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第120話 「再起」

「侯爵をどうしたのかね? まさか殺したのか?」


 驚いたジェラールが尋ねてもルウは首を振るだけだ。


「殺してはいません。ただ侯爵は暫く目を覚まさないでしょうね。少しして意識を取り戻した時に彼は全てを白状して罪を認め償う事になるでしょう。それにこの屋敷に向かう多くの『気』を感じます。おそらくライアン伯爵の部下である騎士達でしょう」


 そしてルウはジェラールとアルノルトに向き直り促したのである。


「そんな男の事より学園に行ってジョゼに無事な顔を見せてあげましょう」


 それを聞いて今迄黙っていたアルノルトが口を開いたのだ。


「ご主人様、私もジョゼフィーヌ様が気になります。ここはルウ様と共に参りましょう」


 ルウとアルノルトから言われてようやくジェラールも頷いた。

 そしてまたルウが地の精霊ノーミードを呼び出すと3人の姿はあっという間に消えてしまったのである。


 ―――ジェラールとアルノルトが辺りを見るとまたもや景色が変わっていた。

 少し先には魔法女子学園の正門が見えており、2人は吃驚して暫く固まっている。


「さあ、行きましょうか」


 再びルウに促されて歩き出す2人。

 2人の後ろから歩くルウの指がパチッと鳴った。

 警護の騎士に使った「忘却オブリーヴィェン」の魔法である。

 これでジェラールとアルノルトの記憶はルウが指定した部分だけ曖昧となる。

 別に2人を信じていないわけではない。

 だが2人のうち特にジェラールは「公人」である。

 彼が婿の自慢と言う形でうっかり口を滑らせたらお互いが不幸になるからだ。


 やがて正門に着いた3人。

 警護の騎士がルウを認めると真っ先に駆け寄って来た。


「ルウ様、ご無事で! あ、ギャロワ閣下も!」


 私はついでか? と苦笑するジェラールであったが、騎士にジョゼフィーヌの所在を問い質した。


「先程、生徒の1人が連絡に来てお嬢様は意識を取り戻され元気だそうです」


「意識を? どういう事だ、ルウ」


 騎士に先導され、ルウに事情を聞きながら再び歩き出した2人。

 そこでルウはダニエルの嫡男ゴーチェが来て吐いた暴言がもとでジョゼフィーヌが気絶したと話したのである。

 先程まで侯爵に寛容さを見せていたジェラールであったが、ジョゼフィーヌが受けた仕打ちには激怒した。


「そうか……許さんぞ、アルドワンめ!」


「まあ、今頃奴は文字通り地獄を見ている事でしょうから」


 拳を握り締め、怒りが収まらない様子のジェラールであったが、やがて救護室に到着すると愛娘の名を呼び、中に飛び込んだのである。


「ジョゼ!」


 続いてアルノルトも孫同然に可愛がっているジョゼの様子が心配で主人に続いたのだ。


「お嬢様!」


「お父様! 爺や!」


 こうして3人は涙を流してお互いの無事を確かめあったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園午後2時……


「では私は屋敷が心配ですので一足先に帰ります」


 家令のアルノルトはジョゼが無事なのを確かめると護衛の騎士数名を伴い、一足先に馬車でギャロワ伯爵邸に戻って行った。

 今、屋敷の留守を守っているのはモーラルとケルベロスというコンビの筈だ。

 残念ながら買収された使用人達は解雇した上で罰を受ける事になるだろう。

 しかしジェラールは彼等の罰が『王都所払い』くらいに止まる事を望んでいる。

 彼等のような弱い立場の人間は基本、長いものには巻かれるしかないからだ。


 アルノルトが学園を出発して直ぐに理事長室に呼ばれたジェラールはアデライドを訪ねていた。

 寛ぐように言われたジェラールは肘掛付き長椅子ソファに座ってアデライドに紅茶とお茶菓子を振舞われている。


「ジョゼも午後は授業に出られてよかったわね」


「ドゥメール伯爵、貴女があの子の事をジョゼと呼ぶとは……」


「ええ、私の娘フランシスカだけでなくジゼルもナディアもそしてオレリーという平民の娘もルウを通じて皆、私の娘になったわ。そして今度はジョゼもね。賑やかになって本当に嬉しいわ」


 アデライドにとっては確かにそうであろう。

 しかし自分は……ジョゼが出て行ったらアルノルトと2人で寂しい生活が待っているのだ。

 そう思うと彼の心は晴れなかった。


「あら、お顔の色がすぐれませんね。でもギャロワ伯爵、貴方もこれから私達の家族の一員なのですよ」


「ははは、それは光栄ですな。ありがとうございます」


 そう言いながらジェラールは全く上の空である。

 そんな彼を見たアデライドは「伯父様」とドアの方に向かって声を掛けたのである。


「伯父様?」


 怪訝な顔をしてドアの方角を向いたジェラールであったが、ノックも無しに開いたドアの向こうに立っている人物を認めるとハッと息を呑んだのである。


「た、大公閣下!」


「ギャロワ、そんな大仰な名ではなくエドモンで良い」


 ずかずかと部屋に入って来たエドモンはジェラールが座っている向かい側の肘掛付き長椅子ソファに身を投げ出すように座ったのだ。


「まあ楽にしろ、ギャロワ」


「は、ははっ!」


「お前の進退の件は取り消しだ。それに寄り親はこれから儂がなってやろう」


「そ、それは!?」


 いきなりのエドモンの切り出しにジェラールは戸惑っていた。


「陛下には儂から話を通しておく、良いな?」


 自分に視線を感じるジェラールであったが、そちらを見るとアデライドがゆっくりと頷いている。


「ははっ! ありがたき幸せ」


「何か困った事があれば遠慮なく申すが良い。その代わり儂はこきつかうからな」


 エドモンが期待されている人材には大変な仕事量を課す、ジェラールだけではなくこのヴァレンタインの貴族達には有名な話である。

 だからこそ!

 ジェラールは逆に闘志が湧いて来たのだ。 


「いかようにも!」


 捨てる神あれば拾う神あり……

 貴族として終わったと思った自分がまた再起して思う存分働けるのだ。


 引退は当分、撤回だな。


 ジェラールは晴れ晴れとした顔でそう決意していたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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