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第288話 「バランス感覚」

 魔法女子学園本校舎4階男子用ロッカー、午後3時45分……


 魔法武道部の顧問シンディ・ライアンとの打合せが終わったルウはロッカーで素早く革鎧に着替えた。

 副顧問として魔法武道部の指導をする為に屋内闘技場に向ったのである。

 本来、今日は顧問であるシンディが監督役として出る予定(スケジュール)だ。

 だがロドニアとの対抗戦の概要を2人で揃って一緒に伝えようという事になり、彼女と共に出張(でば)る事になったのだ。


 屋内闘技場に着くと部員達は既に魔法発動の為の呼吸法やストレッチをして今日の訓練に備えている。

 ルウの姿を認めるとあちこちから彼に対して「お疲れ様です」と挨拶の声が掛かった。


 ルウが副顧問になってから今年は退部する生徒が全く出ないと学園内では評判である。

 しかしルウ自身は自分の功績としてそう言われるのを嫌がり、顧問のシンディ・と相談して彼女が最終的に今迄の指導方法を変える英断をしてくれた事が大きいと答えていた。


 魔法武道部の雰囲気は大きく変わった。

 普段から明るい声に満ち溢れている。

 これまで退部者が多かった1年生だが、今年新たに入部した1年生15人に関しては退部者が全く居ないのが最も大きな原因だ。

 またルウの進言により伝統的な女性騎士を育成する、型にはめたような画一的な指導は影を潜め、逆に個々の長所を伸ばすような指導に変更した事で各自のレベルアップがはっきりと表れている。

 戦うごとに変わる応用力、瞬時の判断力、冷静な対処なども磨かれており、その手応えがモチベーションの高さに繋がっていたのである。

  

 クラン形式の実践訓練を重視した為のメリットは他にも数多く得られている。

 チームワークがいかに大切かを部員が実感し、お互いの絆が深まったのだ。

 

 ルウが部長のジゼルに命じて部員全員を並ばせる。

 そこにシンディがやって来て挨拶をした後、早速本題に入る。


「皆さん聞いて下さい。以前、話が出ていたがロドニア王国との模擬試合の日程と内容が大凡決まりました」


 シンディの言葉に部員達が色めき立つ。


「ここまで発表が延びたのは内容に関して王国内で様々な意見が出たからです。結局は両国の関係を考えて直接対決は無くなりました。これは王国としての最終決定です。時期は7月初旬、場所は『狩場の森』、方法はチーム対抗で魔物討伐によるポイント制の勝負です」


 おおおっ!

 部員達にとっては思いもよらなかった展開なのであろう、大きなどよめきが起こっている。


「相手は10人程度となりますから、こちらも同じくらいの人数の選抜メンバーで行きます」


「はいっ、シンディ先生。質問しても宜しいですか?」


 ここで1年生のイネス・バヤールが挙手をする。


「ええ、答えられる範囲のものならね。何かしら?」


 質問を許可されたイネスは気合の入った顔付きだ。


「この試合って1年生が選ばれる可能性はありますか?」


 イネスが言った事は試合のメンバー選抜に関しての質問だ。

 今回は外国とのエキシビションマッチだが、今迄の部の方針としては、年功序列的に3年生の実力者から順番に選ばれる傾向が強い。

 魔法女子学園に入って来る生徒は基本、貴族令嬢が圧倒的に多いのでそれまで武道をやった事のない娘達が殆どだ。

 しかし中には幼い頃から大人顔負けの天才的な才能が開花する者も居る。

 そのような人間にとっては魔法武道部に入ってからの経験で実力を推し量られてしまう事が不公平に映ってしまうのだ。


 シンディが顧問になってから数年が経つが彼女自身、その方針に対して疑問を抱いていた1人であり、その悪しき慣習をやめて基本的には実力主義を心がけて来たが充分とはいえなかった。

 地道に訓練を続けてきた3年生と天才的な1年生……シンディはその狭間で悩んでいたのである。


「ええ、可能性は充分にあるわ」


 シンディは曖昧な言い方をした。

 はっきりした条件を切り出すのは今の彼女にとっては難しい注文であった。


「どのようにすれば選んで頂けるのでしょうか? こんな機会は滅多に無いですし、1年生全員はそれを知りたがっています」


 シンディはほうと息を吐いて目を閉じた。

 イネスの気持ちも良く分る。


 そうした実力者を何故選ばないのか?

 イネスはそう言いたいに違いない。


 上級貴族の令嬢ではない生徒達は魔法女子学園で学ぶ事、体験する事を将来の生活の糧とすべく必死だからである。

 

 騎士爵の娘であるイネスもそう恵まれた環境ではない。

 2年生の先輩であるミシェル・エストレやオルガフラヴィニーと同様に将来、王都騎士隊入隊を夢見るイネス。 


 彼女はこの親善試合において自分を強烈にアピールさせたいのであろう。


「シンディ先生、ここは俺が説明しましょう」


 ルウがシンディに助け舟を出そうと説明を申し出た。

 さすがにイネスが就職に有利だから申し入れた質問云々等、露骨な事は言えない。

 シンディが頷くとルウはイネスに向き直った。


「こういった試合も含めて俺達教師が生徒を選ぶ基準、それはバランス感覚だ」


「バランス感覚……ですか?」


 意外な回答に戸惑っているのであろう。

 イネスは目を見開いていた。


「ああ、肉体的には平衡感覚とも言うな。イネスは知っているだろう?」


 ルウの言うバランス感覚ならイネスも知っている。

 けれどそれが何故選考基準なのであろうか?

 イネスの表情を見たルウはいつものように穏やかな表情で話しだした。


「運動している際に傾きを察知する感覚がバランス感覚だ。こういった肉体的なバランス感覚も大事だが、ここで俺が言いたいのが人間的な魂(こころ)のバランス感覚だ」


「人間的な……魂のバランス感覚?」


「そうだ。真逆な事を客観的に受け入れられる事が出来るかが魂のバランス感覚だ。すなわち自分が行った事を冷静に振り返って瞬時にどれだけ対処出来るか、それは戦いの際には絶対必要なものだからさ」


「先生……それって」


 イネスにはいまいちピンと来ないようだ。

 ルウは戦場に例えて説明しなおす事にする。


「済まない、分り易く言おう。人間は自分の決まった価値観から中々抜け出せない。それが間違っていたとしてもだ。戦場においてその間違った判断のまま進んだら自分は勿論、仲間を敗北に導いてしまうと思わないか?」


「はい! その通りです」


 今度はイネスは大きな声で返事をしたし、頷いている生徒が多々居たので皆も理解したようだ。


「バランス感覚に優れた人間は生き方に筋が通っていながらも、1つの価値観に囚われずもし間違っていたらそれを潔く認識して切り替える事が出来る。これが戦場でも自分と仲間の命を救う事になる。だから俺が選抜チームを選ぶとしたら……技術も確かに大事だが、いかに自分を客観視出来る者かをシンディ先生に対して推薦するだろう」


 続いて話したルウの言葉を全員がじっと聞いている。

 シンディさえも納得したようだ。


「ルウ先生の言う通りね。その上、今回は団体戦だからバランス感覚はとても重要視されると思う。私も技術と共にそこを見るわ」


 部長のジゼルがそこで自分の思いを吐露する。


「皆、聞いてくれ。私は今まで考え方に一方的な所が多々あった。最近は少しだけだが冷静に自分を振り返る事が出来るようになった。それはとても大切な事だと実感しているから先生方の仰る事は良く分る」


 部長の思いがけない言葉に部員達は驚いた。

 そんな部員達に対してジゼルの話は続く。


「私達3年生は秋……9月一杯で部を引退する。毎年壮行試合をその時期に学園内で行うが、私の気持ちとしては今回の親善試合がそれだと考えている。大事な試合だな、これは……だからこそ、このように未熟な私だが今回選ばれるように頑張ろうと思う」


「わ、私も選ばれるように頑張るぞ。ジゼル!」


 叫んだのは副部長のシモーヌである。

 退部者続出で存続が危ぶまれた魔法武道部をジゼルと共に必死に支えた彼女は感極まっているようだ。


 そんなシモーヌの声が合図となったように部員達全員が続々と自分の思いを高らかに口にしたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


新作始めました。

こちらもご一読の上、宜しければお引き立てお願い致します。


『異世界中二病ブローカー、俺は世界を駆け巡る』※タイトル変更しました。


http://ncode.syosetu.com/n6316cp/

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