第287話 「ルウとシンディ」
魔法女子学園4階会議室、木曜日午前8時……
毎朝恒例の職員会議が行われ、業務連絡が行われている。
教頭であるケルトゥリ・エイルトヴァーラの凛とした声が今朝も響く。
「では職員会議を始めます。今日の議題はまず2年生の専門科目選択のスケジュールの件です」
体験授業が今週で終了し、クラス入室の希望を明日で締め切るのだ。
「明日の金曜日に一旦締め切ってから確定したクラスの1次発表を週明け月曜日に行います。それを見据えて火曜日に生徒の2次申し込みを行い、その日のうちに定員に達したクラスは更に確定として水曜日に発表します」
中間発表にあった通り、人気のあるクラスはもう満枠以上となっており入室試験は必須の状態だ。
ここで生徒達に申し込み状況を見せた上で判断して貰い、比較的人気はあるが未だ競争の少ないクラスに振り分ける為の2次申し込みの設定である。
その上でいよいよ入室試験とクラス確定の説明だ。
「1次、2次の申し込みを経てその上で満枠以上の、すなわち定員オーバーのクラスは木曜日に入室試験を行う事とします。これは筆記、実地で行い、そして今迄の成績を加味して入室する生徒を担当教師が決定します。この結果は翌日の金曜日朝には発表し、希望のクラスに入れなかった生徒は同日中に3次申し込みを行い最終的に所属を確定します。少々予定が押し気味ですが心得ておいて下さい」
コホンと咳払いをしたケルトゥリ。
未だ連絡事項がありそうだ。
「次は魔法武道部に対して申し入れのあったロドニアとの対抗戦の件です。こちらの選抜チームとあちらの選抜チームが戦士と魔法使いの混成チーム同士でという話でしたが、万が一相手の攻撃で怪我などして何か手違いがあった場合、遺恨が残るという王国の判断が下りました。よって「このような時の為に使え」とのお達しですので『狩場の森』にての魔物狩り対抗戦と決定致しました」
ルウはそれを聞いて王国の外務担当者も悩んだであろうと苦笑した。
あの時魔法武道部を見学したロドニア王国騎士団副騎士団長マリアナ・ドレジェルはほんの軽い気持ちで試合をしたいと考えたに違いない。
しかし国同士の対抗戦となると負けた方は当事者同士より周囲に何かしら後味の悪さが残る者も存在する。
それが怪我でもしたら決定的だ。
担当者もそれを危惧したのに違い無い。
「出場者はこれから学園内で詰めて頂き、時期に関しては双方で相談して決めて欲しいと王国からは指示が来ています。これはシンディ先生とルウ先生が中心になって進めて下さい」
「了解です」「分った」
2人が返事をすると何人かの先生が「大変だなぁ」という同情の視線を投げ掛けて来た。
ただでさえこれから6月に入ると先程の専門科目、夏季休暇の前の期末試験、夏期講習の準備等で忙しいのである。
シンディ・ライアンとルウは違うが、3年生の担当はこれに進路指導が加わるから尚更だ。
「何か質問は? ……無いようですね? ではこれで職員会議を終わります」
ケルトゥリの会議終了の挨拶と共にシンディがルウの傍に来て告げる。
「午後3時過ぎからこの会議室で打合せしましょう」
当然打合せの内容はロドニアとの対抗戦の件であろう。
ルウは了解して「宜しく」と返事をしたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園4階会議室、木曜日午後3時10分……
ルウが午後の授業を終えて会議室に向うとシンディは既に考え事をしながら待っていた。
ルウが待たせた事を詫びるとシンディは笑顔で首を横に振った。
「良いのよ。それよりルウ君、悪いわね。今回も面倒な事に巻き込んで」
シンディは申し訳無さそうに言う。
元々、魔法武道部の顧問はシンディだが1年生のクラス担任やその他の業務でルウに副顧問を頼んだ経緯がある。
その上、彼にはそれ以外の仕事でフォローして貰ったりやプライベートでは息子ジョナサンの件でも世話になった事もあって感謝しきりなのだ。
「ああ、そういえば今度フランちゃんを連れて家に来てくれないかしら。夫がゆっくりと話がしたいそうよ。ちゃんとお礼が言いたいんですって」
そういえば彼女の夫キャルヴィンはフランの父である故フレデリク・ドゥメール伯爵とは親友だったと聞いている。
フランと結婚してから改めて報告に行かないといけないとルウは思っていたのだ。
「構いませんよ、本当はこちらからお伺いしなくてはならないのに申し訳ないです。ジョナサンも元気ですか?」
「ええ、元気も元気! やっぱり将来の希望と許婚の両方が出来ると違うわね。毎日が充実している様子が傍から見ていても伝わってくるわ」
シンディの顔がぱっと明るくなった。
この様子ならジョナサンの許婚であるエミリーとの仲も上手くいっているに違いない。
それを見てルウはふとジョルジュの事で喜んだアデライドの顔を思い出した。
親が子供の事で嬉しい顔になるというのは見ていて微笑ましくなるとルウは感じたのである。
「ふふふ、前置きが長くなったわね。じゃあ本題に入りましょうか?」
「ああ、頼みます」
「ルウ君は『狩場の森』の勝手は知っているものね」
狩場の森……少し前の事なのに懐かしい響きである。
あの森での対決がなければジゼルとナディアはルウの妻になっていなかったかもしれない。
「それがね。『狩場の森』の為の魔物の手配には困らないそうだけど、最近は周辺の森でも何故か魔物が大量発生しているそうなの」
魔物の大量発生……
楓村といい、リーリャの件といい、またアッピニアンを始めとした邪悪な者が蠢いているのだろうか?
ルウは腕組みをしながら黙って頷いた。
「狩場の森への往復は夫に頼んで王都騎士隊に出動して貰うつもりよ。ロドニア側も王女の警護で女性騎士は全員来るでしょうし、あの王宮魔法使いの……」
「ラウラかな?」
「そうそう、リーリャ王女の師匠である王宮魔法使いラウラ・ハンゼルカさんも試合をすると同時に王女の警護にあたるでしょうね」
「そうなるだろう。それにいざとなれば、俺も従士達を呼ぼう」
ルウの言葉にシンディも満足そうに頷く。
「それなら警護は万全ね。問題は日程だけど6月は厳しいわ。学園の業務が目白押しだし、こちらは学生、あくまでも学業が本分だから当然優先はそっちよね」
この対抗戦はあくまでもエキシビションである。
シンディはそう述べているのだ。
「俺もそう思いますよ。となると時期は夏季休暇直前の7月初めですか?」
「ええ、上期の終業式が7月10日だから必然的に7月1日から9日までの間になるわ」
これで日程は大凡決まった。
試合内容も狩場の森で実施だからポイント制の魔物討伐だし、後の仕事は双方への連絡と了解を貰うこと、そして学園への報告である。
「双方の連絡と調整は俺がやりましょう、学園への報告の方をお願い出来ますか?」
それを聞いたシンディは相変わらずルウは優しいと感じた。
煩雑で大変な仕事の方を引き受けると進んで申し出てくれたからである。
「ありがとう! やっぱり貴方はフランちゃん達から好かれるわけだわ」
褒められて照れるルウをシンディは姉のような慈愛の篭った眼差しで見詰めていたのであった。
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『異世界中二病ブローカー、俺は世界を駆け巡る』※タイトル変更しました。
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