランディはルウどころか、他の妻達も止めようとしないのを見て更に驚く。

 埒が明かないと見たランディは同行している楓村の村民達に声を掛けたのだ。


「お前達、何をしている? この娘を止めるんだ!」


 ランディを含めた村民達がフランを止めようとして前に出た時にルウの手がさっと前を塞いだのだ。


「ランディさん、俺が大丈夫と言ったら大丈夫だ。万が一の時は俺が助ける」


「この小僧!」


 掴みかかろうとしたランディはルウを見た途端に身体が硬直する。

 ルウの底知れぬ瞳の輝きが彼の身体を麻痺させたのだ。

 動けなくなったリーダーを見た村民達が思わず後退りする。


 彼等を見たルウは済まなそうな表情になった。


「大丈夫、俺を信じてくれ。俺はフランを信じているし、彼女の実力なら全然大丈夫だ」


「楓村の皆さん、私は大丈夫。見ていて下さい」


 フランはそう宣言した後、言霊の詠唱を開始する。


現世うつしよ常世とこよを繋ぐ異界の門よ、我の願いにてその鍵を開錠し、見栄え良く堂々と開き給え! 我が呼ぶ者が冥界の途を通り、我が下へ馳せ参じられるように! さあ開け、異界への門よ!」 


 以前のフランより格段に速くなった詠唱と共に召喚に必要な魔力量が溜まり、魔力波に転換されて行く。


召喚サモン!」


 一瞬の溜めの後に決めの言霊がフランから言い放たれた。

 大量の魔力波が放出され、同時に大気が打ち震える。


 ぴいいいいいん!


 何が起こるのか、と楓村の村民達は身を竦めた。


 フランが立つ少し前の地面が眩く輝いている。


「お、おいっ! こ、これは……ま、まさか? 召喚魔法か!?」


 びしっ! びしびしっ!


 季節は夏だというのに、大気が凍るように激しく鳴っている。


「ご、があああっ!」


 地から立ち昇る眩い光の中から現れたのは巨大な双頭の怪物だ。

 耳まで裂けるといった形容がぴったりの口から怖ろしい咆哮が鳴り響く。

 それを巨大な犬と形容するには余りにも怖ろしい容貌であった。


「ひゃあっ!」「ひ、ひいいい……」


「ううう、わ! こ、これは一体!?」


 恐れおののく楓村の村民達を見ながら、ランディも驚きと恐怖の余り、大きく目を見開いた。

 彼は元々冒険者であり、今迄様々な魔物と対峙して来たが、桁違いの迫力でありモノが違っている。

 

 怪物を召喚したフランは振り返り、背後に居るルウ達を見渡すとにっこりと笑う。

 その表情は自信に満ち溢れていた。


「大丈夫、彼は私の忠実な従士オルトロスです」


 フランはそう言うと笑顔から一転厳しい表情になった。


「我が愛する大地をけがし、大切な同胞を喰らおうとする不逞のやからを倒すのです、オルトロス!」


 ご、がはああああああああああ!


 一方、ゴブリン達は突然現れた異形の怪物を見て混乱している。


 ご、がはああああああああああ!


 オルトロスはひと際大きく咆哮するといきなり跳躍した。


 ぎゃあああああああ!


 オルトロスに接近されてゴブリンの群れは完全にパニックに陥ってしまう。

 そこへ容赦なく双頭の首を振り、ゴブリン達を噛み、引き裂くオルトロス。

 捕食者として楓村へ押し入ろうとしていたゴブリン達は一瞬にして餌となり、立場が逆転してしまったのだ。


 かあああああああ!


 逃げまどうゴブリン達へ今度は灼熱の炎が容赦なく降り注いだ。

 血塗られた2つの口から放たれた煉獄ゲヘナの炎である。

 あっという間に炭化して崩れさるゴブリン達を蹴散らし、オルトロスは追撃した。


 同時にフランも駆け出している。

 その速度は最早常人のものではない。

 無詠唱で発動した身体強化の魔法がフランの身体を超人的な肉体に変えているのだ。

 

 50匹居たゴブリンも最早残りは10匹にまで減っている。

 フランは残りのゴブリンを逃がさぬように思い切り接近したのだ。


「オルトロス、下がって! ……爆炎エクスプロシヴフレイム!」


 オルトロスが後方に飛び退くと、すかさずフランの攻撃魔法『爆炎』が発動する。

 異界から呼び出された高熱の炎が轟音をたててゴブリンの群れの中に着弾すると勢いよく燃え盛った。

 ゴブリン達は余りの高温の炎の前に悲鳴をあげる間も無く炭化し、後には影も形も残らなかった。

 

 フランは爆炎の魔法を発動したまま姿勢のまま、ぴくりとも動かない。

 

 非情のこころを持ち、初めて戦いに望んだ彼女の口元には僅かに笑みが浮かんでいたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。