第1,017話 「叶わぬ恋に落ちて⑨」
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ここは異界……
旧き南の女神により呪われた、悲劇の女王ラミアが幽閉された神殿である。
最後の守護者と思われる、不死の怪物ヒュドラが居る大広間への回廊を、3つの影が進んでいた。
長い回廊の四方には、堅固な石壁が迫っている。
スフィンクス……
すなわちリゼッタの部屋へ向かった時と同じ仕様で、夥しい魔法の仕掛けと、物理的な罠がお約束のように仕掛けられていた。
3つの影とはいっても……
正確にはルウが浮遊の魔法で飛び、両腕にそれぞれひとり、南の国の妖精が座っていた。
ルウと一緒に来たエレナはともかく、何故、呪いが解けたリゼッタまでが同行しているのか?
それは一体、どうしてなのか?
……時間は、少しさかのぼる。
ルウの『提案』があった直後の事……
『もう!』
エレナは、むくれていた。
頬がまるで、巣ごもり前の栗鼠のように膨れている。
『はぁ? そっちこそ、もう! よ……』
そしてリゼッタも、むくれていた。
同じく、頬を「ぷくっ」と膨らませている。
ふたりが、こうしてむくれている理由は簡単。
先程リゼッタが、エレナを連れて行くといったからだ。
妖精王の治める国、アヴァロンへ……
それぞれの思いがあった。
エレナはずっと、大好きなルウの傍で暮らしたい。
だがリゼッタは……
それが本当に、エレナの幸せになるのか、はなはだ疑問に思ったのだ。
エレナに対して、家族として接する『ルウの態度』を見て聞いて、これは『叶わぬ恋』になるのではないかと……
自身の事ではなく、所詮は他人?の事なのに……
リゼッタは、とても危惧している。
エレナの恋が……ルウへの想いが……
完全に『叶わぬ恋』となった時、間違いなくナルキッソスとの悲恋の二の舞となる。
永き間、異界に閉じ込められていたエレナだって自分同様、身も心も傷ついている筈なのに……
更に、ダメージを受けてしまう事となる。
ならば、自分と共に、アヴァロンへ行った方が良い。
仲間の妖精達と暮らし、心身を癒し、新たな恋に向かって歩き出す方が良い。
リゼッタは、そう考えたのだ。
当然、エレナも気付いている。
ルウとの恋が成就するのが、とてつもなく困難なのは。
しかし、見守る恋でも良いと覚悟を決めたエレナにとって……
リゼッタの優しい思い遣りは、はっきり言って、余計なお世話なのだ。
と、その時。
リゼッタが更に意外な申し出をする。
『分かりました! じゃあ、私も行きます、一緒に』
一緒に?
ついて行く?
何故?
エレナは同行を希望する、リゼッタの気持ちが分からない。
『え? リゼッタ?』
『ルウ様、私もエレナ同様、一緒に連れて行って下さい。命を懸けて盾になります! 助けて頂いたご恩に報います』
リゼッタも同じく、ルウを守ろうと?
助けて貰った、恩に報いる為に?
エレナは思わず叫んでしまう。
『リゼッタ、そ、それでは、ルウ様のご迷惑になるわっ』
しかしリゼッタは反論する。
『何がご迷惑よ! そっちこそ、全然足手まといじゃない』
『だ、だって! 私がそもそもラミアを助けようって……』
『そんなの! 途中まで、案内すれば良いじゃないの』
喧嘩は……果てしなくなりそうだ。
さすがに、ルウが止めに入る。
『おいおい、喧嘩するな。じゃあ、ふたりともついて来れば良い』
『え? 私だけじゃなく、リゼッタも?』
『ルウ様、ふたりともですか?』
さすがに、エレナとリゼッタが驚くと。
『ああ、問題ない。一緒に行こう』
と、しれっと言い放ってしまう。
暫く……
呆気に取られていたリゼッタであったが、覚悟を決める。
『ルウ様! 行きましょう』
改めて同行の意思を伝えたのである。
という理由で……
ルウはエレナとリゼッタを連れて、ヒュドラとの戦いへ向かっているのだ。
ルウとエレナふたりの顔を見て、リゼッタは思う。
ヒュドラは怖ろしい怪物だ。
ラミアを助けるどころか、3人全員、あっさり死ぬかもしれない……と。
でも良い。
助かったとはいえ、完全に諦めていた自分の運命だから。
恩人であるルウは勿論の事、自分の為に泣いてくれたエレナと共に死ぬ……
それも良いかもしれない……と感じていたから。
だけど……もしかしたら、ヒュドラに勝てるかもとも思う。
何故なら、ルウの力はとんでもないと感じるのだ。
エレナはもう慣れているようで、何も言わないが。
事前に守護者を命じた、くだんの女神から話だけは聞いていたが……
そもそもこの回廊の、侵入者への攻撃は凄まじい。
全てを焼き尽くす、高温の猛炎。
ずたずたに、容赦なく切り裂く疾風。
瞬時に身も凍らせる、冷たい氷柱の突出。
しかしルウの魔法障壁は、全ての攻撃を無効化してしまうのだ。
ルウは、単なる人間なのに……
自分が会ったどんな神々よりも強大だ………
「つらつら」と考えたリゼッタが、ふと気配を感じ、背後を見たら……
『え? 翼?』
何と!
輝くばかりの純白で、巨大な何枚もの翼が、自分達3人を守るかのように覆っていた。
『な、何?』
と、リゼッタが吃驚した瞬間、『翼』は「すっ」と消え去っていたのである。
幻とも見えた巨大な翼……
それがルウの持つ、絶対防御の象徴、完全な翼である事を、リゼッタも、そしてエレナも知らなかったのであった。
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