第112話 「心強い味方」
魔法女子学園理事長室午後5時……
生徒会室での話し合いの結果により、ジョゼフィーヌを助ける事にしたルウ達。
ルウと共に歩いて行くと決めたジョゼフィーヌは改めて父ジェラールと話し合う必要があったが、面子を潰されたアルドワン侯爵家の方も黙っているとは思えず、いろいろな可能性を考えて手を打つ必要が考えられていた。
事が事なのでフランは当然、母であるアデライドにも報告し、相談する。
幸いアデライドの反応は至極真っ当なものであった。
「フラン、貴女の言う通り、まあ……良くある話ね。彼女の見合い相手のアルドワン侯爵家の次男だけど悪評ばかりの放蕩息子よ。何故ギャロワ伯爵はそんな見合いを勧めたのかしら?」
アデライドの疑問に答えたのは当のジョゼフィーヌである。
「父は昔からアルドワン侯爵にお世話になっていまして……その……私が子供の頃、約束したらしいのです。自分の子供同士を結婚させると……」
ジョゼフィーヌの言葉に納得して頷いたのはフラン以下貴族の令嬢達である。
この国の親しい貴族同士ではよくある事らしい。
憮然として納得がいかない顔をしているのはオレリーだけであった。
それを見たアデライドはまあまあとオレリーを宥めると、今度はルウに向かって何か考えはあるのと尋ねたのである。
それに対してルウはゆっくりと頷き、自分の考えを述べ始めたのであった。
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ギャロワ伯爵邸午後6時30分……
「ジョゼは未だ帰って来ないのか!?」
心配そうに声をあげたのはジョゼフィーヌの父であるジェラールである。
「はい、護衛の騎士ともども未だお帰りになっておりません」
苛立つ声に冷静に答えた老齢の男がこの屋敷の家令であるアルノルトだ。
「学園からも特に連絡はありません」
「ううむ、こちらから馬車を迎えに行かせるか?」
ジェラールは軽く頭を掻き毟りながら、昼間の事を思い出していた。
王宮に出仕するとイジドールの父であるダニエル・アルドワン侯爵が腕組みをして難しい顔をしながら彼を待ち構えていたのである。
「閣下? 何か?」
ジェラールの言葉に対してダニエルは黙って首を横に振った。
「何か? では無い。君の娘はとんでもない恥知らずだ」
「は、恥知らずとは!? いきなり失礼では無いでしょうか? いかに閣下といえども私の娘をいきなり侮辱されるのは我慢なりませんな」
ジェラールの言葉を聞いたダニエルは更に憮然とした表情になる。
「君は何も聞いていないのか!? 君の娘、ジョゼフィーヌはよりによって見合いの席でイジドール対して、自分には惚れた別の男が居るなどと、ほざいたそうではないか?」
「ええええっ!?」
「その様子では本当に何も知らんようだな」
驚愕するジェラールの表情を見て、ダニエルはふうと深い溜息をついた。
「私の息子イジドールは放蕩息子と噂される問題のある男だ。しかし君の娘を娶ってギャロワ家を継げば、少しは自覚が出て来ると君とは話したのだったな」
「ぎょ、御意!」
「帰って、娘とゆっくりと話してみるがいい……」
ダニエルはジェラールに、何とか怒りを抑えているという顔をして首を傾げると彼の前から去って行ったのである。
確かにあの日、見合いから帰って来たジョゼの様子はおかしかった。
私が声を掛けても悲しそうな顔をして何も言わず、さっさと自分の部屋に引っ込んでしまった……
その様子を思い出してジェラールは胸が痛む。
ちゃんと話を聞けばよかったと彼は後悔したのだ。
そして今夜こそ、娘とじっくり話そうと待ち構えていたのである。
しかしその娘がなかなか帰って来ない。
その時であった。
使用人の1人が娘の帰還を報せて来たのである。
「お、お嬢様が! い、今お戻りになりました」
「な、何っ!?」
拳を握り締めて椅子から急いで立ち上がろうとするジェラールに家令のアルノルトがやんわりと上申する。
「ご主人様、いきなり頭ごなしにお叱りするのはよろしくございませんぞ」
ジョゼフィーヌがまだ幼い頃、彼女の母、すなわちジェラールの妻が亡くなってからは、普段公務に忙しい彼に代わって彼女の養育を行ったのはこのアルノルトだったのだ。
そんなアルノルトなので父ジェラールと同じくらいジョゼフィーヌに対する愛情は深い。
「わ、分っておるわい」
2人は取り急ぎ、屋敷に着き停車している馬車に向かう。
扉が開いて降り立った1人は確かに我が娘であったが……
「お父様、爺や、只今戻りました。遅くなってご心配をおかけしまして申し訳ありませんでした」
そう言えばとジェラールは思う。
我儘放題だったジョゼフィーヌの言葉が最近礼儀正しく、物腰が優しい。
そうかと思うと何かせつなく寂しげな表情を見せる……
ジェラールには愛娘に何か悩みがあると思っても、どう相談に乗って良いか分らなかったのだ。
そんな時ジェラールは男親である限界を感じてしまう。
もう1人……何となく見覚えはあるが、あれは誰だろうか?
彼女と一緒に居る魔法女子学園の生徒らしい長身の1人の少女がにこやかに自分に微笑みかけたのだ。
ウェーブのかかった豊かな金髪が揺れ、ダークブルーの瞳には少し憂いが宿っている。
そんな思いに耽っていたジェラールはその美しい少女の声で我に返った。
「ギャロワ伯爵……ですね。改めまして……私はジゼル・カルパンティエ、学園での彼女の先輩です」
「ああ、カルパンティエと言うと貴女はあの時の……」
「はい! レオナール・カルパンティエの次女のジゼルです。以前、王宮の晩餐会でお会いした時はご挨拶だけしましたね」
凜とした声がジェラールの耳に響き、彼は記憶を呼び覚ました。
カルパンティエ公爵が3人の子供の中でも特に可愛がっている子だったな。
確か、晩餐会では娘の自慢ばっかりしていたか……
「今日は伯爵に相談があって彼女と一緒に参りました。内容は良くご存知だとは思いますが」
ジゼルのその言葉にジェラールは複雑な表情で応えたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギャロワ家応接室午後7時……
ジェラール、ジョゼフィーヌが向かい合い、それをジゼルが見守る形で話は進められていた。
「お父様が私の結婚の件で話を聞いていただけないから、思い切って生徒会長のジゼル先輩に相談したの。そうしたらとても親身に相談に乗っていただいたわ」
嬉しそうに喋る娘の声がジェラールにはとても遠い所で話しているように聞こえていた。
ジョゼフィーヌはそんな父親を見て言葉を続ける。
「私もこのギャロワの家が大事だという事は分ります。だから……私はお父様の言う通りに、あの方……イジドール様にお会いしたのです」
でもと……ジョゼフィーヌは口篭ると父に初めて悲しげな表情を見せる。
「しかしイジドール様は私の事を『飾り物の妻』だと仰いました。また私と彼の結婚は我がギャロワ家がアルドラン侯爵家に便宜を図っていただく為のものだと……お父様はそれを承知だぞと彼は面白そうに笑ったのですわ」
ジョゼフィーヌは遠い目をしてふうと息を吐いた。
「そんな男のもとに嫁ぐのか……絶望感に囚われた私はつい、いけない事を口走りましたの」
ジョゼフィーヌはそう言うと力無く目を伏せたのである。
「ジョゼ、下を向く事は無い。お前はそんな酷い男ではなく、大事な愛する男が居るのだから」
はっきりと父上に告げるが良いと、ジョゼフィーヌを励ましたのはジゼルであった。
その言葉に支えられたのか、彼女は声を搾り出す。
「は、はい! お父様、私はもうお慕いしている方がいらっしゃいます。その方の為に私は今迄の自分を変えたいとも考えていますわ」
そしてジョゼフィーヌは顔をしっかりとあげて父ジェラールを力強く見詰めたのであった。
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